視察3
1日中馬車を走らせ、ようやく着いたのは小さな宿場町だった。
「もう日も暮れるので、今日はこの辺で休みましょう」
ぞろぞろと馬車から降りた後、ランデルは騎士たちに指示を出して、宿の手配をして戻ってきた。
「殿下、そのー、宿は取れたことには取れたんですけど……」
「どうした?」
「今日はどこも団体客で埋まっているみたいで……」
チラリとソフィーを見てから、クロームだけを呼びコソコソと話をしている
「クロームとソフィー様は一緒の部屋で取っちゃった」
「……は?」
「いやあ、俺たち騎士は部屋に数人詰めて泊まれるけど、クロームとソフィー様はさすがにそういうわけにいかないだろ?一応婚約者だし、問題ないだろ」
「お前な」
「ということで、ソフィー様!」
笑顔のランデルと、怖い顔したクロームが同時に振り向いた。何事か?と思ったソフィーはすぐにその原因を知る。
「申し訳ないのですが、今日はどこもいっぱいみたいで、ソフィー様だけのお部屋を取ることができませんでした。ので、今夜は殿下と同じ部屋でお休みください」
「はい?」
「お二人が一緒の方が護衛もしやすいですし。では!そういうことで」
「おい、ランデル!」
珍しく声を上げたクロームに返事もせず、ランデルさんは荷物を下ろしに馬車の方へ戻って行ってしまった。
目の前でクロームがはあ、とため息を吐いている。
ソフィーはすぐに状況を理解できなかった。
(殿下と同じ部屋で…?)
「ムリムリムリムリ!」
あ、と気づいたときには遅く、声に出してしまっていた。
久しぶりにクロームにジロリとにらまれた気がする。
クロームは何も言わずにくるりと背を向けて、宿に入っていってしまった。
「ええ~……」
____
夜は宿舎の一階で食事をとることになった。
同じテーブルの面子は勿論、リリー、クローム、ランデルの3人だ。
「いやあ~とりあえず無事ここまで来れてよかった。な?」
「おい、ランデル。離れろ」
世間一般的な酔っ払いというのはこういう人のことを言うのだろう。
明らかに酔っているランデルは、自分の主を前にして言葉遣いも崩れているし、嫌がるクロームの肩を組んでまた一杯飲み干した。
「たまにはいいだろ?酒くらい飲まないとやってらんないぜ」
「お、お二人は、どのようなご関係で……?」
近衛騎士が、こんな口調で皇子に気安く話かければ即刻罰せられるはずだ。
みたところ、クロームも嫌そうな顔はしているが、今すぐ切り捨てようという素振りはない。
「こいつは昔からの腐れ縁だ」
「あっ驚かせちゃってスミマセンね。クロームとは昔からの仲なんで、勤務以外はついこんな感じになっちゃうんですよ」
ソフィーは、今も勤務中では?と突っ込みたいのを寸でのところで堪えた。
「そ、そうなんですね。えーと、ランデルさんは、ちなみにおいくつなんですか?」
「俺は21歳ですよ。クロームとソフィー様とは3つ違いです。よく歳上に間違えられるんですがね。まだこんなに若くて、クロームの護衛も執務もパシりだってなんでもこなす……俺!激務にめげない……俺!!」
くうー!と言いながら、酒いっぱいのジョッキを煽り、そのまま机に突っ伏してしまった。
(お酒を飲んだランデルさんには話しかけないほうがいい感じね……)
きっと疲れがたまっていたんでしょう、とソフィーはランデルを休ませてあげる(放置する)ことにした。
たぶん朝まで起きることはないだろう。
クロームはランデルに組まれた腕を振り払い、ソフィーに向かって言った。
「はあ……手のかかるやつ。悪いな、ソフィー嬢。いつもはこんなに酔わないんだが」
「いえ、今日は沢山護衛がいますし、きっと安心してしまったんでしょう」
「普通はあり得ないけどな」
それよりもソフィーは、クロームと一対一で話さなければならなくなったこの状況に焦りを感じていた。
(気まずい。ランデルさんを恨むわ)
平静を装いながら、乾いた喉に、ブドウジュースを流し込む。
「……そういえば、君は、医学の心得があるのか?」




