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ウィスティリアプロジェクト

ジョージ・ガーデニアと時の宝玉(下)

作者: 猫藤涼水

- ジョージ・ガーデニアと時の宝玉(下) -

 『ジョージ・ガーデニアと時の宝玉(下)』



〇登場人物

●イライジャ・ヴェラトルム(39)

 15年前に吸血鬼になった元騎士。

●ジョージ・ガーデニア(27)

 ダークマター技術を駆使して戦う魔法使い。

●ジュリア・コルチカム

 悪霊。

●シェリー・ウィスティリア(25)

 マリーの妹。魔法技術の研究者。




  7年前の回想。

  シェリーの研究室。シェリーとイライジャ。


シェリー「ジュリア・コルチカムのことを調べたッス。界暦2010年にルビニ高等魔術学院を卒業。大学には入らず軍の研究室で活動。噂程度の情報ッスけど、姫様のコネだとか。主な研究内容は素粒子魔法についてッスね。そして天災級魔獣襲来のゴタゴタで行方不明になってるッス」

イライジャ「僕の言った通りだろう?」

シェリー「そッスね。でも行方不明になった後の話は確認が取れないッス」

イライジャ「だが事実だ」

シェリー「天災級魔獣を倒すために吸血鬼になった恋人……つまりイライジャを探すために姿をくらました、と」

イライジャ「そうだ。彼女は僕を見つけると吸血鬼化の解除の方法をなり振り構わず模索した。法や倫理に反することも厭わずね。その過程でネクロマンサーになり、死者すら出した」

シェリー「マリーお姉ちゃんも……」

イライジャ「……ああ。僕はジュリアの愛を、それがどれだけ歪んでいても受け容れるつもりでいた。例え殺人だとしても。だが、年端もいかないマリー君がジュリアと僕のせいで死に、その恋人のジョージ君が嘆く姿を見せられては、そんな愚かなことは続けられなかった」

シェリー「それでイライジャは、ジュリアと心中を図ろうとしたッスね?」

イライジャ「そうだ。僕はジュリアを殺害後、日光を浴びることで自殺するつもりだった。しかしジュリアは死ぬ間際、自身に対して死霊術を発動……怨霊化してすぐ近くにいたジョージ君に取り憑いた」

シェリー「なんでッスか」

イライジャ「ジュリアの霊を突き動かしている感情は僕への怨念だ。しかし霊体にできることは少ない。彼女には彼女の手駒となる生者が必要だった。そしてすぐそばにはジョージ君がいた。彼の精神は恋人の死による悲しみと、その恋人を殺した者への恨みに支配されていた。取り憑きやすい状態にあったんだ」

シェリー「……どこまでが本当なのやら」

イライジャ「僕の話に嘘偽りはない」

シェリー「仮にそこまで信じるとして、問題は世界滅亡とかいうヤツッスよ。何スかタイムリープて」

イライジャ「どうしても信じてもらう他ない。ジュリアは疑似タイムリープによるマリー君の復活を餌にジョージ君を上手く動かしている。ジュリアの生前の知識とジョージ君の魔法の素質。これらの組み合わせは脅威だ。マリー君の妹であり優秀な魔法研究者である、君の協力が必要だ。世界滅亡を阻止するため、手を貸してくれ。頼む!」

