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01.『自信』

読むのは自己責任でお願い。


色々ない。


多分、5万文字くらいかな。

 僕、内山たけるは目の前の光景を見て溜め息をついた。

 どこに好き好んで『幼馴染の告白現場』なぞ見る人間がいるだろうか。

 これは幼馴染それに頼まれたから仕方なくしていることだ。決して盗み見みとかではない。


「よ、詠……俺はお前のことが好きなんだ! 付き合ってくれないか?」


 それ――――川上じんの顔は、それはもう一生懸命で真剣といった感じだった。

 対するよみ――――中原さんの顔は、……とてつもなく冷え切っていた。

 思わず「ひぇっ!?」と言いたくなるくらいの迫力がある。

 少し離れた場所から見ている僕でもそうなんだ、正面にいる仁からすれば気が気でないだろう。


「ごめんなさい、あなたに興味ないので」


 もう少し言いたかってのがあるだろうに……。

 彼女は去って仁はそこに崩れ落ちる。


「可哀想に……」

「うるせぇ! ……でもさ、本当に可哀相だよな俺……」

「アイス奢ってあげるから帰ろうよ」

「ああ、いつも悪いな」


 途中でコンビニに寄ってモナカをふたつ購入した。

 外で待たせていた彼に片方を渡して、僕達は壁に背を預け食べていく。


「でも僕はさ、そうやってしっかり想いを口にできるのって格好いいと思ってるけどね」

「……健、付き合うか!」

「うぇぇ……」

「冗談だよ! はぁ……呆気ないよな、たった『興味ない』で終わっちまうんだもんな」


 そう、なにも突拍子のない行動というわけではない。

 彼は高校に入ってすぐに彼女に惚れて1年間は一緒に生活してきているのだ。

 彼女も誘いを拒むことなく受け入れていたというのに、まるで初対面みたいな反応を見せていた。

 分かる、彼女に振る自由があるのは当たり前のことだ。

 でも、もう少しくらい優しく言葉を選んであげてもいいと思う。

 生まれた時から一緒にいたと言っても過言ではない彼が傷つくところを見るのは嫌だった。

 ホモというわけではない。幼馴染として当然な対応と言えるだろう。


「健の好きな奴聞いたことねえけど、いないのか?」

「そうだね、いないかなー」

「お、おいおい……さっきのは冗談だからな? ホモとかやめてくれよ?」

「当たり前でしょ! 仁はいい人だけど、そういう目で見れないよ」

「安心したぁ……本気で受け取られたら俺は吐いてたぞ今」


 可愛い女の子は高校にも沢山いる。

 先程の彼女だってそう、でもそれだけでしかない。

 僕は主人公じんの友達、幼馴染なだけだ。

 その肩書きがなかったら仁と関わることもなかっただろう。

 ゴミをゴミ箱に捨てて僕らは歩きだす。


「日高とかどうだ? 態度も柔らかいし、いいと思うけどな」

「僕になんか興味ないでしょ。だっていつも一緒にいるけど、仁にしか話しかけないじゃん」


 僕がいるところに仁がやって来て、そこに中原さんと日高(女)が集まるのだ。

 しかし意味はない。その皆はあくまで彼に興味があるだけで、友達の友達というものだった。


「でもなあ、詠と仲良くされたら複雑だからなあ……」

「あ、中原さんなら話せるや」

「だから仲良くされたら複雑って言ってんだろ」

「ないよ、中原さんも多分素直になれなかっただけだからさ、心配せず待っておきなよ」


 それこそ普段はもっと物腰柔らかい女の子なんだ。

 恐らく仁の真面目な顔が多分格好良すぎたとかそういうのだろう。 


「健!」

「あ、怒ったの……?」

「お前は優しいし幼馴染だから言ってくれてるのは分かるよ。ただな、そういうのだけはやめてくれ。俺でも分かるよ、あれはもう可能性がないってことだ。だから頼む」

「ごめん……仁に傷ついてほしくなくて……」

「ああ、ありがとな。終わった俺のことはいいから、お前はもっと自分のことに集中しろ」


 僕のこと……母さんの手伝いをしてあげればいいのか。

 父さんは僕が小学3年生の時に事故で亡くなって、それから高校2年生の11月現在まで母ひとりで支えてくれてい

 だから、あまり負担をかけたくないため家事はあらかた覚えた。ただ、洗濯、調理、掃除スキル、それでもまだ母には追いつけない。生きてる年数が違うので当たり前と言えば言えるけれども。


