決心のとき
この姿で目を覚ましてから早くも1か月。
屋敷の中でのんびりと穏やかな日々を過ごしている。
でも記憶のなかった12歳の私ではない。ひとりになる時間を見計らって、これから先私が辿るであろう未来を覚えている限りノートに書きまとめている。
あの日見た、殿下の冷たい表情と、私に向けられた無機質な声。
殿下が何を考えていらっしゃるのか、私には最初から最後まで分からなかった。そして何故私が殿下の暗殺容疑をかけられたのかも。
「えーい!わからないけれど、またあのような最悪の結末を迎えるつもりは毛頭ないわ!我慢ばかりの王宮生活も本当にこりごり」
皇后という立場になってから、あの頃はいろんなことを我慢していた。
それに殿下をお慕いする気持ちはあっても、ルマン侯爵令嬢がいつも彼の近くにいて、私から話しかけることなどとてもできなかった。もちろん殿下も、公務以外で私に話しかけることは一切なかった。
王宮に引きこもって皇后としての仕事に追われ、時には国内外のパーティーへ参加して常に愛想よくふるまうことを求められた。自由に過ごせる時間なんてこれっぽっちもなく。
本当は城下へ降り、平民のように働いたり、森でのんびり過ごしたりしたかった。城を出て、自由な生活をおくりたかった。
考えれば考えるほど、なんて窮屈な人生を生きていたのだろうと思う。
そしてこのまま何もしなければ、あと数年後には殿下の婚約者として城に上がることになる。
「殿下のことは愛していたけれど、また殺されるなんてまっぴらごめんよ」
殿下との婚約を回避すれば王宮に行くこともないし、暗殺容疑で城を追われる羽目にもならない。はず。
「とにかく。今度の人生では殿下と結婚しないように軌道修正しないと」
まずは作戦を練らないと。
殿下との婚約が決まったのは、たしか殿下の15歳の誕生日パーティーに呼ばれたとき。
「あと3年もあるわ。それまでいろいろと準備できる」
やられっぱなしじゃ気が済まない。こうなったらとことんやってやるわ。
窓に映ったわたしが、不敵な笑みを浮かべている。
そのさらにずっと向こうで、きれいな満月がそっと私を見守っていた。