再会8
"あの子"だと主張するルマン令嬢を何の疑いもなく妃に迎えたが、成長した彼女に昔のなつかしさを感じたことは一度もなかった。
そのモヤモヤを頭の片隅に追いやって、あの子が俺を覚えてくれていたこと、あの子が自分の元にやって来てくれた喜び、それだけで満たされていた。
大切にしていたのはあの子との過去で、ルマン令嬢に対する特別な想いなど最初から存在しなかったのだから。
「……急な話で頭が混乱している。とりあえず、君があの子かもしれないということはわかった」
「驚かれるのも無理はありませんわ。教会で会ったのは10年も前のことですから」
ルマン令嬢に対して何の感情もないと気づいた今、彼女をそばに置くことに意味はない。
とりあえず今日は家まで送ろう、と彼女を連れて教会を出たところだった。
「……教会になんの用があるんだ?君は敬虔な信者だっけ?」
「あなたには言ってなかったけれど、私、たまにこの教会に来ているの。私が育てた野菜を持ってきたり、バザーの準備を手伝ったりもするの!最近は教会の掃除も板についてきたのよ?」
「へえ!また変わったことをしているね」
聞き覚えるのある、鈴を転がすような女の声が聞こえて、無意識にクロームの足が止まった。
「殿下?」
馬車の目の前で動かなくなってしまったクロームを不思議に思い、ルマンが殿下に声をかけた。
「少しここで待っていてくれ」
素直に頷いた彼女をその場に残し、声のした方を振り返る。
そこには3年前と変わらない、いや、女性らしく成長したソフィーの姿があった。
腰くらいまで伸びたが、変わらず美しいブロンズの髪。
華奢な見た目に反して、キラキラと輝く意志の強そうな瞳。
ソフィーは、クロームが見たことのないような自然な笑顔を浮かべて、見知らぬ男と2人、肩を並べて歩いていた。
「ふふっ今日は行くと言っていなかったから、みんな驚くかしら?ここがその教会……よ……」
ルークとの話に夢中になっていたソフィーは、教会の入り口付近まで来てようやく、その男に気がついた。
ソフィーも一瞬で、その男がクロームだとわかった。
長い間遠征に行っていたせいか、より逞しく、男らしくなった精悍な立ち姿。相変わらず整いすぎて怖い顔。というか額にシワを寄せて訝しげな目線を寄越してる。きっと彼に間違いない。
「ソフィー?どうした」
隣でソフィーを見つめていたルークも、その場で立ち止まってしまったソフィーから目線を外して、彼女の視線の先を追った。
「で、殿下!」
ルークの声で我に返ったソフィーは、ルークに続いてあわてて挨拶をする。
「久しぶりだな、ソフィー嬢」
「はい、3年ぶりでございます。殿下、もう到着されていたのですね。無事のご帰還を心よりお慶び申し上げます」
「堅苦しい挨拶はいい。それより、こんなところでまた会うとはな」
「ええ、本当に驚きましたわ」




