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20.『笑顔』

読む自己で。

 2月14日――バレンタインデー。

 実はお母さんからくらいしかまともに貰ったことがない僕は密かに期待していた。

 ……全ては文ちゃんと涼姉に調理スキルがないのが悪かったのだ。

 でも、今年は詠がいる、それも彼女である詠が!

 だから朝からテンション高く彼女と登校して、会話して、授業を受けて、会話をして。

 昼休みは一緒にご飯を食べて、授業、会話――そして放課後。

 僕は彼女のところに少しだけ気持ちを抑えたまま近づいた。


「詠、一緒に帰ろうよ」

「はい、帰りましょうか」


 うん、彼女のことだからきっと用意してくれているはず。

 その無表情の下で実は恥ずかしがっていて、渡すタイミングが分からないだけ!


「それでは、また明日もよろしくお願いします」


 あれぇ!?

 彼女は普通に家へと歩いていってしまった。

 僕は彼女の後ろ姿を眺めて崩れ落ちるだけしかできない。


「あれ~どうしたんですか~センパイ!」

「お……紗耶香……今日ってさバレ――」

「というわけで、それ、あげますね~それでは~」


 ……いいんだ、チ○ルチョコでもひとつ貰えたことには変わらないんだ!

 僕がそこへと貯金箱のように留まっていた。

 恐らくこうしていればあの姉妹がくれるはず。


「なにやっているのかしら」

「おぉ、美幸! チョコちょうだい!」

「んー仕方ないわねぇ、お手」

「ワ……しないよ」

「ふふ、あげるわ」


 テッテレー、ふたつめゲットー。

 乞食でもなんでもいい、貰えるなら土下座だってする。

 だって本命に貰えなかったから仕方ないことだこれは。


「たけーやるぞー」

「ありがとー」


 お、ミルクチョコ味! 自分が1番好きな味だ。


「たけはそれが1番好きだったろー?」

「いや、本当にありがとう!」


 彼女が去って次は妹さんの番。


「くっ……私に作るスキルがあればぁ!」

「あのぉ……」

「ひゃっ!? あ、た、たけくん……これあげる!」


 め、明○のブラックチョコレートだとっ? 値段が上がった。


「ありがと! こういうのは気持ちだからさ、それだけで嬉しいものだよ」

「えへへーそうかなー? ま、じゃあねー!」


 なんという豊作だ、今までこんなことあったか? いやない、それくらいには嬉しか――


「へぇ、他の方に貰えればそんな笑顔を浮かべるのですね」


 僕を冷ややかな表情で見つめ「今すぐ消えろ!」と言いたげな雰囲気。


「詠がくれなかったから……」

「……私は作れませんし、かといって市販の物を買うのも味気なかったので、こんな物を用意してみました」

「えっと……」


 その1枚の紙切れには『1日私を自由にできる券』と可愛らしい丸文字で書かれている。


「こういうのは期待していなかったなぁ、肩たたき券とかで良かったんだよ?」

「え……紗耶香さんと涼さんがこれでいいと……」

「あーもう……」


 いい子、いい人なのに、詠に余計な知識を与えるところは嫌だなぁ。


「今からでも肩たたき券に変えよう」

「いいです! これはもうあなたの物ですから、いつでも自由に使ってくださいね」


 ということはホワイトデーに『1日僕を自由にできる券』を配布――痛すぎる。

 なによりお返しがきつくなってしまうので、ぜひともここは普通であってほしかった。

 それにこんな物を貰ったら正直止められない気がするからだ。


「あ、じゃあ今使ってもいい?」


 矛盾……なのは置いておくとして、軽いお願いで消費してしまえばいいだろう。


「ど、どうぞ……」

「健さんから健君に変更と、敬語をやめてほしいかな~お母さんみたいな感じで」

「た、た、健くん、お元気!?」

「お母さんそんなこと言わないよ……」


 明るくてまるで同級生と話している気分になるくらい。

 それはこの女の子よりも感じているくらいなので、少し不味いなと考えているのだ。

 不味いのは主に彼女の堅さ、単純にお母さんが柔らかすぎるとも言えるけども。


「健くん、敬語をやめるのだけは無理です」

「あ、まあ無理ならいいけどさ」

「それでですね、まだ頼めますよ?」

「詠は欲しがりだよね」

「なにか言いましたか? これはあなたの()()()でなされることです、私の意思は関係ありませんよ?」


 あ、頑なに認めたくはないらしい。

 でもいいや、彼女が求めているなら仕方ないこと。

 それに僕だってまあ色々したいわけで――


「じゃあ頭を撫でさせてもらおうかなあ」

「あ……は、はい」

「次は抱きしめさせてもらおうかなあ」

「うぅ……」

「最後は、勿論これだよね」


 キス……ではなく手を握らせてもらった。


「えっ! ……もぅ……」


 いやいや、そんな可愛らしい反応を見せられるとしたくなるからやめてほしい。

 まるで彼女が望んでいたみたいじゃないか。

 最初からこうしたかったみたいじゃないか。

 彼女の作戦通りに動くのは別にいいけど複雑で。


「ま、それはもっと大切な時にしようよ」

「……そうですよね、確かに何度もしていたらありがたみがなくなりますから」

「うん。よし、今日も手を繋いで帰ろう」

「家はすぐそこですけどね」

「はははっ! じゃあ寄らせてもらおうかな、せっかく自由券貰ったんだからさ」


 ――中原家。

 今ではすっかり慣れてここの寂しさ、冷たさを感じることも少なくなっていた。 

 そろそろ春だからというのも大きいかもしれない。

 1番の理由は彼女の暖かみが増したからだろう。


「詠が僕のこと考えてくれてて嬉しかったよ?」

「本当でしょうか? その割には他の方から貰って嬉しそうにしていましたけど」

「そりゃまあ今までお母さんのやつだけだったからね」


 彼女のジトッとした視線を向けられても男なんだから仕方ないの話。


「え、そ、そうだったのですか? それなら私が……」

「来年1番にくれればいいよ」

「来年まで続いていたらいいですね」

「少なくとも僕からは離れない、神に誓ってもいいよ」

「……ありがとうございます、私も離れませんよ」

「ありがとう、お互いに楽しもうね」

「はい」


 本当のところはなにがあるかなんて分からない。

 でも人生なんてそんなもの、先を気にしてばかりじゃ足をすくわれる。

 だったら今に集中するだけでいいのではないだろうか。

 優しげな笑みを浮かべている彼女を見て、僕はそう思ったのだった。

文字数稼ぎすまない。

でもあれだね、10万文字は気持ち良い。

今回は喧嘩も少なくてよかったかな。


いたら)読んでくれてありがとう!

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