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06.『浜辺』

読む自己。

 12月に突入した。

 自分的には嫌いとも好きとも言えないそんな月である。

 寒くてすぐに真っ暗になることの反面で、温かいご飯がより美味しく感じたり、お風呂が格別になったりと、まあどの月も一長一短だなというのが正直なところだった。


「内山さん、帰りましょうか」

「あ、うん、帰ろうか」


 そしてあの日から僕&中原さん、仁&文ちゃんという組み合わせに何故かなってしまっている。

 別に彼女はいい子だしなんら不満はないが、どうしてこうなったのだろうか。

 とにかく学校をあとにして歩いていく。


「明日は休日ですよね」

「そうだね」


 普通の反応をしたらジトッとした目で見られてしまった。


「内山さんはそういう人ですよね」

「え、え?」

「いえ。……明日、どこかに行きませんか?」

「あ、なるほどね……別にいいよ!」


 意図を汲み取ってほしかった、ということか。

 そりゃそうだ、なにも用がなければ「明日は休日です」なんて言わない。


「あの、季節外れなのは分かっているのですけど、海に行きませんか?」

「お、意外といいかもね。冷えるだろうからちゃんと着込んでいかないと駄目そうだ」

「はい、よろしくお願いします。それでは」

「うん、じゃあね」


 やっぱり明かりが点いていないのが気になるが、まあ……帰ろう。


「ただいまー」

「おかえり!」

「うん。あ、お母さん、明日中原さんと出かけてくるね」


 いちいち言わなくてもいいのかもしれない。

 でも、昔から家を出る時は毎回言っていたので悪いことではないだろう。


「ほぉ、場所は?」

「海って言ってたよ。ちょっとくらいお金持っていくべきかなー」

「冬の海を見るというのも乙なものだよね! 気をつけて行ってね!」

「うん、ありがと。お母さんも仕事行く時に気をつけてね、あ、帰る時もだけど」


 部屋に行って制服を脱ぎ、部屋着へと着替えてベットに寝転んだ。


「えと、『明日はよろしくね』と、送信っ」


 それにしても仁はどうして急に変わってしまったのだろうか。

 あの日、彼女といることを相当怒っていたはずなのに、一緒に出かけたらああなっていた。

 実はあの日に再度告白して振られてしまった? それなら中原さんが言ってきそうなものだけど……。


『よろしくお願いします』


 僕といること以外は至って普通の彼女のようだ。

 休息期間とかそういう風に捉えておこう。

 そもそもの話、彼女がそういうつもりで近づいてきているなんて思っていないわけで。


『少しだけお金を持っていく方がいいですか?』

『あ、僕もそれ考えてたよ、お揃いだね』

『持っていくことにしましょうか』

『うん、そうしよう。あ、ご飯食べてくるね、また明日』


 送信してアプリを落とそうとしたタイミングだった。


『……あの、後で通話しませんか?』


 というメッセージが送られてきて僕は少し困惑しながらも、


『多分お風呂に入り終わるのは20時前くらいだろうから、それが終わればいいよ』


 あくまで「冷静ですよ」アピールをかましつつ了承をする。

 

