再会7
「……どういうことだ?」
説明を求めるクロームに対し。コリンズ侯爵は媚びるように言った。
「殿下には、すでに婚約者がいらっしゃることも承知しております。ただもし叶うのであれば、娘のささやかな願いを、どうか今日だけでも聞き入れていただけませんか?」
コリンズ侯爵を一瞥したあと、久しぶりに会ったルマン令嬢を前にして、意外にも冷静な自分に驚いた。
(ああ、思い出した。前回も彼女はこんな風に突然やってきた)
「殿下がもしよろしければ、少しだけ城下へ一緒に行きませんか?殿下と城下町を並んで歩きながら、お話するのが夢でしたの!」
この後の展開を知っているクロームは、ルマンにまた再会できたことを喜ぶべきか、躊躇った。
なぜ今ソフィー嬢のことを思い出す。
"あの子"は今、目の前にいるのに。
「……ああ、俺も休憩を取りたいと思っていたところだ。いいだろう。ランデル」
「はっ」
「お前たちはついてこなくていい」
「しかし、殿下」
「問題ない。行こうか、ルマン令嬢」
「はいっ!」
ランデルに指示を出した後、いつかと同じように馬車に乗り込み、城下へと向かった。
「殿下。実は私、殿下とお会いするのはこれが初めてではないのです」
「……というのは?」
「ご一緒したい場所がありまして。セントラルノ教会へ向かっていただけますか?」
前回の出会いとタイミングは違うものの、彼女の表情や台詞には既視感があり、やはりあの記憶は夢ではなく本当に起きた出来事だったんだな、と他人事のように思った。
きっと彼女の口からこの後告げられることも記憶と違わないだろう、と思いながら、しばらく馬車に揺られていると、見覚えのある教会の入り口が見えてきた。
やって来た教会は、3年前と何ひとつ変わらなかった。
教会の中から中庭へ出ると、裏道に続く小さな抜け穴があった。
懐かしい、と思いながらその抜け穴に1歩近づこうとしたとき、
ずっと黙って後を着いてきていたルマンが、口を開いた。
「……幼いころ、ここで何度か男の子とお話したのを覚えています。一度も顔を見ることのないまま、彼は突然来なくなってしまいましたが」
「そうか」
「……このぬいぐるみ、覚えていらっしゃいますか?クローム殿下」
鞄からそっと取り出したのは、薄汚れた小さなクマのぬいぐるみだ。首元に緑色のリボンが巻かれており、汚い字で“K.”とイニシャルが書いてある。これは、クロームが幼いころここで知り合った女の子にあげようとして、結局渡せなかったものだ。
「これをどこで?」
「あなたが来なくなってからしばらくして、教会に落ちていたのを見つけましたの。あなたの名前を知らなかったけれど、きっとこれはあなたが残してくれたものだと信じて、今日までずっと肌身離さずに持っていましたの」
大事そうにぬいぐるみを抱えている彼女を見て、ふと、彼女は最初の出会いを覚えているだろうかと疑問に思った。
「……初めて会った日のことを覚えているか?」
「初めて会った日、ですか」
「そうだ。あの子は讃美歌のようなものを口ずさんでいた。まだ歌えるのか?」
「……幼いころのことですから、どんな歌だったか忘れてしまいましたわ。でも殿下のお声やこのぬいぐるみのことは、たとえ月日が経とうとも忘れることができませんでした」
何も覚えていないと言う彼女を残念に思うこともなく、むしろボンヤリとしていた思考が晴れ、ようやく腑に落ちたような、そんな感覚に包まれた。




