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07. Hard To Say Sorry / 不意打ち




 師匠はこちらを見つめたまま、固まっている。


「……。」

「……師匠?」


 一体どうしたのかと思い声をかけた途端、無言でドアを閉められた。


「……え?」


 ん?

 どういうことなのか良く分からないが──つまり師匠は、ここまで来てくれた。

 迎えに来てくれたのかもしれない。

 もしかしたら、私を探させてしまったのかもしれない。

 とにかく追いかけなくてはと思い、立ち上がろうとすると、レオお兄様に腕を掴まれた。


「ジジ、ここは俺に任せろ」


 レオお兄様はそう言ったが──何だか不自然に笑顔がキラキラと輝いている。

 ──あまり良い予感はしない。

 と思いつつ、一体どうしようというのだろう──とかれの様子を伺っていると──何だか、レオお兄様の顔がゆっくりと近付いてきた──これは、もしかして口付けなんてしようとしている?!

 な、何故?! 突然に?!


「な、レオおにい……!」


 一気に恥ずかしくなり目をぎゅっと瞑ると──、チュッと、リップ音が聞こえた。

 でもそれなのに、唇にも、どこにも何の感触もない。


「え……?」

「ははっ、困ってる。かわいいな」


 こ、困っているというか──さっきから混乱しています。

 頭にハテナマークを浮かべていると、再びゆっくりとかれの顔が近付いてきたかと思えば、また頬へリップ音だけ響かせて、離れていく。


「あいつは行っちまったよ。……さあ、俺と楽しもうぜ」

「え、え?」


 た、楽しもうって──。

 一体何が始まるの──もうこれは私、逃げたほうが──とぐるぐる頭を回していると、まるで心を読まれたかのように、逃すまいと指を絡められた。

 れ、レオお兄様、さっきから、突然どうして──?


「あともうちょっとだから……」


 な、何がですの──?!


「も、もう無理ですわ……!」


 何とかかれから離れようと身を捩るが、むしろそれでレオお兄様の力が強まり、ぐいと力任せに抱き寄せられ──。


「い、嫌……」

「ッ貴様ら!!」


 その瞬間、耳をつんざいたのは、バアンとドアが開いた音──ではなかった。

 ドアだったものは、もはや床に散らばる木の破片と化している。

 おそらくドアを破壊した張本人である師匠が、怒気で目を爛々と光らせて立っている。

 えっ、というか師匠、帰られてしまったのではなかったのですか──?


「貴様らは非常に、汚らわし……非衛生的だ。よって魔法で煮沸消毒する」


 そう言って師匠は懐から杖を取り出した。

 ぎゃあ! ま、魔法で釜でも出して、煮られる?!


「……ははっ。やっぱり居た」


 小さな囁きだったが、そばにいる私にはたしかに聞こえた。

 師匠は私を残して帰ったわけではなかった──レオお兄様にはそれが分かっていたということ?


「クラレンス、悪かったって。返すよ」


 そう言うと、体に絡みついていた腕が離れていった。


「……とっとと行くぞ」


 師匠がそう言った、なのに──。

 ──こ、これは──な、何だろう──?

 離れた途端、ほっと安心するかと思ったのに──この気持ちは──?

 きっと、こんなに物理的に──いや、それよりも精神的に近しく接してくれる人なんて、今まで出会ったことがなかったからだと思う。

 今まで私の居た世界では、不躾と言えるほどだ。

 私ってば、あんまりうわべだけの付き合いしかしてこなかったからって、おかしくなっているのでは──?

 さっき出会ったばかりだというのに、いざさよならというときにこの気持ちは、悲しい? それとも淋しい?

 と要らないことをぐるぐる考えていたとき──突然、唇に湿った感触。


「……わりい。ちょっとかわいかった」

「……?!」


 え?

 今──もしかして今、わ、私の──!


「……僕の所有物を()()()()汚すな」


 師匠の、何だか冷え切った声音──。

 しかしそれよりもファーストキスを奪われた衝撃のほうが大きい──。

 

「でもなあ、こいつ、どしゃぶりの雨ん中でお前を待ってたんだぜ? 怒るより一言詫びくらい要るんじゃねーの」

「……。」


 わあ──レオお兄様が師匠に不利な話題に変えた──。

 私は、たしかに待っているときは切なかったけど、今はもう忘れていたから別にいいのだけど。


「……フン。行くぞ、ジジ」

「はい、師匠」


 師匠のあとを追いかける。

 ──と、その前に。


「レオお兄様、お世話になりました。……また、明日」


 明日会えるか分からないが期待をこめてそう言うと、かれはニカッと笑ってくれた。


「おう、また明日!」




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