シェリー「……むう」



  タイトルコール

シェリー(N)「ジョージ・ガーデニアと時の宝玉」



  アディス城。

  対峙するイライジャとジョージ。ジョージのそばにジュリア。


ジョージ「すまないマリー。少し自失していた」

ジュリア「大丈夫だよ。さあジョージ。敵を殺して!」

イライジャ「くっ、ジョージ君、話を──」

ジョージ「──魔剣に食われろ吸血鬼!」


  鍔迫り合いになる両者。ギギギ、と剣と剣が軋む音。


イライジャ「ぐ……っ!」

シェリーの通信「イライジャ! もう話は通じません! 応戦しなくては!」

イライジャ「わかっている……!」

ジョージ「オラァッ!!」


  イライジャを吹き飛ばすジョージ。


イライジャ「ぐっ!? なんて膂力だ!」

シェリーの通信「人間の限界を超えています! 鍔迫り合いの状態から吸血鬼の真祖を弾き飛ばすなんて……!」

ジュリア「ジョージ、あれを」

ジョージ「ああ」


  グレネードのピンを抜く音。


シェリーの通信「しかし距離を取ることができました。あの剣が最大の脅威なので──、」

イライジャ「──グレネード!」


  爆発音。

  イライジャの悲鳴。


シェリーの通信「イライジャ!」

イライジャ「ひ、被弾した! なんだ、このダメージは……!?」

シェリーの通信「敵の攻撃によるCDM汚染を確認!」

ジョージ「剣だけじゃ押し切れないと学んだからな。切り札3つ目だ。対吸血鬼用CDMグレネード、VK-AX.01。自慢の逸品だよ」

ジュリア「VK-AX.01が発する衝撃波にはCDMアクシオンによる回復阻害効果が付随する。あなたにとっては致命的よね、イライジャ?」

イライジャ「そんなことが、技術的に可能なはずが……」

ジュリア「私を誰だと思っているの? あなたはよく知っているはずよ?」

イライジャ「今の君はただの怨霊だ、ジュリア」

ジュリア「誰が私を怨霊にしたと思っているの!? あなたは私の愛を裏切ったのよ!?」

イライジャ「君が愛していたのは、僕ではなく君自身だ。君は最後それを自覚したはずだ!」

ジュリア「っ! ジョージ! やって!」

ジョージ「もう起動準備に入ってる」


  端末を操作するジョージ。


シェリーの通信「周辺に大規模なエネルギー反応! イライジャ、上空へ退避してください!」

イライジャ「まだCDM汚染から復帰できていない。魔力が不安定なため、飛翔できない!」

ジョージ「切り札4つ目だ。これはお前を捕らえる檻だと思え!」


  大規模術式が起動する。


イライジャ「これは……っ!? か、身体に力が入らない……!?」

シェリーの通信「敵兵器の起動を確認! CDM反応です! 起動した術式を解析します!」

ジョージ「対吸血鬼用CDMクラウド生成機。コードネーム〝不可視の監獄〟。城そのものを兵器化して造った力作だ。CDMヒッグシーノを散布、強制滞空させることで大規模なCDMクラウドエリアを生成し、効果範囲内にいる吸血鬼を弱体化する」