「うん、分かったよ」

「おう、それじゃあな」

「あ、もうこんな所に来てたのか、じゃあね!」


 とは言え、彼の家の真横なのですぐに家に着く。

 で、中に入ると――――


「おかえり~!」


 母がすぐに迎えに来てくれた。

 もう40代だけど20代と言われても信じられるくらいの若い見た目。

 髪色はあくまで普通の黒。身長は僕と同じくらいで160センチくらいだ。


「ただいま! 今日は早いね!」

「うん! これからお給料の日は休むと決めたの!」

「あ、ということは朝からいたんだ? なんか手伝えることある?」

「う~ん、特にないかな! ご飯できたら呼ぶから待っててね~!」

「うん、よろしく!」


 部屋に移動。

 制服を脱ぐ前にスマホをポケットから取り出したら通知がきていることに気づいた。


「中原さんから……え? 会えないか……って」


 なんか仁に申し訳ない気がしたが、僕は『近くの公園で集まろう』と返信して家を出た。


「すみません、呼び出してしまって」


 公園に行くと彼女の方が先に来ていて謝ってくる。

 僕はと言えば仁に謝りたかった。

 いや、連絡先を交換していることは仁も知っているので……とにかくやましいことはない!


「いや。それよりどうして『興味ないので』って断っちゃったの?」

「き、聞いていたのですか?」

「あっ!? ご、ごめんね……たまたま通りがかってさ!」


 彼には「やめてくれ」と言われたわけで、本来なら隠すべきではないのかもしれない。

 それでもあれ以上に口撃されるような事態にはさせたくなかったのだ。

 彼女は「それなら話は早いです」と少しホッとしたような笑みを見せた。


「内山さん、川上さんに『やっぱり好きではないので』と言っておいてください」


 し、死体撃ちぃ……残酷な少女である。

 彼女はは自分の長く明るい色の髪先を弄っていた。

 身長は低い、恐らく142とかそれくらいだろう。

 そんな小学生と言われても信じられるくらいの子が口にするにはあまりに酷いことだ。


「えと……興味ないじゃななくて、やっぱり好きじゃないから受け入れられないってことだよね?」

「はい、興味ないは少し言い方が厳しすぎたのかなと思いまして」

「(……どっちにしろ厳しいよ!)」

「内山さん?」

「あ、わ、分かった! それじゃあね!」

「よろしくお願いします。それでは失礼します」


 これは頼まれたこと、だから心を鬼にして仁に言わなければならない。

 だから帰りに寄って、出てくれた仁にぶつける。


「仁、中原さんが言ってたんだけどさ、興味ないんじゃなくて好きじゃないから断った、だってさ」

「なるほどな、興味ないよりマシだよな」

「う、うん……」

「てかさ、早速口説こうとしてんじゃねーよ!」

「ち、違うって……それじゃあね!」


 家へと退散。

 美味しいご飯を食べて、心地いいお風呂に入って紛らわせたのだった。 




 翌日。

 上履きへと履き替えて教室へ向かおうとした時だった。


「どいてどいてー!」


 ……僕の反射神経では半身振り向くことしかできなかった。

 その子を受け止めきることができず僕は尻餅をつく形となる。


「いたた……大丈夫?」


 ほぼ抱きつくようにして固まっている彼女が心配になった。


「あっ――――どいてって言ったでしょ!」

「そんなぁ……」


 彼女――――日高は慌てて立ち上がって僕を見下ろした。


「仁だったら絶対避けれたもん! はぁ、本当にこれだから困るよね!」

「えぇ……ごめん」

「そうやってすぐ謝るところもむかつく! べー!」


 ほらね、僕に対してはこんなものだ。

 態度が柔らかいなんて嘘だった。

 仁の前でだけ偽っているというのが現実だ。

 しかも、彼女は謝ることもなく先に教室へと入っていった。


「おはようございます」

「あ、おはよ……中原さん」


 恥ずかしいところを見られていたようだと気づいて苦笑。


「朝からいきなりでしたね、怒らないあなたは流石です」

「褒められてるのかな? ありがと。でも……痛かったなぁ……」


 振り向かない方がダメージは少なかったかもしれない。

 でもそうすると彼女が怪我をしていたかもしれないし、まあ良かったと考えておこう。


「掴まってください」

「いや、掴んだら君が倒れちゃうよ」

「馬鹿にしているのですか?」

「……失礼します」


 彼女の手を握らせてもらうと、とてつもなく小さいうえに柔らかかった。

 そして一切よろけることなく僕を立ち上がらせてくれる。


「ありがと……朝からごめん」

「いえ、教室に行きましょうか」

「うん、行こうか」


 日高がいるから嫌だけど、教室に行かないと遅刻扱いになってしまう。

 それに仁と彼女がいてくれるので、特にこれといった問題はないは――――


「君は邪魔! ご飯も別の場所で食べてよ!」