『はい、お願いします。あ、ご飯はきちんと噛んで食べなくては駄目ですよ?』

『はははっ、うん、肝に銘じとくよ。また後でね』


 市販のルーを使ったとはいえ、自分が作ったカレーを食べてもらうのが気恥ずかしかったのだ。

 両親が遅いならそれこそ家事は得意だろうし、しかも余計な押し付けだったかなというのもあった。

 彼女は悩む素振りを見せず即答していたくらいなので、僕が寧ろ迷惑をかけてしまったのかもしれない。

 まあそれは後で謝ればいい。早くご飯を食べて、お風呂にも入ろう。




 翌日、僕は家の外で待っていた。

 海に少しでも近いからという理由でここが選ばれたわけだが……。


「すみませんでした、遅れてしまって……」

「だ、大丈夫!」


 現在時刻は12時10分。

 集合時間は12時だったわけだし10分くらいなんてことはない。

 問題だったのは僕が張り切りすぎて11時過ぎから外にいたことだろう。


「行きましょうか」

「うん……」


 先を歩く彼女を追っていく。

 彼女は暖かそうなもこもとした茶色のコートを羽織っているのに下は長めのスカート……。


「な、中原さん、寒くないのそれ」

「大丈夫ですよ? そもそも制服でいるのとあまり変わりませんから」

「あ……そっか。で、でもさ、タイツ……だっけ? そういうの履いたらどうかな」


 別に初めてというわけじゃないが、休日に見る生足というのは目の毒だ。

 目のやり場に困るので彼女の横に並んだ。


「内山さんはタイツが好きなのですか?」

「えっ? いや……冷えるでしょ?」

「小中高としてきていますからあまり問題はありませんよ?」

「そ、そっか……うん、余計なこと言ったね、ごめん」

「いえ」


 ……それきり会話がなく海辺に着いてしまった。

 確かにお母さんが言ったように冬の海というのも悪くはないが、正直、それだけでしかない。

 寒いし初めて見る光景というわけでもないし、あくまで僕の心はフラットだった。

 ギリギリ波が届かない場所に移動して、彼女はサラサラの白砂の上に腰を下ろす。


「音が落ち着きますね」

「うん、そうだね」


 僕も横に座って進んでは引いてを繰り返している波を見ることにした。

 でもあれだ、こうしてぼけっとしていても咎められることがないというのは確かに落ち着ける気がする。


「内山さん、文さんは昔どういう感じだったのですか?」

「文ちゃん? 幼稚園の頃はリーダーみたいな感じだったよ? 小学生になってもあんまり変わらなかったけど、ま、暴君とかそういうのじゃなくて優しい女の子だった。いつも全然自分だけでできない僕を支えてくれたしずっといてくれたからさ。それがどうしてか中学生になったら心が離れ離れになってね、あれはちょっと悲しかったかなあ」

「ふふ、内山さんのことですよねそれは」

「あ……はははっ、確かに! とにかくっ、優しい女の子だったよ?」


 仁も同じでいつも気にかけてくれてた。

 友達とドッジボールをやりに行けばいいのに、教室で本を読んでいた僕にわざわざ付き合うとかね。

 実はそれが少しう、うざかった。だって読書はひとりでするものだろう。

 けれど「あ、この人もいてくれるんだなー」と思えたのは確かだ。

 お父さんが亡くなった後はふたりに抱きついて泣いたことが何回もある。

 あの出来事は小さな僕の心に傷を残した。恐らく……僕でなくても同じようにすると思う。

 誰か大切な人に触れて傷を治すのと同時に、「あなたは消えないで!」と伝えたかったのもあった。

 そういうのがあったから余計堪えた。

 文ちゃんがまるで別人みたいになってしまったことが嫌だったのは確かだ。


「あなたはどうだったのですか?」

「僕? ふたりとお母さんがいなければいつでも不安で押し潰されそうな弱い人間だったよ。今でもあんまり変わらないけどね。そういう君は?」

「私は常にひとりでいました。お家でも外でも学校でも、それが当たり前でした。それで寂しさは常に抱いていて、どうやれば周りの方達みたいにできるのだろうかと、悩むような人間でしたね」

