第十四節「それを決めるのは俺じゃない」
「会うのは二度目ですが、一応はじめまして。大城洋二さん。夏目君はちょっと重いと思いますが、我慢してくださいね?」
蛍は大城に対して懇切丁寧かつゆるやかに切り出した。
というか、重いとはなんだ重いとは。高校生の平均体重はたもっとるわ。
蛍の言葉を聞いて、大城がまたまた抵抗を示した。
「うるせぇストーカー野郎ッ!俺の飛鳥ちゃんから早く離れやがれっ!」
最近何度も聞いた「ストーカー」という言葉。「……え?」
大城から発せられたその言葉は今まで当人の大城へ向けて使われていた言葉だったが、なぜか今はその対象は蛍に向けられている。
この場にいる大城以外の全員が頭上にハテナマークを浮かべていた。
「あっれ?俺、ストーカーになった覚えはないんだけど……大城さん、どうして俺がストーカーだと?」
蛍は大城に尋ねた。
「飛鳥ちゃんから手紙をもらったんだっ!『赤髪の高校生に付きまとわれて迷惑してる。助けてほしい』って!」
大城の話を聞いた俺達は飛鳥を見る。蛍は目をガン開きにして「信じられない」とでも言いたげな表情をしている。
「いや、送ってないから」
まぁ、そうでしょうね。飛鳥がそう言った瞬間、今度は大城が「信じられない」という表情に切り替わる。
俺達は再び大城を見た。
「そ、そんなはずない!証拠だってあるんだ!ほら、ポケットッ!」
大城が自分の右半身をクイックイッと動かしている。そこを見てみると、上着のポケットからピンク色のなにかがはみ出ていた。俺は大城の拘束を左手にまかせて右手でそのなにかを取り出す。その正体はフタの部分がハートのシールで留められたピンク色の封筒であった。
「なんだこのベタにもほどがあるラブレターは」
俺は蛍に封筒を渡す。蛍は封筒を手にすると、フタを開ける寸前で手を止めて飛鳥を見た。
「開けていい?」
「私に聞かないで」
それを聞いた蛍は遠慮なく封筒を開ける。開けた瞬間にハートのシールが無残にもビリっとはがれたが、彼は気にするそぶりはない。
中から取り出された便箋は封筒と同じピンク色の便箋であった。飛鳥と蛍は二人でその便箋を覗き込んでいる。
「うわぁ……」
蛍は明らかに引いていた。飛鳥も眉をしかめて複雑な顔をしている。
便箋にはやはりなにかしらの字が書いてあると思われるが、大城を拘束している俺からはそれが良く見えない。
「おい、何書いてあるんだ?」
手紙の内容を俺は尋ねた。
蛍は便箋のオモテを俺に向けて差し出す。あいにく両手はふさがっているので受け取れないが、差し出されたのがオモテだったこともあって内容を読むことができた。
あえて全てをここに書くのはやめよう。単純に言って、カロリーが高い。
文面の大半は大城へあてられた愛の言葉であふれている。端々にはシャーペンで書かれたハートマークが付随している。そして肝心な蛍がストーカー云々の話は手紙の最後にあった。
"最近、赤髪の高校生につきまとわれて困ってるの。覚えてるかな、洋二さんの邪魔をしたあいつ。私たちの邪魔をしてくるの。いなくなっちゃえばいいのに"
あの状況を「邪魔をした」という表現ができるのが一周回ってすごい思う。
あれ?それよりもこの字……
もう一度よく見ようとした瞬間、蛍は便箋を引っ込めてしまった。
「この字は女の人のものだね。すごく丁寧な字だ。やっぱり……」
「だから私じゃないって」
「まだ何も言ってないよ」
蛍の言う通り、便箋に書かれた字は女の人の字だった。さすがに年齢層はわからないが、とても男に書ける字とは思えない。
「前にもらった手紙はどうしました?」
蛍が大城に聞いた。大城がもらった手紙は二枚ある。目の前にある手紙と、大城が以前、飛鳥にもらったと言っていた手紙。その手紙も、重要な証拠である。
「そいつは燃やしたよ。手紙に書いてあったんだ『これがバレると仕事に差し支えるから燃やして』って……」
ここにきて、大城の態度が急におとなしくなってきた。ここまでの飛鳥の態度を見て、彼も現状を理解し始めたらしい。明らかに落ち込んでいる。
その様子を見て、蛍は俺に拘束を解くように指示した。俺もその必要はないと考えた。
〇
俺達は大城を連れて近くの公園へとやってきた。
ここに来るまで超が付くほど気まずかったが、大城は現実を突きつけられて放心状態であったためにそんなことを言うことはできなかった。
公園中央の大木を囲むようにベンチが置かれている。そこに大城を座らせ、俺達は目の前に並んでいた。ベンチの右側が開いていたが、誰もそこに座ろうとはしない。
「だいぶ変な腕輪ですね」
「それバングルって言うんだぜ」
「どっちでもいいでしょ」
蛍はその場に座りながらバングルを見ていた。大城の腕には十字架のついた銀のバングルがついており、その十字架の中央にはドクロのマーク。よくよく考えると、この二つは宗教的に一緒にしていいのだろうか。
大城はそのバングルを腕から外した。
「最初に手紙をもらっとき、一緒に送られてきたんだ。おそろいだからって。でもこれも、結局ウソだったってことか」
大城は腕を振りかぶる。勢いをつけて、バングルをどこかへ投げ捨てようとしたそのとき。
――バシッ
「はい!そこでストップ!これはボッシュートです」
蛍は大城の腕をつかんだ。バングルをハンカチに包んで取り上げ、俺に差し出す。
差し出された俺はバングル本体に触れないように慎重に受け取った。
蛍は肩掛け鞄から棒付きキャンディが大量に入ったジップロックを取り出し、中身を鞄の中にぶちまける。
そして、開いたジップロックにバングルを入れるように俺に指示した。
「お前、そんなにアメ持ち歩いてるの?」
「これでも足りないぐらいだよ」
ジップロックをしっかりと閉めた蛍はそれを鞄に入れなおして大城のほうに向きなおした。
「これは重要な証拠です。もしこれを使うときには、大城さんにも迷惑をかけるかもしれませんが、そのときは許してくださいね」
蛍は大城に微笑みかけた。その様子を見て、大城は間の抜けた表情を見せた。
「そのときって……じゃあ……今は?」
大城が蛍に尋ねる。
「さぁ?」
「いや『さぁ?』じゃないだろ」
渾身のすっとぼけを披露した蛍に俺はツッコんだ。
「だって、それ決めるのは俺じゃないもの」
そう言い放った蛍は飛鳥を見る。そして一度小さくうなずくと、大城が座っているのとは反対側、大木をはさんで向こう側のベンチへと歩いて行った。
「はぁ……うちの阿呆はこれだから困る……」
俺はそうつぶやいて蛍のあとを追った。




