大帝リューマ
初めての魔力切れを起こしてから半年がたった。この世界は三百六十日で一年、三十日で一か月、六日で一週間らしい。週の始めの日を火の日と呼び、水の日、岩の日、草の日、光の日と続き闇の日で終わるそうだ。災いごとは闇の日に起こりやすいと母さんが言っていた。一日が何時間かは家に時計らしきものがなかったので分からなかった。
毎日魔力を使い切っているが魔力切れで気持ち悪くなるのは最初の十数回程度で段々と気持ち悪くなることが無くなり気絶することもなくなった。しかし、魔力切れを起こすととてつもない疲労感が襲ってくるようになった。魔力切れの症状はいきなりやってくるので自分の魔力残量をしっかりと把握しておかなければならない。
魔力切れを起こしても死ぬことはないようだ。だが魔力を使い切っても魔法を使おうとするとどうなるかはまだ分かっていない。目から血が出るとかひどい頭痛が襲ってくるかもしれない。
魔力が少ないからか魔力を使い切ってから寝て目が覚めると魔力が回復しているのが分かった。一回一回の魔力が増える量は微々たるものだったが毎日欠かさずしたおかげで、俺の魔力は数十倍に増えていた。親に怪しまれないように日中身体強化を使っているが中々使い切るのが難しくなってきていた。魔力を使い切らなくても増えるのだが増加量が少ないのだ。しかしこれ以上身体強化をする時間を長くすれば寝る時間が遅くなってしまい起きるのが遅くなり心配されるかもしれない。そこで次の段階に進もうと思う。
次の段階とは、魔力の濃度を高くすることだ。身体強化をしているときに気が付いたが、適当に魔力を伸ばすと体の部分によって魔力の濃さが違っていたのだ。魔力が濃いところほど力が強く動きやすくなっていた。しかし、動きやすさの違いのせいで体をコントロールできず自分の寝床を壊しそうになったのこともあった。これの解決法だが魔力の濃さを均一に維持すればいい。一番濃いところは心臓部分で一番薄いところの二倍くらい濃くなっている。心臓が一番濃いためそこに魔力を生み出す何かがあると思われるが、今はそんなことはどうでもいい。濃いほうが強い力を出せるので、まずは全体の魔力を心臓と同じ濃さにすることにした。
魔力を濃くしようとして思ったことは物凄く面倒くさいということだ。魔力を濃くするために押し潰して圧縮するのをイメージしているのだが、こんにゃくみたいに掴みづらい上に綿みたく圧縮できてしまう。つまり魔力は密度がとんでもなく低いのだ。それに押しつぶそうとしてもイメージの穴からにゅるんと魔力が漏れ出てくる。しっかりと隅々まで穴がないようにイメージしなければ魔力は圧縮できなかった。
魔力の濃度を上げる作業は集中してやらなければならないので、とても疲れた。しかし、魔法のためだと思えばなんてことなかった。ただ疲れるだけで魔法の力が強くなるため、寝る時間以外は魔力圧縮に勤しんだ。
濃度が高い部分から薄い部分へと魔力を移すこともできた。どういう事かというと魔力濃度の平均化ができるのだ。魔力を濃くするということは魔力濃度の平均を上げることができる。つまり魔力の総量を上げることに直結するのだ。魔力が濃ければ薄めても十分な威力の魔法が放てるからだ。
まだハイハイもうまくできないので家の中を探索できないなか暇をつぶしながら強くなれる方法を思いついたのは僥倖だった。歩き回れるようになるまでは、昼間は魔力を濃くしながら身体強化を使うことにして寝るころになったら一気に魔力を使い切って寝るというローテーションを作っていきたいと思う。
「ジグ~本読んであげるわよ~」
普通の農民の家にしか見えないのに本があるなんて結構科学が進んでいるのだろうか?
「ジグもそろそろ言葉を聴いててもおかしくない頃だし、一日中ベットの上で暇でしょうしね。それに私の暇つぶしにもなるしね」
母さんが持ってきた本は植物紙で出来ているようだった。植物紙も転生した誰かが作ったんだろうか。
「今日は大帝リューマの本を読んであげますよ~」
母さんが読んでくれた本の内容を要約すると
数百年前、魔王を討伐するために召喚された勇者リューマは数々の困難を乗り越えながら魔王を倒しお姫様と結婚し新しい国を建てましたとさ。めでたし。めでたし。
というありきたりな話だった。リューマという名前でもしかしてと思ったが日本人だろうな。しかし召喚ということは転生じゃなくて転移ということだ。アルストリア様は死者を管理する神様のはずだからアルストリア様以外が転移させたんだろう。それとも魔法は次元を超える力があるということだろうか。
それとリューマは何十年たっても老いることはなかったらしい。自分の妻が死んだときに忽然と姿を消したそうだ。だから、この大陸ではまだリューマが生きていると噂されているらしい。リューマは不老不死のチートでも貰ったのだろうか。
「リューマが大帝と呼ばれている理由はね、国王になってから十年で当時この大陸にあった国をすべて統一したからなのよ。でも、後継者には恵まれなかったから数十年で内部分裂が起こって小国が乱立したのよ。そして、最終的に五カ国におさまったわ。」
母さんは農民のはずだが何でこんなに知っているんだろうか?どこかの豪商の娘が父さんに一目惚れでもしたのだろうか。