イライジャ「強制……滞空……!?」

シェリーの通信「そんなめちゃくちゃな!?」

ジュリア「これであなたは力任せに無詠唱魔法を撃てないし、肉体強化を持続することも、逃げることすらできなくなった。もちろん、無限回復も機能しない」

ジョージ「さあ、時の宝玉を頂こうか」

イライジャ「くっ……!」


  ジョージがイライジャに近付く足音。

  剣を振りかぶるジョージ。


ジョージ「終わりだ!」

イライジャ「うおおっ!」


  剣と剣がぶつかり弾かれる音。


ジョージ「!?」

イライジャ「まだだ! まだ終わってない!」

ジョージ「さすがは元英雄といったところか!」

イライジャ「騎士の意地を見ろ!」


  イライジャのかけ声。剣と剣がぶつかる音。


ジョージ「ぐぅっ!? 肉体強化なしでこの重さだと!?」

イライジャ「隙など与えない!」

ジョージ「どうかな!?」


  グレネードのピンを抜く音。


イライジャ「!」


  爆発音。


イライジャ「あの至近距離でグレネードを……? 正気とは思えない」

シェリーの通信「イライジャ、怪我はありませんか!?」

イライジャ「ギリギリで飛び退くことができた」

シェリーの通信「注意してください。敵から検知できるHDM濃度が急上昇しました」

イライジャ「何だって? まさか、身体強化デバイスのリミッターを──、」

ジョージ「──オラァッ!!」


  ジョージの攻撃。

  剣と剣がぶつかる音。

  イライジャが吹き飛び壁に激突する。


イライジャ「ぐぁあっ!?」

シェリーの通信「イライ──、」

ジョージ「──追撃だ!」


  激しい攻撃の音。かけ声や怒号。

  イライジャのうめき声や小さな悲鳴が連続する。


イライジャ「な、なんてスピードだ!?」

ジョージ「遅いッ!」

イライジャ「しまっ……剣が──、」

ジョージ「──食らえ!」


  連続して攻撃するジョージ。

  斬りつけられ、悲鳴を上げるイライジャ。


シェリーの通信「イライジャ!」


  ジョージの大ぶりな攻撃。


ジョージ「オラァッ!!」

イライジャ「ぐぁあっ!」


  倒れ込むイライジャ。


シェリーの通信「しっかりしてくださいイライジャ! 敵妨害兵器の術式解析を急いでいます! 持ちこたえて!」

ジュリア「んふっ。あは、あはははは! もっとだよジョージ! もっと苦しめて!」

ジョージ「わかってるマリー。全てはお前とまた会うためだ」

イライジャ「ぐ……目を覚ませジョージ君……!」

ジョージ「苦しめ、吸血鬼」


  イライジャに剣を突き刺すジョージ。

  イライジャの悲鳴。


ジュリア「あはっ! あはははっ! 無様ねイライジャ!」

ジョージ「魔剣の味はどうだ?」

イライジャ「こ、この程度……どうということはない!」

ジョージ「そうか」


  攻撃するジョージ。

  イライジャの悲鳴。


ジョージ「怪我が回復しないのはどんな気分だ? 血が流れ続ける気分は?」

イライジャ「……これが、普通なんだ。何とも思わない」

ジュリア「何を余裕ぶって……!」

ジョージ「勝てもしない相手に挑み、結局目的を達成できず、地べたに這いつくばる。……いつかの俺を思い出す」

イライジャ「ジョージ君……」

ジュリア「ジョージ、殺して」

ジョージ「己の無力を惨めに嘆きながら死んでいけ、吸血鬼」

イライジャ「……!」

シェリー「うそ、うそ……!? 間に合わない! 解析が終わらない! あと少しなのに……! イライジャ!」

ジョージ「さあ、長かかった戦いに終止符を打……ぐぅ!?」


  剣を落とすジョージ。


イライジャ「?」

ジュリア「ジョージ?」

ジョージ「う……ぐ、ぐあああああっ!?」

シェリーの通信「これは……!」

イライジャ「なんだ!? 何が起きている!?」

シェリーの通信「敵から検知できるHDM濃度が異常値に達しています! 敵身体強化デバイスが……まさか……暴走!?」

ジュリア「こんな時に!? 役立たずめ!」

ジョージ「ぐぅ……く、くそ……エフィアルティスが、制御できないっ……! ぐあああああっ!?」

イライジャ「ジョージ君! うぐっ……身体が、動かない……!」

シェリーの通信「イライジャ! 敵妨害兵器〝不可視の監獄〟の術式解析が完了しました! ハッキングして停止します! すぐに無限回復を!」

イライジャ「わかった! 急げ!」

ジョージ「うぐぅうあああああっ!!」

