12.『必要』
読む自己。
「あの、そんなクールに罵倒されると傷つくんだけど」
よりダメージが大きくなる。
それが狙いなら彼女の作戦勝ちと言えるが。
「健、今日はあの子も連れてきなさい」
「あ、詠のこと? それはまあいいけど」
「詠、ね」
「あ、……昨日頼まれたんだよね」
彼女は腕を組んでこちらを見てきた。
僕は即「自分の意思ではないから」ということを伝えておく。
「ふふ、お馬鹿さん」
僕は理解した、笑われて言われる方が堪えることに。
あのふたりが戻ってきてから家をあとにする。
「寒い……でも、近くで良かった」
インターホンを鳴らすと彼女はすぐに出てくれた。
少し目を見開いていることから唐突だったのかもしれないと後悔しつつ、
「おはよ! 良ければこれから家に来ない?」
と、笑顔を浮かべて彼女を誘う。
「分かりました」
「そっか!」
「あなたが沢山の女の子と一緒にいることは分かりました。これもその中の誰かからの頼みで来ているものだと判断しました」
「うっ……まあ、美幸に頼まれてね。大丈夫、仁も無理やり連れてくるからさ!」
「少し抜けているところも理解できましたが、少し待っていてください」
抜けてるのは君だぞっ。
待っていると彼女が出てきてくれたので歩いていく。
とはいえすぐだ、先に家へと入ってもらうことにした。
「仁ー!」
「……うるせぇ……なんだ……」
「僕の家に来てよ! よ……中原さんもいるからさー」
「お前らいつも一緒にいんな、まあ行くわ」
助かった……女の子率が高すぎるので僕ひとりじゃ無理だったから。
ふたりで家に入るとソファに日高姉妹、椅子にお母さん、美幸、詠が座っているという状況だった。
「なあ健、なんでこんな沢山いるんだ?」
「うーん、全部美幸の希望かな」
あ、涼姉だけは違うの忘れてた。
「ユキかーあいつもよく分からねえよな」
「よく分からないって、私がいるところでよく言えるわね」
「だってお前、わざわざ別の高校を選んだしな」
「……後悔しているわよ」
「あ、悪い……」
うーん、このふたりになにかがあったというわけではないのだろうか。
分からないから余計なことは言わず、日高姉妹の妹の方に話しかけることにする。
「文ちゃん、美幸と仲直りできた?」
「うん、お互いにごめんねって」
「そっか、良かった」
「なんにも良くないけどねー」
「え?」
「なにこの状況、ハーレムじゃん」
「仁のね」
美幸と詠と話をしている彼は楽しそうだった。
仲間になりたそうな目で見ている涼姉もいることだし、現実とは非情である。
「涼姉、加わってこいよー」
「んーそうだねー文も行くぞー」
「行くぞって目の前にいるけど、ま、いーかー」
似ている姉妹だ苦笑してお母さんの横の椅子に座った。
「凄い光景だよね」
「そうだね、仁くんのハーレムの完成だね!」
「あ、そうだ、肩揉んであげるよ」
「ありがと!」
「うーん、凝ってるね」
できる限り負担を軽くできるようにと手伝っているけど、まだまだ負担をかけてしまっているようだ。
こういうことしかできないのが少し微妙なところではあって、もどかしさを抱えているというのが常のことだった。
「うん、ちょっと疲れててねー……あ、楽ぅ……健がいてくれて良かったー」
「僕だってお母さんがいてくれて良かったと思うよ」
「でもさ、お友達を優先してほしいかな」
「いいんだよ、仁がいれば事足りるし」
今だって彼の家に行くということで皆がはしゃいでいた。
わいわい盛り上がるのもひとつの形ではある。
が、僕らはこうして落ち着けていれば十分と言えた。
「健、ちょっと家に行ってくるわ」
「了解!」
5人が去って静かになる。
詠が好きでも決して贔屓することなく満遍なく対応できるのだから凄いという他ない。
「健ー今年はプレゼントないんだー」
「別にいいよ、あんまりお金使ってほしくないし」
「だからさ、私が肩揉んであげるよ」
「いいって! もう終わり」
「えぇ……でもなにかしないと申し訳ないし……」
「お母さんが元気でいてくれてるだけで十分だよ、お父さんみたいにならなければね」
急に消えるなんてことにならなければ十分だ。
ソファに寝転んで「そういえばさっきふたりが座ってたんだよな」と思いだしたものの、気にせず続けることにした。
今更女の子が座ったくらいでなにも問題ない。
なにより主人公の側にいた彼女達はとても楽しそうだったわけだしね。
「ひとり残されるのが僕らしい」