「ま、待ってよ、家でもってどういうこと?」

「……裕福な家庭というわけではないだけですよ」


 小さい頃から共働きで家を空けがちだった、ということだろうか。

 僕がまだ小学生の頃はよく仁の家にお世話になっていた。

 ご飯を食べさせてもらったり、お風呂に入らせてもらったりとかそういうの。


「そっか……。と、というかさ、どうして家が近いのに別の中学だったんだろうね」


 あの道がまるで境目のように、僕らは1中、彼女は2中に通っていた。

 もし一緒だったなら少しでも彼女の寂しさを紛らわせることができたのだろうか、そんなこと考えても無駄にしかならないけれど、どうしても考えてしまう。

 自分が支えられるなんて自惚れてはいない。

 でも、仁や文ちゃんならきっと寄り添ってあげれたと思うのだ。


「そうですね、歩けば割とすぐの場所にあなたや川上さんのお家があるというのに意外ですよね」

「ま、だからこそ仁は君に一目惚れしたんだけどさ」


 ここら辺に住んでれば大抵は僕らが通っている高校を志望する。

 だから『運命の出会い』とは言えないかもしれない。が、それでもいい出会いとは言えるだろう。


「高校に入学したその日、ひとりだった生活に変化が訪れました。明るい川上さんと文さんがお友達になってくれましたから」

「うん。あのふたりは少しうるさいところもあるけど、いい子達だからね」

「でも、少し難しかったです。あまりお喋りをするということをしたことなかったので……」

「それにあのふたりはふたりだけでずっと喋ってそうだよね」

「あ、そうですね、どうして来てくれたのだろうかと疑問に思うことはありました」


 それのメリットもあって、そのおかげで悲しさを吹き飛ばせたのはある。

 なのに大してお礼もせずのうのうと生活していたから、呆れられてしまったのかもしれない。

 ……今度、なにかしなくちゃいけないようだ。


「なんかさ、僕がしてあげられたわけじゃないのにどこか嬉しいよ」


 あのふたりに「君はひとりじゃないよ」って言葉で、行動で言ってもらえたから。

 だからこそ、彼女もその暖かさに気づけて良かったと思えるのだ。

 偉そうだなぁ……だけど、ひとりよりはマシなはずだよね。

 初めて見た時の彼女は、氷の人形のように感じた。

 笑わない、声音に抑揚がない、動じない。

 これが本当に僕と同じ人間なのかって、驚いたものだ。

 そういう点でもふたりの明るさは、彼女の冷えきったものを溶かす光だった。


「私も嬉しかったですよ、初めてお友達ができて優しさに触れることができて」

「うん、僕もお母さんとあのふたりからもらったからね」

「分かったのは、他に人も自分とあまり変わらないことでした、話しかければ普通に挨拶をしてくれる方ばかりでした。なのに、どうしてか小中の頃の自分は恐れてあまり動けなかったのです。自分が話しかけたら迷惑ではないのか、一緒にいてくれても気まずさを感じさせているのではないかと」

「ははは、僕も一緒だったなあ中学は」


 仁&文ちゃんとは別のクラスで、いつも教室の隅の自分の席に座って本を読んでいた。友達0の自分にとって周囲の大きな声が少し怖かったのもあった。誰も味方がいない状況で普通でいられるようなメンタルはしていなかったから。

 そう、僕も話しかけたら迷惑ではないのかと、気まずさを与えるのではないかと不安に思ったものだ。

 事実、それをぶつけてきた子は数人いた。その中には文ちゃんもいて、だからこそ気をつけた。

 ただ、気をつければトラブルが起きないというわけではないのが、難しいところだろう。


「今は違うのですか?」

「うん、基本的に相手が誰であっても話しかけられるようになったよ。ある程度、妥協できるようになったんだろうね。相手が自分の痛いところを突いてきても肯定して、弱い自分を直視して生きていけている今が僕は好きかな。マイナス思考はやっぱり駄目だ、それこそ相手に悪影響を与えてしまうからね」


 彼女を見てみたら少し複雑そうな顔で「私はまだ無理そうです」と言って笑った。


「川上さんや文さん、そしてあなた以外の人とはまだ上手く話せません」

「寧ろ僕とよく話せたね、高校1年生の頃はまだ暗かったと思うけど」


 今みたいに中原さんが暖かく柔らかい態度ということもなくて、仁ひとりが僕の友達だった。

 仁は彼女とだけいたかっただろうに、毎回、僕のところに来てくれた。

 でもそれが少し逆効果で、彼が来れば文ちゃんも来てしまう。

 するとどうなるか、なんていちいち言うまでもないだろう。

 心はすり減り疲労していく毎日、本当の意味で支えになったのはやはりお母さんだけだった。


「話せたといっても挨拶程度でしたからね」

「あ、そっか、ただのおまけだったしね僕は」


 この結果を意外と思っているの僕の方だ。

 なにがどうしてこうなったかは分からないが、彼女が優しくしてくれるようになった。

 あれかもしれない、自分に優しくしてくれる人が僕には厳しく当たっていたかもしれない。

 簡単に言えば彼女の心は冷え切ってなんかなく、暖かさで溢れている子だったということだろう。


「だからこうしてお出かけしている今が信じられないのですよ少し」

「僕もそう思うよ。んー! ふぅ、寒いね、ちょっと缶コーヒーでも買ってくるよ。中原さんはなにがいいかな?」

「あ、それでは温かい紅茶で……」

「うん、任せて」


 立ち上がってだらだらと自動販売機がある場所まで歩いて行く。

 うーん、でも、あの言い方だと恐らく彼女が好きなのも仁、ということになるのかな。

 早く協力してくれって言ってほしい。

 それがないからこんなにもうずうずするんだろうなぁ。

珍しく言い争いしてない!

さて、詠はなにを考えてるのかね(俺も分からない

会話だけなのが申し訳ないが。

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