ジュリア「くっ、あと一歩なのに! ……ジョージ、その吸血鬼にトドメを刺して!」

イライジャ「ジョージ君、耐えるんだ!」

シェリー「ハッキング完了! 敵兵器の従属化を確認! 強制停止します!」


  大規模術式が停止する。


ジュリア「なっ!? 〝不可視の監獄〟が!?」

シェリー「停止確認! CDMクラウド除去!」

イライジャ「回復した! ジョージ君!」


  ジョージに駆け寄るイライジャ。


ジョージ「ぐうっ……うっ……あ、ああ……!」

イライジャ「身体強化デバイスを停止する!」

シェリー「急いでください!」

ジュリア「まさかそんな……!」

イライジャ「デバイスは……背中に埋め込んでいたのか!?」

シェリーの通信「脊柱からのアプローチで脊髄に器機を接続するタイプと思われます! 制御装置には触らず、バッテリーを取り外すか破壊してください!」

イライジャ「これか! 破壊する!」


  バッテリーを破壊するイライジャ。


ジョージ「うぐぅっ……!」

シェリーの通信「HDMの暴走、停止しました……!」

イライジャ「間に合ったようだ……」


  ジョージのうめき声。


ジュリア「くっ……」

イライジャ「さあ、ここまでだな、ジュリア」

ジュリア「私の愛を踏みにじったばかりか、私を殺すの?」

イライジャ「その愛は僕に向けられたものではないし、君は既に死んでいる」

ジュリア「裏切り者のくせに……!」

イライジャ「ジュリア……」

ジュリア「それで、どうやって私を殺すの? 憑依状態の霊体を消滅させれば、宿主も死ぬわよ」

イライジャ「何の解決策も持たずに攻撃を仕掛けるわけがないだろう。高度な除霊魔法を発動させるデバイスを用意してきている」

ジュリア「ハッタリのつもり? そんな都合の良いもの──、」

イライジャ「──僕の協力者が誰だか知らないわけではないだろう」

ジュリア「……そう、シェリーちゃんの力を借りたのね」

イライジャ「デバイスのコードネームは〝陽光〟。霊体拘束、憑依解除、消滅の3つのプロセスを踏んで除霊するものだ。宿主を無力化していなければ発動できないがね」

ジュリア「そう……」


  間。


イライジャ「ジュリア」

ジュリア「何よ」

イライジャ「君は怨霊や悪霊と呼ばれる類の存在となってしまった。肉体を持たず、怨念だけがそこにある」

ジュリア「そうね」

イライジャ「そんな悲しい存在でいる必要は、もうないんだ」

ジュリア「……エゴイストはお互い様ね」

イライジャ「ジュリア」

ジュリア「綺麗な風にまとめているけれど、なんて卑怯な手段なのかしら」

イライジャ「聞いてくれジュリア──、」

ジュリア「──お望み通り消えてあげるわよ。目的を達した後でね」

イライジャ「何──、」

ジュリア「──ジョージ」


  銃声。


イライジャ「!」

シェリーの通信「!」

ジョージ「……詰めが甘い、吸血鬼」

ジュリア「んふっ」


  倒れ込むイライジャ。


ジョージ「ダークポイント。CDMアクシオンによって強化された対吸血鬼用の実包。着弾すると体内で弾頭がマッシュルーミングし、内蔵されたアクシオンが術式を展開する。実用化されれば血液切れしていない真祖を新兵がひとりで倒せるようになるだろうな。0から作ったオリジナルの最高傑作だ。術式が複雑すぎて、1発しか用意できなかったが……当たりさえすれば真祖すら必ず殺す、5つ目の切り札だ」

ジュリア「これで完全勝利。時の宝玉はジョージのものだよ。んふっ……あはは! あはははははははは!!」

イライジャ「強くなったね、ジョージ君。呆れるほどに」

ジョージ「!?」

ジュリア「なっ!?」

イライジャ「ふっ!」


  ジョージを殴るイライジャ。


ジョージ「ぐっ……かはっ!?」

イライジャ「身体強化が機能していなければ、真祖の拳には耐えられないね」

シェリーの通信「やりすぎてはいけませんよ、イライジャ」

ジュリア「そんなまさか……! ダークポイントに耐えられる吸血鬼なんているはずがないわ!」

イライジャ「違うよジュリア。耐えたのは僕ではない」

ジュリア「何を言って……?」

ジョージ「ぼ、防弾ベストか……!」

イライジャ「その通りだジョージ君。シリカとポリエチレングリコールを主素材としたクラス3のリキッドアーマーを装備している。7.62mmクラスのライフル弾にも耐えられるものだ。ダークポイントは魔術的な作用を除けばソフトポイントの拳銃弾だから、十分に防げるね」

