避けるとき
(今日飲むワインの銘柄でも選ぶような軽々しさで、妃を薦めてくるのもどうかと思いますが)
もちろん想定の範囲内だが、ストレートな質問に苦笑してしまう。
「そうですね…クローム皇子の剣術は素晴らしく、また学問においても大変優秀な方と以前から耳にはしておりました。本日お会いしても、お噂以上に素敵な方だと思いました」
「じゃあ…「ただ」」
嬉々として口を開いた国王に言葉をかぶせて話を続ける。本来は不敬ですこれ。寛大な国王様と存じますのでどうかお許しください。
「そんな素晴らしい方の隣に並ぶなんて、私には畏れ多いことです。王都から外れた辺境の侯爵家に生まれた私からすれば、本当に夢の中の話ですわ。皇子にお似合いのご令嬢でしたら……リリー侯爵家のお嬢様はいかがでしょうか?リリー・タラン・ルータスというご令嬢で、皇子様や私と同じ一五歳です。すでに領の仕事も一部任されていると伺いました。非常に優秀で、容姿も整っていらっしゃるとか。私もまだお会いしたことはないのですが、その素晴らしい噂はカンデス領まで聞こえてくるほどですわ」
結婚の意思がないことを伝えつつ、あらかじめ調査していたご令嬢を全力で紹介した。以前の私は、殿下の願ってもないお誘いに、何の疑問もなく婚約を承諾してしまったが、今回の私は一味も二味も違いますわ!!
「リリー侯爵家の?優秀な娘がいるとは聞いているが、確かに今まで一度も面識はないな……」
少々無理矢理ではあったが、私へ向かっていたベクトルを違う方向へ押しやる(なすりつける)ことができたようだわ。興味を持っていただけそうな反応にほっとして、さらに言葉を続けた。
「それに、どんなご令嬢にも靡かないのは、もしかするとすでに心に決めた方がいらっしゃるのかもしれません。言い出さないのは何かご事情がおありなのかも……」
「確かにその可能性もないとは言えないが。思えば最近は忙しくてろくに話もできていなかったな。よし、息子がどう思っているのかすぐにでも話を聞いてみよう」
何か思うところがあったのか、私に一言礼を残して陛下は足早に城の中へ戻って行った。
「……っふー!なんとか回避できたかしら!」
これでクローム皇子の妃候補になる線は途切れたでしょう。安心した途端、小腹が空いてきたことに気づく。
「そろそろ戻らなきゃね。ああーお料理まだ残っているかしら?」
ソフィーの頭はすぐに会場の料理のことに切り替わり、清々しい気持ちで中庭を後にしたのだった。
☆一部改訂しました。