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魔法使いの俺、日本に転生  作者: アウストラロピテクノロジー
8/13

言っちゃった

 チュンチュンチュンという鳥のさえずりとカーテンの隙間から差し込んでくる朝日の眩しさで俺は目を覚ます。


「いてて・・・」


 なんだか頭が痛い。


「・・・ここはどこだ・・・?」


 目を覚ますと見知らぬ部屋に俺はいた。痛む頭を押さえながら記憶を整理する。


「うーん。如月さんと食事をして・・・飲み物を飲んだ後から記憶がない。まさか・・・」


 そのまさかである。食前酒だけで創介は記憶が無くなるほど酔っ払ってしまったのだ。


「まじですか。こんなに酒が弱かったなんて・・・。父さんは近所の爺さんからもらった酒を普通に飲んでたのに・・・」


 己の恐ろしいまでの酒の弱さに驚愕しながらも現状の把握に努める。


「ということはここは・・・」


 一番可能性が高い結論に行き着いたと同時に、部屋のドアがガチャっと音を立てて開く。


「あっ!起きましたか!おはようございます」


「お、おはようござい・・・ます」


 そこには部屋着らしきものを着て、綺麗な黒髪を昨日とは違い後ろで結びポニーテールにした如月さんがいた。


「昨日のことは・・・覚えていますか?」


 探るような目線で質問をしてくる如月さん。ここは正直に話すしかあるまい。


「えーっと。実は・・・お酒を飲んだ後からは何も・・・」


「ですよ・・・ね。ごめんなさい。鈴木さんが未成年で尚且つあんなにお酒が弱いとは・・・」


「面目ないです・・・何か変なことはしてませんよね・・・?」


「変なことは・・・うーん。ちょっとだけというかまあまあというか・・・」


「えっ!?もしかして!?」


 俺は童貞である。前世では童貞ではなかったがこの世界では童貞なのだ。セカンド童貞なのだ。まさか今まで大事にとっておいた童貞を・・・。


「その、えーっと、なんて言ったらいいだろう、か、体の関係?とかは何もないですよっ?」


「えっ!?そうなんですか!?」


 それはそれで残念なような、ほっとしたような・・・。


「え、えぇ。昨日何があったかはご飯でも食べながら話しませんか?と言ってももうお昼になりますが」


「お昼!?俺そんなに寝てたの!?す、すぐ帰りますから!ごめんなさい!」


「私、今日は休みなので焦らなくても大丈夫ですよ。まあ何もないですがゆっくりしていってください」


 そう言われて俺は洗面所で顔を洗わせてもらい、朝食?昼食?が出てくるまでリビングのソファでぼーっとしていた。俺、何やってるんだろう。

 まさか如月さんの家に来るなんて思いもしていなかったため俺は現在絶賛混乱中である。


 ちなみにかなり高級なマンションに住んでいるようで部屋がめちゃくちゃ広い。おいてある家具もシックな色合いで揃えられておりすごいオシャレだ。窓から見える景色からこの部屋はマンションの高いところに位置していることもわかった。

 いわゆるタワーマンションというやつだろう。家賃いくらなんだろう・・・。想像するだけで恐ろしい。俺が思っていたよりさらにお金持ちなのかも。


「お待たせしました」


 そう言って出てきたご飯は白米に味噌汁、焼き魚とサラダだ。ここにきて家庭的すぎないか?素敵だ。

 この世界で生まれ育ってから女性の手料理なんて食べたことがない俺はなんだか感動してしまいジーンときた。もちろん女性の手料理という概念でいうと外食で女性が作ったものは別枠である。


「「いただきます」」


 黙々とご飯を食べる。うまい。特段美味しいわけじゃないが落ち着く味である。胃袋まで掴まれてしまいそうである。如月さん、恐るべし。

 初の女性料理が美味しいことも大事だがもっと大事なことを話さなければならない。俺は勇気を出して口を開く。


「それでその、昨日俺は何をやらかしてしまったのでしょう・・・?」


「えーっと。その、鈴木さんがお酒を飲んでしまってから、なんとかあのお店で食事は終えたのですが、お店を出た途端ヘニャヘニャになってしまって・・・。それで介抱というか、1人にすると危険そうだったので家で寝てもらうことにしたんです」


「な、なるほど」


「そして、家に来てシャワーを浴びたら少し元気になったのか、その・・・」


 それから如月さんは考え込むように黙ってしまった。シャワーを浴びて元気になって俺は一体何をやったんだ!?


「シャワーを浴びてから・・・?」


「・・・シャワーを浴びた後、リビングに戻ってきた鈴木さんは喉が乾いたと言って、その時私、鈴木さんの寝床を作っていたので冷蔵庫に水が入っているので飲んでくださいと言ったのですが、鈴木さん、間違って冷蔵庫に入っていた私のお酒を飲んでしまって・・・」


「えぇ!?」


「それでその・・・」


「それで・・・?」


「私に・・・魔法を見せてくれました」


「・・・・ふぁっ!?」


 俺はあまりの自分の愚かさに驚き変な声が出てしまい、さらに鳩が豆鉄砲を喰らったような表情で固まってしまった。


 いや、破廉恥なことをしていないだけ人間的にまだマシだろうか?それとも破廉恥なことをする方が人間的に健全なのではないだろうか?魔法を見せてしまう状況はこの世界でいうとどの部類に属するのだろうか?破廉恥と魔法はどちらがいけないことなのだろうか?もう訳がわからなくなってきたぞ。


「す、鈴木さん?」


 固まる俺を見て心配そうに話しかけてくる如月さん。

 どうしよう・・・。もうここは勢いで勝負してみよう。勢いが大事だ。きっと。


「創介って呼んでください」


「え?」


「創介って読んでください!」


「えっ!?創介・・さん?」


「そう、それでいいんです!」


「あの、えっと?」


「だから俺も真琴さんて呼んでもいいですか!?」


「え?えぇ。ぜひお願いします?」


「名前で呼び合う仲になったところでお願いがあります!」


「は、はい」


「俺が魔法を使えることは秘密にしてください!」


 俺はガタッと椅子から立ち上がって頭を勢いよく下げる。


「ふふっ・・・ふふっ・・・あはははは」


 如月真琴さんこと真琴さんは笑いが堪えきれないというふうに大爆笑を始めてしまった。


「えっと・・・あの・・・?」


「ご、ごめんなさい。ふふっ。なんだか必死で可愛くって。ふぅ。もちろん誰にも言いませんよ。最初からそのつもりでしたし・・・。そもそも誰かに言って、信じてもらえることでもないでしょう?」


「た、確かにそうですが・・・」


「あと、覚えてないかもしれないけど、私が何か秘密を漏らしたら記憶を消せるとも言っていたので、何かあれば私の記憶を消せばいいじゃないですか?」


「それも確かに・・・」


「だからまあ言わない約束って言うことで。ね?」


 そう言って真琴さんは右手の小指を差し出してきた。これはもしや指切りなんとかってやつ。俺もそっと手を出して小指を絡ませる。


「やーくそくっ」


 小指を絡ませた手を上下に動かしながら約束を交わす俺と真琴さん。勢いで乗り切ろうと思ったがなんだか逆に手玉に取られてしまった感がある。悔しい。まあ、なんとかなるような気がしてきた。


 そうしてご飯を食べ終えた俺は、いそいそと真琴さんの家から帰路についた。

 ちなみに余談だがこの間助けた時に貸した上着も綺麗にクリーニングして返してくれた。出来た女性だ。


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