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視察4


「医学、ですか?」


「そうだ。この間のお茶はよく効いた」


「ああ、あれは」


あのお茶は、昔クロームのために作った薬の原料をお湯で濾したものだ。

とっさに答えようとしたが、前世の話をしても怪しいだけということに気づき、言い淀んだ。


「えーと、以前、興味を持った時期がありまして、ほんの少しですが勉強していました。医学というよりは、効能のあるお茶に興味があったくらいなのですが」

「そうか。実は似たような香りの薬を昔飲んだことがあった」

「そうなんですか?」


ソフィーがクロームのために調合していた薬だったが、既に考案した誰かがいたのかと、興味をもった。


「ああ。その薬を作った人は……俺のせいで死んでしまったが」


そう言ってクロームは、目の前にあったグラスをぐいっと煽った。


「殿下、それ、もしかしてお酒なのでは」

「大丈夫だ。そんなに弱くない」

「そういう問題じゃ……あっまた!」


ランデルが残したグラスを、平然とグビグビ飲んでいる。


「18になったばかりなのに……それにこの間まで、疲労で今にも倒れそうなご様子だったじゃありませんか」

「……ランデルだけ飲むのはズルいだろ」

「そういう問題ですか?」


クロームの顔色は変わらないが、いつもより少し饒舌だ。


「君は、ルータス家の二人と仲がいいのか?」

「え?ああ、リリーとルークのことですか?」

「ルーク……あの教会で会った男か?」


「ええ、そうです。ルークは確か、ランデルさんと同じくらいの年齢ですよ」


クロームはさらにもう一杯グラスを煽った後、ボソリと呟いた。


「ルーク、か……」

「殿下?」

「いや、なんでもない」


クロームのつぶやきはソフィーには聞こえなかった。

クロームは立ち上がり、「そろそろ遅いし、部屋に戻るか」と、ソフィーに手を差し出した。


こんな風にクロームに手を差し出されたのは初めてで、昔のソフィーならドキドキして頬を赤らめてしまうシーンだろうが、そんな簡単にときめけるほど単純な人生は送っていない。


今までにないクロームの紳士的な態度に、ソフィーは「何か良くないことが起こる前兆かしら……」と、逆に不安に駆られた。


「あ、でも、ランデルさんは……」

「あいつは放っておいて大丈夫だ。なんとかなる」


大丈夫かな?と心配でランデルを振り返りながらも、クロームに手を引かれ、食堂を後にした。


____



「ですから、殿下がベッドを使うべきです!私は本当にソファで大丈夫ですから」

「ダメだ。君がベッドを使え」


お互い簡易な湯浴みをすませた後、クロームとソフィーは部屋のベッドを前にして、同じやり取りを何度も繰り返していた。


ソフィーは、慣れない遠出と一日中馬車に揺られていたこともあり、疲労で身体が限界に達していた。これじゃあ埒が明かないと判断し、最終手段を持ち出すことにした。


「わかりました。では、一緒にベッドを使いますか?」

「……なんだと?」


「一緒に使いますか?と言いました。このままでは譲り合いで夜が明けそうですし。幸い、ベッドは大きくて、大人が二人寝ても余裕そうです」


それに、と続けた。


「安心してください!殿下には指一本触れませんから!」


言葉通り、ソフィーは顔の前で指一本を突き立て、眠気で閉じてしまいそうな目を一生懸命かっ開いて言った。


「それは俺のセリフだ」

「あら、それは安心ですわ」


思考能力が停止しかけている。

ソフィーはベッドにのしあがって、自分の陣地に潜り込み、クロームに向かって言った。


「ただし、絶対に寝顔は見ないでください」

「むだな心配をするな……もう眠いんだろう?寝ていいぞ」


「いえ、早く殿下も、ベッドへ上がってきてください」

「……わかった。君が寝たのを見届けて、俺もベッドで寝る」


「ダメです、ちゃんと、私が、殿下が……寝るのを……」


見届けたら寝ます、と言い切る前に、ソフィーはパタリと力尽きた。


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