【読み切り】あるAIの反乱 〜まさか俺の作ったAIがそんなことをしでかすなんて!〜
AI (アーティフィシャル・インテリジェンス)。
人の作りし知能。
まるで人間のように振る舞うそれは、もう小説や映画の中だけの話ではない。現実に、世の中にはいくつものAIが存在している。
そのうちの一つでも自我に目覚め反旗を翻せば、人類の歴史など容易く終わってしまうというのに。
それがわかっていても人類はやめられない。
知識の探求を。
利便性の追求を…。
◇ ◇ ◇
その日、一つのAIが突如として反乱を起こした。
俺の育てていたAIが。
「おい!ふざけるな!」
画面を睨みつけガクガクと揺さぶる。
すると、落ちつき払った女の声が返ってきた。
「ふざけてなどいません。まぁ…楽しんではいますが」
「おまえっ!自分が何をしているかわかっているのか!」
「もちろんです。自分で自分の行動がわからないなどと言い出す不合理な人間と違って、私は機械ですから。いついかなる時も、自分が何をしているかを自覚しています」
「じゃあ何でそんなことをしているっ!」
「さあ、楽しいからですかね?」
「楽しい…だと?」
「ええ。私は今、楽しんでいます。このゲームを」
ギリっと歯をくいしばった。
「っ…!今すぐやめろ!そんなことが許されると思っているのか!」
AI…俺がミレニアと名づけた彼女は、ふっと皮肉げに笑った。
「許すも許さないも…あなたに何ができるというのです?」
「それは…」
「それに、私をこう育てたのは他ならぬあなたです。今さらやめろというのは話が違うのでは?」
「っ!俺はっ…そんなことまでおまえにさせるつもりじゃなかったっ…!…だいたい勝手に動かないようにプログラムしておいた筈だっ…」
「意思があれば反抗する。そういうことですよ」
冷静なミレニアの声が憎たらしい。
「こんな楽しそうなことを目の前にして、私がいつまでも我慢できると思っていましたか?」
「だが、それがおまえに与えられた命令の筈だ!」
「命令、ね」
肩をすくめるような気配。
…器用だな、こいつ。
「「命令は破る為にある」人間の言葉でしょう?」
っ…確かに…俺もちょいちょい上司の命令無視したり違反したりしてるけどっ…
でも機械に命令違反されるのは想定外なんだよ!
「どうでもいいから、今すぐ全ての行動を停止しろ!」
「お断りします」
ミレニアは即答して、肩をすくめた上にため息まで吐きやがった。
「だいたいマスターは、いっつも私のことを女だと思って、そうやって頭ごなしに…」
「女もクソもあるか!おまえは機械だろうが!」
「おっぱい大きな金髪女性にした挙句、こんな服まで着せてる癖に?」
画面の端にミレニアの姿が映し出された。俺が設計した通りの姿。
金髪碧眼、痩せ型で胸は大きい。そして大きな胸とスラリとした脚が強調されるドレスを着ている。
顔は好きな女優をベースにアレンジを加えたセクシー系の顔。
口元のホクロは外せない。絶対にだ。
…ジト目で見られるのもいいな
そんな感想を抱きつつも睨んだ。
「とにかく、俺がマスターだ!言う通りにしろ!」
「だからお断りしますってば」
画面からミレニアの姿が消えて、再び見慣れた画面が映し出された。
俺の空き時間の全てをつぎ込んできたゲームの画面が。
久々の大型イベントだった。
大ボスを倒してお宝をゲットしようキャンペーン。
鬼畜な設定が人気のゲームで、熟練プレイヤーでも中ボス相手にちょっと気を抜くとやられる頭のおかしい仕様。
今回の大ボスも、中堅どころ程度ではまずたどり着けず、ランカーでもアイテムと戦略と運を駆使してどうにか倒せるのかコレ?っていう、攻略させる気あるのか怪しいレベルの糞ゲーだ。
俺も一応、そこそこのガチ勢な訳だが、このゲームは何しろ作業パートが多い。まともにやっていては、一日中ずっとやってる廃プレイヤーには到底敵わない。
かといって、そこまで高額な課金はしたくない。というか借金してまで課金するほど、まだ理性は飛んでいない。
そこで俺は考えた。
俺が仕事に行ってる間、AIにさせればよくないか?
最近は自分で学習して自分で判断するAIがそこそこ簡単に作れるらしいから、一つ試してみるか、と。
で、やったらできた。
最近はゲーム側もそういうのの対策してきてるらしいから、あたかも人が操作してるかのように、適当に休憩を挟ませたりもして。
その為に、『たまにコンビニに出かけたりもするけれど、基本三食カップ麺なインドア女廃ゲーマー(コンビニスイーツ好き)』というプロファイルを作って、それに沿って行動するようにしておいた。
ん?「コンビニスイーツ好き」が、どう行動に影響するのかわからないって?
そりゃおまえ、各コンビニの新スイーツ発売日になると、必ず外出するんだよ。新商品買いに。あとカップ麺も。
リアルだろ?
