選択肢2
教会内は以前より負傷者が減っているように見えた。
どんよりしていた空気も、こころなしか明るい雰囲気だ。
「なんだか今日は、みなさん表情が明るいですね~」
「そりゃあお嬢ちゃんが来てくれたからさ!」
以前手当したときはろくに話もできなかったおじさんが、
ソフィーのことを覚えていてくれて、かつ今日は無駄口をたたけるほどに回復していた。
「ふふ!おだてても何も出ませんよ?本当は何かあったんですか?」
「半分くらいは本当なんだけどな!……まあその半分は、これよ」
ソフィーの目の前に手を広げてみせた。
武骨なおじさんの手の平には、小さな茶色の種のようなものが一粒転がっていた。
「これは……」
「お嬢ちゃんは知らないだろうが、これは皇太子殿下がくださった貴重な種なんだ。なんでも、この乾燥した土地に合うかもしれないから、国策でこの種を育てるんだと。その種を育てる人間を大量に募集するっつうんで、俺もやってみようかなと思ってな」
ソフィーはその種をもちろん知っていた。
リリーが幼いころから研究に研究を重ねて、愛情込めて育てた、貴重な種だ。
リリーの知らない土地で、こんな風に誰かの役に立っている。素晴らしい友人を持てたことに誇らしい気持ちに浸っていると、そのおじさんが種を見ながらしみじみと話し出した。
「……俺は元々鉱物の商人なんかをやってたんだ。今や見る影もないが、賑やかなこの町が好きでいつの間にか住み着いてしまってなあ。こんなおかしな町になってしまったが。何もかも失っちまった今、正直、またゼロから商人を始めるのは絶望的だ。もう仕事なんて見つからないと思っていたよ。でも、その種を育てる仕事っつうのを皇太子様にみんな聞かされて、もしかして、このどうしようもない町も、また活気を取り戻せるんじゃねえかって……」
種を見ながら嬉しそうに話すおじさんを見て、ソフィーはなんと声を掛けたらいいかわからなかった。
「いや、わかってるんだ。そんな簡単なことじゃないって。俺はただ、あの見知らぬ奴らがわいわい集まって、バカやってるような、そんな街をまた見たいんだ」
「おじさん……」
大丈夫ですよ、きっとそんな日がきますよ、と口から出かけたが、
あまりにも無責任ではないかと思い留まった。
たった数日この土地に来ただけのよそ者。
一緒にがんばれもしないわたしが言ったところで……
「なんてな!種も大事だが、俺はお嬢ちゃんがこうして手当してくれただけでもありがてえ。どこからやってきたんかも知らんが、またお嬢ちゃんがこの町に来る頃には、気楽に歩けるような、安全な土地にしてえなあ」
そう笑ってくれたおじさんの目には、力がみなぎっていた。
私にも何かできることがないのかなーーーー
心強いおじさんの姿を見て、そんなことをボンヤリ考えた時だった。
外が急に騒がしくなり、シスターたちが慌てて入り口や窓を閉め始めた。
「みなさん落ち着いて!」
「外でまた暴動が……」
「またあいつらか!」
騒然とする堂内で聞き取れたのは、外で暴動が始まったということだった。
今まで穏やかだっただけに、ソフィーも動揺を隠せない。
「暴動って一体……」
「武装派と呼ばれるやつらさ。教会には来ないだろう」
「……私、外の様子を見てきます」
「お、おい!やめな!女子供にも容赦しないやつらだ。見つかったらどこかに売り飛ばされちまう」
「ありがとう、おじさん。でも大丈夫!」
必死で止めるおじさんに、ニコリと笑ってソフィーは教会の裏口からそっと外に出た。




