本番のとき
誰もいない中庭で両手をぐんと伸ばし、大きく深呼吸をする。
吐き出してみれば、深呼吸というよりため息に近かった。
「久しぶりだからかな?時間が長く感じるわ」
三年間、夜会やお茶会にも殆ど参加していなかったせいか、久しぶりの貴族らしい会話にどっと疲れが押し寄せる。
それだけではない。この地味な装いが興味を引くのか、いつも夜会にいない人間がいるのが珍しいのか、たくさんの男女に声をかけられて疲れてしまった。
「でも本題はこのあとね」
近くのベンチに座り、少しの休憩を取ろうとした時だった。
「そこにいるのは、ソフィー嬢かな?」
本来であれば、こんな人気のない中庭にはいないはずの人の声がする。
(本当にいらっしゃったわ……!)
「はい、陛下。ソフィー・ラ・カンデスにございます」
中庭の入り口から、国王がこちらに歩いて向かってくるのが見えた。その場に立ち最敬礼で迎える。以前と全く同じ展開に、これからの会話を想像して、自然と緊張が高まる。
「まだパーティは始まったばかりというのに、なぜ一人でこんなところに?」
「久しぶりにこのようなパーティに参加しましたので、少々浮かれてしまって……冷たい風に当たりにきたのです」
「そうか。あまり長居すると体が冷えるだろう。ほどほどに休んだらまた戻るとよい」
「お心遣い感謝いたします。ありがとうございます」
「ところで、息子を見なかったか?」
案の定の質問に、少しだけ肩がこわばるのを感じた。
「いえ、先ほどご挨拶をした後は、クローム皇子のお姿は見ていませんが……どうかなさいましたか?」
「むむ……そうか。実は今日のパーティで、息子にお似合いの人が見つかればいいと思っていてだな。これまでも沢山の令嬢を紹介させてはいるが、中々首を縦に振らんのだ。そうだ、君はどうかね?息子とは初対面だろう?」
更新遅くなりました~汗