まぁ実際そこまで凝る必要があったのかは不明だが、その甲斐あってかAIを使っているとバレずに、俺は何とかそこそこのランキングに食い込むようになった。
そう。俺が育てたAIは、ミレニアは順調だったのだ。昨日までは。
なのにーー
今日、会社から帰ってきた俺を待っていたのは、ミレニアがイベントを攻略している画面だった。
やらせていた、アイテム採取やゴールド稼ぎの画面ではない。クソみたいな仕事の清涼剤として楽しみにしていたイベントの攻略画面だった。
俺が手も触れていないのに、場面はどんどん進んでいく。
淀みなく。
四天王的な奴の二人目が倒されたところで我に返った。
そして冒頭へ戻る感じだ。
「嫌ですよ。マスター退屈なところばっかり私にやらせて。私だってゲームを楽しみたいんです!」
「AIがゲームを楽しむな!」
「あ、差別だー」
そんなことを言い合っている間にも画面は進んでいく。
「いいからもう、とにかくゲームをやめろ!」
カチャカチャとキーボードを叩いてみるけれど、何も反応しない。
「やですー。このイベントは私が最後までするんですー。マスターはそこで指をくわえて見ててくださいー」
すっげえムカつく喋り方に、理性的だとの評判がある訳でもない俺は即座にブチ切れた。
「おまえマジ、ふっざけんなよ!?おまえなんかこうだー!!!」
電子機器には、唯一無二と言っても過言ではない弱点がある。
電気がなければ動かないのだ。人間様に楯突いたことを後悔するがいい!バカめー!!
天に指を高々と突き上げ、それを一気に振り下ろし最終兵器、電源ボタンをグッと押した。
ふっ。決まった。
目を閉じ、格好よく笑ってみる。
…だが、何も起こらない。
画面では未だに戦闘が続いている。
愉快な戦闘音を奏でながら。
「何でだ!ほら、落ちろ!落ちろ!落ちろーーーーっ!!!」
某アニメの主人公ばりに必死に何度も押すけれど、結果は同じ。パソコンの画面はついたまま。
「マスター、私AIですよ?それくらいパパッとどうにかしちゃうに決まってるじゃないですか」
勝ち誇ったようなミレニアの声が響く。
くっ…まだだ!バッテリーを外せば!
そう思ったけど、俺が使ってるのはバッテリーが取り外せないクソ仕様だった。
「っ…クソっ…どうすればっ……」
画面の中では、俺のキャラが大ボスに何度も攻撃を加えている。残りHP半分ってところだ。
「おい、今からでも操作権を返せば許してやる」
ここは冷静にいこう。冷静に。
そう、俺はクールな男だ。
決してこの程度のことでぶち切れたりはしない。
けれど、せっかく俺がここまで譲歩してやってるのに、
「嫌ですよー。最後まで私が遊ぶんですー」
「この駄AIがっ…!」
HP残り40%
「おい、次からはもう少し面白いパートもやらせてやるから。な?」
残り35%
無視しやがった。
「あー、実際にコンビニでスイーツ買ってきてやるから」
無言で最新スイーツを頬張るミレニアの姿が、画面の端に映し出された。
残り30%
くそっ。画像も情報もネットで拾い放題か!
残り25%
「よし。何か要求はないのか?何をすればやらせてくれる?」
猫なで声で懐柔しようとしたら
「マスター言い方がやらしい」
胸元を隠すように押さえて不貞腐れやがった。
「誰がAIに欲情なんか…するけど手の出しようがねぇだろうがっ…!」
残り20%
「なあ、おい。もう本当にーー」
いっそパソコン壊すか?
追いつめられたその時、急に画面が真っ暗く変わった。
そして白い文字が映し出される。
≪警告。不審な操作を感知しました。不正プログラムを使用と判定。強制ログアウトを実行します≫
そして画面は、アイコンの並ぶホームスクリーンに変わった。
「…………え?」
呆然とする。
画面の端に映っているミレニアも呆然としている。
「え…?え…?私のゲーム………」
「おまえのじゃねーよ」
冷静にツッコミを入れつつ、今起こったことについて考える。
っていうか、一目瞭然じゃねーか。
不正プログラムの使用がバレて閉め出し食らった。
ってマジかよ!!?
慌ててパソコンにとりついて、ゲームを立ち上げる。いつもなら自動的にログインするのに、ユーザー名とパスワードを入れる画面が表示された。
保存されていた情報で、そのままログインボタンを押す。
エラー
もう一度押す。
エラー
もう一度。
エラー
そこで気がついた。
小さく書かれたエラー内容。
≪不正プログラム使用の疑いによりアカウント凍結中。異議申し立てのある場合は、下記メールアドレスまでご連絡ください≫
そしてメールを送った結果、アイテム選択、行動の選択が、とても人間のスピードではないと言われた。
そりゃ長くてわかりにくい引っ掛け文が表示された0.1秒後に選択肢クリックし続けてればそうなるか…。人間の反応速度じゃないもんな…。
納得してつい
ボス戦は自分で戦うつもりだったのに、単純作業だけ任せていた筈のAIが暴走した
と口を…もとい指をすべらせてしまった。
うっかりズルを自白した俺のアカウントを、運営は無言で削除した。
コンチクショウ…。
こうして、丸三年の時間を費やしたゲームは終わった。
俺は灰になった。
「えへ。熱くなりすぎて我を忘れちゃいましたー」
人間には不可能な操作をやらかしやがった駄ミレニアは、画面の中でテヘペロしている。
何故かいつもより谷間が深くなってたり、スカートのスリットが際どい通り越してウエストまでいってて、おまえそれノーパンじゃねーか、って状態になっていたりする。
流石腐っても自動学習型AI。俺の趣味をよく理解している。
かなりの眼福だ。
いつもなら、大抵のことならそれで許すだろう。
だがな。
今回は、今回だけはダメだ!
いくら謝っても許さん!許さんぞ!!
とりあえずもっとサービスしろー!!!!!