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選択肢4


……いいにおい。


ふと目を開けると、鉄骨の天井が見えた。


ソフィーは簡易ベッドに寝かされていた。

天幕で仕切られているが、大きな倉庫の中のようだ。窓がないのか薄暗い。


「起きたか」


「……誰?」


「……」



服はボロボロだが、体格は軍人のように屈強な男が入ってきた。

ソフィーの質問には答えず、ベッドの横にある椅子へと腰かける。


ベッドから出ようと毛布を剥ぐと、冷たい空気が身体に纏わりついた。


「寒い…」


反射的に首をすくめる。自分の体を抱きしめるようにぎゅっと掴んだ。

すると男は手に持っていた筒のようなものを差し出してきた。


「……」


「スープだ」


黙って受け取ると、男は立ち上がり出口の方へと歩き出した。



「待って!パンもちょうだい!!」


「……は?」


「おなか減ってるのよ!スープだけじゃ足りないわ!」



男は、ちょっと何言っているかわからない、という顔だ。


「どうせここがどこかも教えてくれないし、出してはくれないんでしょう?ならちゃんと世話してよね!」


「え……あんた捕まってるんだぞ?立場わかってんのか?」


「あ、やっぱり捕まってたのね。まあいいわ。ちゃんとご飯出してくれたら静かにしてるから」



男は困惑しているようだが「わかった」と素直に返事をして出ていった。



いなくなったのを見計らい、天幕の下から外を覗き見る。


「なによこれ……」


倉庫内には怪我人が所狭しと並べられていた。

数人の女性が看病をしているのが見え、あの教会と同じだ。


「ここも怪我人だらけ?敵も味方も満身創痍ね……」



「覗きはその辺にしておけ」


背後から聞こえた声にぎょっとして振り向くと、さっきとは別の男が立っていた。

細長い手足とスラリとした体形。切れ長の目がこちらを探るようにじっと見ていた。


「あら、人は誰でも外の世界を見たくなるものよ」


「そうか、見たところでオジョウサマにはどうしようもないだろうけどな」


傷だらけの手にはバケット2つ入った籠。

どうやらちゃんと食事をもってきてくれたらしい。


「ねえあなた、さっきの人と兄弟?」


「あ?関係ねえだろう」


「やっぱり。眉間にしわ寄せた顔がそっくりだもの。ねえ、私ソフィーっていうの?あなたは?」


特にこたえる気がないらしいが、椅子に腰を掛けた。

見張り番、てとこかしら?


「ここはあなたたちのアジトなのね。……こんなに負傷者が多いのに、なぜ繰り返し暴動を行うの?」


「……」


「病人ばかりで大変ね。本当に武装派なの?今すぐやめた方がいいんじゃない?」


「……」


「あなたボスでしょう?」


「あ?」


「やっぱり!イケメンだもの!!」


カマかけだったが当たったらしい。若干目が揺れているのを見逃さなかった。


「あの皇子に逆らうとひどい目に遭うわよ。あ、そうだ女や子供をさらって売り飛ばしているというのも本当?」


「そんなことはしてねえ!俺たちは女も子供も大切にする!」


我慢の限界だったのか、噛みつく勢いで口を開いた後、しまった、という顔でまた口をつぐんでしまった。


「ふうん。町で聞いた話とちがうわ」


「あんたも聞いてた話と違いすぎる」


男は、疲れ切った表情でため息を吐いた。


「なぜ暴動を起こしているの?」


「……数年前は俺たちもきちんと働いて、税を納めて、まともな暮らしをしてた。だけどだんだん土地が痩せて、領地からの取り立てもますます厳しくなって、俺たちが暮らすための食糧さえも全て搾取された。こんな状況を傍観しろってのか?」


「え?税が?この間領主に会ったけど、今は農民の負担も少なくなるように税率も下げているって話してたわよ?」


「そんなの全部嘘にきまってる。俺たちはその取り立てに困窮して、こうして暴動を起こすしかなかくなったんだ」


領主の家もあまり潤っている印象ではなかったし、嘘を言っているようには見えなかった。


(この男も生活に困っていたのは本当のようだし…やはり領主が嘘をついてたってこと…?)


違和感を感じつつも、男が持ってきたパンをひょいとつまんで食べた。


「…!?ナニコレ超おいしいじゃない!」


決して空腹のせいではなく、城で食べる一級品のバケットよりもおいしく感じた。


「あーーーーワイン、ワインがあれば……」


「アンタまだ酒飲めないだろ」


「人をさらっておいて、そんな真面目な発言おかしいわよ」


「いや、おかしいのはアンタだろ……敵陣で出されたのによく疑いもなく食えるな」


男は本気で呆れているらしい。


「目的はなに?金?」


「いや、金だけど金じゃない。俺たちは仕事をしたくても、土地が痩せしまってどうしようもない。過剰な税金の搾取はやめてもらいたいだけだ。ただ普通の暮らしがしたい」


もっともな願いだった。土地が痩せてしまったのは領主のせいでもないが、領民のせいでもない。


「あとは勿論、俺たちをこんな目に遭わせた領主に復讐したいって気持ちもある」


「……あ、いいこと思いついたわ」


(我ながら天才かもしれない)


顔がにやけるのが止まらない。そんなソフィーを見て男の眉間にはさらにしわが寄った。


「いやだ」


「私はいやじゃないわ」


「だからなんでそんなにマイぺーズなんだよ?!ここ敵陣だぞ?!」


「いいからとりあえず聞きなさいよ」


男は何かをあきらめたらしい。二度目の大きなため息を吐いた。


「作戦はこう。まず……」


男が乗り気になるまで、そう時間はかからなかった。


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