ジュリア「吸血鬼が防弾装備!? そんなもの何故!?」

ジョージ「読まれて……いた……?」

イライジャ「そう。諜報手段はこちらにもあるということさ」

ジョージ「……っ!」

イライジャ「ジョージ君はこの弾を作る時に、ブラックマーケットと関わりを持った。簡単ではなかったが、そこから情報を割り出したんだ。こちらの諜報活動が、そちらの情報網にかからないよう、細心の注意を払いながらね」

シェリーの通信「ダミー情報を流したり、あえて通信を傍受させたりして、こちらが油断していると見せかけた甲斐がありましたね」

ジョージ「マジかよ……う、ぐ……」


  意識を失うジョージ。


イライジャ「む、意識を失ったようだ」

ジュリア「ありえない……! ありえない! ありえないありえないありえない!!」

イライジャ「ここまでだ、ジュリア。もう、終わりにしよう」

ジュリア「イライジャああああ!!」

シェリーの通信「〝陽光〟を起動してください」

イライジャ「了解した。デバイスを起動、プロセス1、霊体拘束を開始する」


  デバイスが起動する。


ジュリア「!?」

シェリーの通信「霊体は、思念と魔力によって構成されています。本来意思や指向性を持たない魔力に思念が形を与え、本来それだけでは存在できない思念の存在を魔力が留める。……まずは魔力を封じる結界を構築します」

イライジャ「プロセス1、霊体拘束を完了」

ジュリア「イライジャ……嘘でしょう!? 本当に私を殺すの!?」

イライジャ「プロセス2、憑依解除を開始する」

シェリーの通信「憑依現象は宿主と霊体を精神接続するものです。目には見えませんが霊体と宿主との間に繊維性魔力で編まれた糸が存在します。拘束状態なら糸を切断することは可能です」

