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視察6

___


「ここが、商人の町……?あまりに閑散としていますね」


町の中心の広場までやってきたが、お店どころか通りには人影すら見当たらない。商人の町というよりは、シンと静まり返った不気味な町だった。


「今日はまた一段と人が少ないな」

「殿下。昨日も武装派がひと暴れしたようです。被害状況は……」


ランデルは、酒場での不敬なやりとりなど無かったことのように、しれっとクロームに被害状況を報告している。ランデルの報告が終わると、クロームもソフィーに淡々と今日の予定を説明した。


「街の教会で、家や仕事をなくして生活が困難になった領民を保護している。今日はその教会の視察という建前で、武装派の動きを探る。ある程度幹部に目星はついているが、主な活動拠点を見極めることが目的だ」


「武装派……規模は大きいのですか?」


「推定だが、グループ全体で百人ほどの規模のはずだ。ただ、武装派以外にも乱闘を起こしている者達はいる。領主への抗議活動を行う小さな党派までも含めると、ざっと数百人には及ぶだろう。昼間も乱闘や襲撃があるかもしれないから、君は護衛から離れないように」


「そうですか。いざとなったら私も加勢しますわ」


「そう、護衛の近くに……は?」


「ですから、微力ながら私もお手伝いさせていただきますわ。悪党を懲らしめるのって気持ちいいですよね?」


悪党退治と聞いて心を弾ませずにはいられない。ソフィーは勿論でしょう?という笑顔でクロームに加勢の意思を告げた。クロームは、一瞬ポカンとしていたが、次の瞬間には、何を言い出すんだコイツは、と言いたげな表情で、顔をひくつかせながら言った。


「とにかく、危険なので君は護衛の近くを離れるな。自分の身を守ることを最優先に考えて行動しろ」


ソフィーが反論しようとする前に、クロームはさっさと教会に向かって歩き出した。


「殿下!おいていかないでください!」


悪党退治!と意気込んだものの、ここは初めてやってきた見知らぬ土地。

ソフィーの知り合いは、クロームとランデルしかいない。

闘う気は満々たが、心細い気持ちが抜けきらず、不本意だがクロームの後を慌てて追いかけた。


やっと追い付く、というところで、今度は恐ろしい光景が目に飛び込んできた。


「なにしにきた!ちゅうおうぐん!!」


「……」


小さな男の子が、クロームに向かって石を投げつけたのだった。


「かえれ!やくたたず!」


10歳くらいだろうか。まだ声変わりもしていない可愛らしい声で、

この世で最も冷酷な男に、最も言ってはいけないNGワードを次々にぶつけていた。


その少年を護衛の騎士が取り押さえたが、少年は叫ぶことをやめない。


「ころすならころせ!どうせ母ちゃんも父ちゃんも死んだんだ!!」


皇族へ石をぶつけるのは侮辱罪。最悪の場合死刑にあたる。


でも、あんな小さな子供まで罰されてしまうの?


「やめ「お待ちください」」

子供を叱りつつ、クロームの前に立ちはだかろうと一歩踏み出したが、いつの間にか横にいたランデルさんに腕を掴まれてしまった。


「あの男の子なら大丈夫ですよ。殿下にまかせましょう」

「そんな……」


黙ってみていろと?

掴まれた腕が振りほどけない。悲痛な気持ちでクロームと少年を見つめた。クロームは少年に近づくと、目の前でしゃがみ込んだ。


「いい度胸だな、小僧。俺が誰か知っているのか?」

「この国の“おうたいし”だろ!おとな達が言ってた!」


「ほお。その俺に石を投げつけて、どういうつもりだ?」

「あんたらのせいだ!あんたらのせいで、俺の父ちゃんも、母ちゃんも……!」


怒りに燃える少年の目からは涙があふれそうだった。

クロームは、開放していい、と騎士達の拘束を解かせた。


「なにがあった」


解放された少年は泣くのをギリギリ耐えた状態で、その場でポツリポツリと、話しだした。


「おれの父ちゃんと母ちゃんは、まいにち土をたがやして、たくさんのたべものを国におさめてたんだ……だけどある日、知らない奴らに、とちを荒らされて……ぜんぶ奪われた。奪ったもの全部、そいつらの名前で国におさめたんだ!怒った父ちゃんと母ちゃんは、奴らに文句をいいにいったけど……ぐすっ……力には勝てなくて……そのまま帰ってこなかった」


最後、少年の目からボロボロと涙があふれた。


「だれも助けてくれなかった!おとなも!国も!!こんな国、なくなっちまえばいいんだ……!」


遠くでみていたソフィーは、少年の話にひどくショックを受けた。


(親を殺されたですって……?こんなに小さな子が……)


しばらく黙って聞いていたクロームは、立ち上がり、少年に向かって言った。


「父ちゃんと母ちゃんのこと、守ってやれなくてすまなかった」

「……!」


ソフィーは目の前の光景を疑った。

なぜなら、あの冷血漢のクロームが、一人の名も無き少年に向かって頭を下げたのだから。


「あやまったって、もう遅いよ!父ちゃんも母ちゃんも、もういないんだ……っうっ……」


「ああ、わかってる。それでもすまなかった」


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