「自分で選択したんでしょ」
「そうだねっ」
何度も言うが仲が良ければそれで十分。
「私、見てたら分かったよ?」
「なにが?」
「内緒ー」
「なにそれ……。ま、僕も分かったけどね」
なんとも言えない上手さが彼にはあるということに。
「これが寝取られかぁ……」
「それってどういうこと?」
「いや。そういえばさ、お母さんは再婚とかするつもりないの?」
心配なのはお母さんが無防備なところがあることだろう。
職場での話を聞くことがあるけれど、聞く度に不安になる。
明らかに好意を抱かれていることにも気づかず、普通に愛想を振りまいてしまうことに。
「うん、やっていけてるしね。健がいれば十分十分」
「できる限り協力していくつもりだけどさ」
「それに……あの人が好きだったから」
「そっか……ごめんね」
「ううん! 健がいい子に育ってくれて嬉しいよ!」
お母さんみたいに一途で強い人に僕もなりたい。
仮に好きな人ができたら、その子だけを守りたいとなってくれるだろうか。
……未来の僕に頼るしかないか、こればかりは。
「たけくん」
「うん? お、文ちゃん」
って、なんでお腹の上に乗ってくるんだか……。
「詠ちゃんのこと名前で呼び始めたって本当?」
「うん、昨日頼まれてね。あの、重いので下りてくれないかな……」
「あのさ、私のことも呼び捨てでいーよ?」
「文って? うーん、文ちゃんでいいでしょ」
完全スルーでそんなこと。
不都合ないのでこれで問題ないと思う。
それに昔に戻れたみたいで落ち着くのだ。
「で、どうして戻ってきたの? てっきりそのまま夜までいると思ったけど」
「うーん、なんだろうねー。他にも人がいると私いなくて良くない? ってなるんだよねー」
「分かるよ、特に僕は仁がいればいいじゃんって少し距離を作りたくなるし」
上半身を起こしてみたらお母さんが突っ伏して寝ていることに気づく。
なので近づいて毛布をかけておいた。
「たけくんの部屋に行こうよ、あんまりうるさくすると申し訳ないからさ」
「じゃあ行こうか」
部屋に入ったらベットにダイブ。
……そういえばここで寝てたんだよなぁ。
「美幸ちゃんが泊まってたんでしょ? どこで寝かせたの?」
「床で寝てもらったよ、美幸相手には気を使う必要ないしね」
「それ」
「えっ?」
「どうして美幸ちゃんにはそうで私達には違うの?」
考えたこともなかった。
美幸がはっきり言ってくれる子だったから僕も真似しようとしただけでしかないが、どうしてだろうか。
「文ちゃん達にだって遠慮しないよ僕は」
「そうかな? もしかしてさ、美幸ちゃんのことが好きだったり?」
「好きな子だったらもっと丁寧に接するよ」
「そっかー」
彼女はベットの端に座って違う方を見ている。
どういう表情を浮かべているのが分からない。
「文ちゃんが言ってた気になる人とはどうなの?」
「うーん、微妙ー」
「だからこんなところにいるんだよね」
「そうだねー。だから、たけくんを暇潰しの道具として利用しているだけだよ」
「別にいいよ、それで気が紛れるならね」
少しでも必要とされたい心があって実は少し嬉しかった。
だって皆が仁の方へ行ってしまうから。
口ではなんだかんだ言っても、それを見ているだけなのはやはり寂しいものがある。
にしても彼女の気になる人ってどんな人だろうか。
僕や仁に当てはまらない、敢えてちょっと柄の悪そうな人間を好いたりして……。
「たけくん、呼び捨て」
「文」
「健!」
「いや、やっぱり『文ちゃん』の方が好きだな。それに『たけくん』って呼ばれる方がいい」
そう言うと「えー、別にいいじゃんかー」って彼女が拗ねたような声を上げる。
「あの頃のことを思い出せるからだよ」
昔と違って変わったことは沢山あるけども、変わらないこともあるって分かっていたい。
自惚れだろうがなんでもいい。必要とされていたであろうあの頃が好きだったのだ。
そして僕もふたりを1番必要としていた時期でもある。
「ふーん、そうなんだ」
「うん。だから君や仁と少し距離ができてしまったとしても、仁が健って呼んでくれれば嬉しいし、君がたけくんって呼んでくれたらそれで満足できるからさ」
これが僕にとっての好きな形だと心から言える。
誰からも選ばれなくたってそれでいい。
最低限のこれがあれば十分だ。
「分かったー」
「うん、よろしくね。僕を忘れないでくれればそれでいいから」
「忘れられないでしょ、だって同じクラスだし近くにいるんだから」