 時間は変わって昼休み。


「邪魔って……ここは僕の席なんだけど……」


 いつもどおり仁と中原さんが集まっているという状況で、いきなりこんなことを言われてしまった。


「だから邪魔って言ってるの! 分からないのかな!」

「分かったよっ。……それじゃあ仁と中原さん、また後で」


 ……仁の前でも偽ることをやめたようだ。

 食べる場所なんかどこでもいいので廊下で食べることにする。

 通りかかる生徒の視線が痛い……が、仕方ないことなんだこれは。


「今日は災難ですね」

「あれ、仁達とはいいの?」

「お昼ご飯と言ってもおにぎりひとつですから、もう食べ終わりました」

「駄目だよそれじゃ、ちゃんと食べないと」


 彼女はくすりと笑みを浮かべて僕の横に腰を下ろす。

 ……どうしてこの子はこんなにいい匂いがするんだろうか。


「言ってくれましたか?」

「うん、言っておいたよ。仁は『興味ないよりマシだよな』と言ってた」

「そうですか、ありがとうございます」

「ううん、中原さんにはいつもお世話になってるから」


 日高のせいですり減る心を彼女が癒やしてくれている。

 それでも勘違いはしない。彼女にそういうことは望んでいないし、彼女もまたそれは同じことだ。


「人を好きになるにはどうしたらいいのでしょうか?」

「いきなりだね……それは僕にも分からないかな」


 いい人ばかりではない。

 現実ではああして嫌われることだって沢山ある。

 自分が嫌いだと思う人だって沢山いる場所で、どうすれば好きになれるのかなんて分からなかった。

 正直、母と仁がいてくれればそれで良かったのも大きい。


「ずっと分からないままなんです、小学生の時からずっと」

「あ、それは特別な意味でってこと?」

「あ、そうですね、お友達としての意味では好きな人はいますよ?」

「はは、仁とかだよね」

「そうですね、1年と半年以上過ごしていますからね」


 それで「興味ない」は少し酷い気がするが……。


「でも、1歩踏み込まれた瞬間に分からなくなるのです」

「なるほどね、難しい問題だよね」


 その友達としての好きと、異性としての好きの違いはってやつが。

 表面上だけで見れば大してそれは変わらない。

 例えば『優しさ』に着目して近づいたとして、特別な意味でのものに変化したところで「そういう点が好きだから」となることだろう。

『あなたはどうして踏み込みたいのか』それをはっきりしてくれればいいが大抵はそうじゃない。だからこそ彼女は悩んでいるんだろうと思う。


「ちょっと変えるけどさ、中原さんは告白されてどうだった? 嬉しかった? それとも嫌だった?」

「そうですね……嫌ではなかったですよ? だって自分を好きになってくれるのは嬉しいではないですか」

「だったら、『興味ない』とか『好きではない』だけじゃなくて、『お気持ちは嬉しいです』とか言ってあげたらどうかな? 中には怒っちゃう人もいるだろうから、ちょっと気をつけないとね。男の人だけに限らないけど怖い人はいるからさ」


 僕だって一応彼女の友達をやらせてもらっているわけだし、彼女に怖い目にあってほしくない。

 僕如きのアドバイスが役に立つとは思えないが、言わないということはできなかった。


「……分かりました、内山さんの言うとおりだと思います。あれでは自分勝手でしたよね……」

「偉そうに言える立場じゃないけどさ、どっちも一応気持ち良く終わるならそうかなって……ははは」

「本当だよね! 君が女の子に偉そうにアドバイスとか有りえないんだけど!」


 仁と一緒で僕がいるところにすぐやって来てしまう。

 落ち着く暇もない。なにがそんなに気に入らないのだろうか。


「日高さん……」

「名字も呼ばれたくない! とにかく、詠ちゃんに余計なこと言わないで!」


 なんだろう……別に彼女になにかしたわけではないのに。


「返事は?」

「え、あ……うん……」

「はぁ、やっぱり仁の方がいいよね!」

「そんなの……分かってるよ」


 もう17年一緒にいるんだ、そんなことはとうに分かっている。


「日高、健を虐めるなよ」

「そんなことしてないよ~まあ行こ?」

「……ああ、また後でなふたりとも」

「うん……」「分かりました」


 お弁当箱を片付けて天井を仰ぐ。


「いや、日高さんの言うとおりだよね、ごめん、中原さん」

「どうしてですか? 内山さんは間違ったことを言っていなかったではないですか」

「そうかな……教室戻るね」


 あの子といると自信を失くす。

 この子といると暖かいけど申し訳なくなる。

 どうすればいいんだろうか……。

 昼休みが終わっても、授業が始まっても、答えが出てくることは決してなかった。

日高みたいな子いそう……。

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