選択肢5
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「殿下、そろそろ休みましょう」
「まだだ」
連れ去られたソフィーを探し続け、いつのまにか辺りは暗く、夜になっていた。
「……クローム」
「……なんだ、ランデルか」
「なんだとはなんだ。……心配な気持ちは十分わかるが、もう辺りも暗い。これ以上やみくもに探しても見つからないだろう」
「……」
「少し休んだほうがいい。明日早朝から探そう」
部下たちも日中の暴動騒ぎで疲労は限界だった。予想外の滞在になるがもう日も暮れて時間も遅いため、数十人の騎士を受け入れられるような宿もない。
仕方なく野営地にテントを張り、翌朝探索を再開することにした。クロームは誰もいなくなった篝火の前に腰かけ、消えかかる火をじっと見ていた。
「心配で眠れないのか?」
「そういうわけじゃない」
「そんな無防備で外にいられると俺もおちおち眠れない」
ランデルはそう言うなり隣に勢いよく腰を下ろした。
「ソフィー嬢ならうまく切り抜けるさ。きっと無事だ」
「だからそんなんじゃないって言ってるだろ」
「はいはい。まあそういうことにしといてやるよ」
それから特に会話もなく、二人は消えていく火を静かに見つめていた。
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翌朝。まだ陽が昇る前の薄暗い時間だった。
クロームが探すまでもなくソフィーはあっさりと戻ってきた。
なぜか武装派の男たちを数人引き連れて。
「おい、ランデル」
「はい、殿下」
「どういう状況だ?」
「いやあ、さすがの私にもさっぱりわかりません」
ソフィーはクロームを見つけると、戸惑う男たちをぐいぐい引っ張りながら、クロームのいる場所へと向かってきた。
「殿下、お話があります!」
「だからどういう状況だ」
「会談をしましょう!ほらっ」
「おい、押すな……っつーかどうなってなんだよ!奇襲を仕掛ける作戦だったろ?!俺たちを騙したのか?!」
どういうことだと詰め寄る男たちを、落ち着きなさいと宥めながら平然と自分を拐った男たちと話している。
一体なんだというんだ。
クロームは頭痛をこらえるようにこめかみを押さえながら、とりあえず敵陣にノコノコと現れた男たちを捕らえるよう指示を出した。
「くそっ」
ほとんど全員が捕まり、ボスと呼ばれる男だけが騎士達の手をスルリとかわし、おい!話が違うぞとソフィーの腕を掴んだ。
「殿下!お願いです。捕らえる前に、一度この人たちの話を聞いてください」
ソフィーは腕を掴まれながらも目線はクロームだけに向けていた。
「自分がどんな目に遭ったかわかっているのか?誘拐した人間の話を聞けとはたいしたものだな」
人の気も知らずに男達をかばうソフィーを見て、イライラを抑えきれず思わず冷たい言葉を吐き出した。
「拐われたことは許すつもりもありませんし、勿論彼らにはそれ相応の罰を受けて貰うつもりです」
おい!聞いてないぞ!と慌てる男たちを振り返ることなく「ただ、」と言葉を繋いだ。
「連れ去られた後、ひどい扱いを受けることはありませんでした。そして領主のことや税収の取り立てについて話を聞きましたが、おかしな点がいくつかあって……殿下なら彼らを捕まえて檻に放り込むのは簡単でしょうけど、それだけでは解決しない気がしたのです」
「それで?俺が素直にはいと言うとでも思ったか?」
「いいえ。なので話を聞いてくれないのであれば……」
ソフィーはおもむろに懐から1枚の紙を取り出した。
「私、クローム殿下との婚約を破棄させていただきます!」
「「「は?」」」
それまで殺伐としていた空気の流れがピタリと止んだ。
クロームはピクリと眉を寄せただけで、表情をほぼ変えなかったのだから誉めてやりたい。
「さあ!選んでくださいませ、殿下!」
ソフィーが武装派と呼ばれる彼らを救いたい気持ちは、嘘ではなかった。
そしてあわよくば……何かにつけてクロームとの結婚破棄を虎視眈々と狙っていたことも事実だ。
「本気か?」
「勿論本気ですわ!話を聞いてくれないのでしたら正式に陛下に提出させていただきます」
「おい、お前……」
男が困惑しながらソフィーの腕を引いたときだった。
「近い」
「ひゃっ」
突然逆方向から延びてきた手によって男の手は振り払われ、
強い力で腕を引かれた次の瞬間、ソフィーはクロームの香りに包まれていた。
ソフィーが慌てて離れようとすると、「動くな」と耳元で囁かれ、ピシリと固まった。
クロームは滅多に見せることのない笑顔で男たちを一瞥した。
「さて、冷静に話し合おうか」
後日ランデルは、あの日死神を見た、と語った。