「そうだといいけどね」
それがそうでもないんだよなぁ。
同じクラスでも彼女にいない者扱いされた時があったから。
……ま、クリスマスに話すことでもないか。
「それよりそろそろ戻りなよ、いちいち気にしなくていいんだよ変なこと。君が相手を必要と判断すればきっと向こうも必要だと判断してくれるからさ」
仁以外の人が気になっているということなので後者はそれについてのアドバイス。
でも良かった、仁が好きだったら純粋に応援できなくなってしまう。
詠のことを好きだと言いきった仁も応援してあげたいのだ。
どちらも支えてくれた大切な幼馴染。
だったら自分も少しくらいは動かなければならない。
「それじゃあ君も余計なこと気にしないで行動しようよ」
「余計なことって……」
「だっていちいち仁の名前出して自分を下げるじゃん」
「えぇ……君が『仁の方がいいよね!』って毎回言ってたよ?」
「ひゅーひゅー」
「口で音ださないでよ。そういえばさ、どうしてあそこまで文ちゃんは怒ってたの?」
昔に1度見たスーパーで常に怒っていたおばさんによく似ていた。
全てが敵のように捉えて喧嘩を売っていくスタイル。
勿論、他のお客さんも店員さん強気でいられないので泣き寝入り状態。
僕も肯定するのが精一杯だった。
仁の方がいいのは事実で、彼女が言っていたのはいつだって正しい言葉で。
だからって全てを納得できたわけじゃない。
相手にそうさせてしまう理由が分からなかったから、いつも困惑しっぱなしだったのだ。
「それはそういうところがあるからだよ」
「えぇ……余計に自信失くさせてどうするのさ」
「私は強気で来てくれるのを待ってたの。でも、結局たけくんはそれをしてくれなかった。よりむっとしていた時に仁と詠ちゃんから説得されて態度を改めた、それだけだよ」
ならガツンと言えば良かったのだろうか。
それはもう泣かせてしまうくらい強気でぶつかれば自分で、……いや、涼姉の言うようにきっと僕にはできなかったと思う。
ぶつけて相手を傷つけるなら折れることを選ぶ、のかなぁ……。
「気になる人の頭文字を教えてよ」
「いーやーだー、取られたくないもんねー」
「取らないよ、だって取ったらホモってことになっちゃうじゃん」
「まあいいや、お姉ちゃんだよ」
「嘘っ!? へ、へぇ。まあ、それもひとつの形だよね」
ということはお姉ちゃんを追って大学に行くつもりなのだろうか。
これはあれだな、涼姉にもきちんと聞いておかなければならないようだ。
「それも嘘ー」
「なんだよー」
「ねえ、そんなに気になるの?」
「まあね」
どんな人なのか知らなかったら応援も協力もできない。
……求められないとかそういう正論は置いておくとして、知っておかければならないのだ。
「うーん、Tかなー」
「T? 高橋君とかかー」
「あははっ、悩め悩めー。私のことでいっぱいにしておけー」
大胆な発言だと分かっているのだろうか。
名字なのか名前なのか、どちらに該当するのか分からないので絞れない。
それにどこのT君なのか言っていないわけだし、ずっと見つからないままの可能性があった。
「じゃあ探し回ろうかな、君が文ちゃんの気になる人? ってひとりずつ」
「だ、ダメだよ! そんなことされたら恥ずかしいじゃん! それに意味ないし!」
だから少しだけ揺れてくれることを望んで言ってみたのだが、意味がないとはどういうことだろう。
お前なんかじゃ見つけられないよ、そう言いたいだけのようにも感じるが。
「健さん、失礼します」
「あ、どうぞどうぞ」
って、詠が来ちゃったら意味ないじゃん……。
彼女が戻ってきたということは――
「お邪魔するぞー」
「おい文ーたけとなにいちゃいちゃしてんだー」
「あなたが言うんじゃないわよ、朝だってキスをしようとしていたくらいなのに」
「し、しようとしてない!」
ま、沢山来ちゃうよね。
でも丁度良かった。
「ね、文ちゃんの気になってる人の頭文字はTだって!」
これを言えば盛り上がってくれると思った。
だが、
「たけくん最低」
「たけ、そういうのを言いふらすのは良くないぞー」
「健さんはそういうところがありますよね」
「健はこういう奴だからな」
と、何故かボロクソにされて。
僕はひとり布団の中にこもったのだった。
うーん、メインどうしよう。
案外、お姉ちゃん! とかでもいいと思うんだけど。
話の流れ的には詠か文だよなぁ。
お母さ――は可愛い喋り方だけど、お父さん一途だからね。