イライジャ「プロセス2、憑依解除を完了」

ジュリア「やめて……やめてよ! どうしてこんなことするの!? 私はただ、あなたに私の愛を認めて欲しいだけなのよ!?」

イライジャ「プロセス3、消滅を開始する」

シェリーの通信「魔力と思念の結合を解除すれば、魔力はただの魔力に、思念はただの思念になります。霊体は存在を維持できなくなり、完全な消滅を迎えます」

ジュリア「イライジャ……! イライジャ!!」

イライジャ「…………」

シェリーの通信「イライジャ。プロセス3を実行してください」

イライジャ「……ジュリア」

ジュリア「!」

イライジャ「吸血鬼化した僕を必死に探してくれて、ありがとう。孤独に耐えられなかった僕にとって、それがどれほどの救いであったことか……言葉にできないくらいだよ」

ジュリア「ええ、ええ。だから私を殺すのはやめて!」

イライジャ「君と過ごした日々は今でも僕の思い出だ。幸せだった。人間だった頃……君と初めて出会った日のことを今でも鮮明に思い出せるよ」

ジュリア「私も、私も覚えているわ! 私がまだ高校生だった頃よ。ええ、覚えてる!」

イライジャ「けれど、それは過去だ」

ジュリア「……っ!」

イライジャ「君を闇に落としたのは僕だ。その罪から逃れることはできない。マリー君のことも、僕の罪だ」

ジュリア「イライジャ……!」

イライジャ「罪は消せない。過去は変えられない。けれど、償うことはできる。過ちを繰り返さないように、前へ進むことはできる」

ジュリア「そんな、やめて……やめてよ……!」

イライジャ「ジュリア、君は今や僕の罪そのものだ」

ジュリア「私は罪なんかじゃ……!」

イライジャ「納得しろとは言わない。そんな残酷なことは言わない。けれど、僕は罪を償う。……プロセス3、実行」

ジュリア「いや……いや……いやあああああああっ!!」

イライジャ「ジュリア……愛していた」


  間。


イライジャ「……プロセス3、消滅を完了」

シェリーの通信「……お疲れ様です、イライジャ」

イライジャ「……やっと、終わったんだな」

シェリーの通信「イライジャ……」

イライジャ「男というのはね、過去の女を思い出の宝箱にしまうものなのさ」

シェリーの通信「イライジャも、ジョージもですか?」

イライジャ「ああ。女は上書き保存、男は名前を付けて保存と、昔から言うだろう?」

シェリーの通信「そうですね……」

イライジャ「この喪失感は……もう味わいたくないな。……ジュリア、僕は君を、心の底から愛していたよ……」

シェリーの通信「あはは……マリーお姉ちゃんの妹が聞いているってのに、お姉ちゃんを殺した犯人によくそんなこと言えるッスね……」

イライジャ「……すまない。自分のことばかりだった」

シェリーの通信「いいッスよ。……それとイライジャ」

イライジャ「どうした?」

シェリーの通信「イライジャを恨むの、やめるッス」

イライジャ「む」

シェリーの通信「ん」


  間。


イライジャ「そうか」

シェリーの通信「そうッス」

イライジャ「作戦終了。これより帰投する」

シェリーの通信「了解」

イライジャ「……またひとつ、戦いが終わった」


  間。

  病院。

  雀の鳴き声。

  シェリーが廊下を歩く足音。引き戸が開く。

  ベッドにいるジョージ。


シェリー「お兄ちゃん」

ジョージ「シェリーか」

シェリー「身体の調子はどうッスか?」

ジョージ「そこそこだな。憑依の影響はほとんどないが、イライジャから受けた傷が痛い」

シェリー「回復魔法も万能じゃいッスもん」

ジョージ「そうだな。……イライジャは?」

シェリー「さあ。忽然と姿を消したッス」

ジョージ「はあ?」

シェリー「あんだけ世話かけておいて、あの吸血鬼……」

ジョージ「ジュリアのこと話してやろうと思ったのに」

シェリー「ジュリアの?」

ジョージ「憑依されてる間、ジュリアの思念を感じ取れた。イライジャへの想いは、全部が全部独り善がりじゃなかった」

シェリー「そッスか……。でも、きっとイライジャはそんなのとっくに分かってるッスよ」

ジョージ「そうか?」

シェリー「そッスよ」

ジョージ「……悪い奴じゃなかった」

シェリー「知ってるッス。英雄と呼ばれるだけあるッスよ」

ジョージ「ああ」


  間。


シェリー「それはそうとジョージ。ヤバい手紙が来てるッスよ」

ジョージ「えっ、ヤバい手紙……? 神啓騎士団からか? やっぱ逮捕か?」

シェリー「いや王室からッス」

ジョージ「は?」

シェリー「ていうか女王様からッスね」

ジョージ「いやいやいや、はあ!?」

シェリー「女王様はイライジャと知り合いらしいッスから、それ関係じゃないッスか?」

ジョージ「マジかよ」

シェリー「ほら、これッス」

ジョージ「うわなんか高級そうな紙だな。読むわ……」


 間。


シェリー「何て書いてあるッス?」

ジョージ「イライジャが手を回したらしい。神啓騎士団の女王様直属部隊に入れば、ブラックマーケットでの取引や違法な兵器開発、その他もろもろの罪は免除。俺は無罪放免になるんだそうだ」

シェリー「……マジッスか?」

ジョージ「マジッス」

シェリー「うわあ……犯罪者が大出世とか、世間が認めないッスよ」

ジョージ「顔も名前も隠して謎の人物として入隊するんだろうよ」

シェリー「まあ、いいんじゃないッスか? お兄ちゃんは元から騎士団志望ッスもん」

ジョージ「そうだな……」

シェリー「不満そうッス」

ジョージ「…………」

シェリー「お兄ちゃん?」

ジョージ「いや。なあシェリー」

シェリー「ん?」

ジョージ「イライジャは罪を償ったんだよな」

シェリー「……そうッスね。責任取ったッス」

ジョージ「なら俺もそうする。騎士団で戦うことが、罪を償うことになるのかは分からないが……世界を滅ぼしかけた罪は償う」

シェリー「ん。それがいいッス」

ジョージ「いつまでも、過去に囚われてるわけにもいかないしな。……マリー、愛してたよ」


  間。


シェリー「……イライジャとお兄ちゃん、似てるッス」

ジョージ「さよなら、マリー」


〜fin〜

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