安静のとき4
「そうか」
「そうです!」
やっと話が通じた?興奮して声がうわずってしまった。
だが。
「君の言いたいことはわかった。婚約は破棄しない」
「はい!婚約は……て、はい?」
今なんて?婚約は破棄しない?
「な、なぜです!理由をお聞きしても?」
「……まず、君の言う派閥の話だが。中立派で大きな力を持たないカンデス侯爵家は、むしろ私にとって都合が良い。王党派や貴族派のどちらにも片寄らないし、そのおかげで今のバランスが維持できるだろう。あと、君を信頼してはいないが、他の令嬢はもっと信頼できない。気になる女性はいなくもないが、この婚約になんら影響はない」
クロームの言い分に納得したわけではないが、反論できる要素もない。
気になる女性、というのはやっぱりルマン侯爵令嬢のことかしら?
影響がないというのは、前と同じように私を皇后にして、皇妃として彼女を受け入れるという意味?それじゃ前と変わらない。
「とにかく君との婚約は決まったことだ。今さら変えるつもりはない」
「そんな……」
「それから、暫く南の方へ遠征に行くことになった」
「遠征、ですか?」
「ああ。南の国境のあたりでどうも怪しい動きがある。……戦争なんてことにはならないと思うが、穏やかな状況でもない。最低でも二年は戻らないだろう」
「二年も」
クロームが遠征に行くような展開は前回なかった。
(婚約は破棄できていないけど、やっぱり何か変わり始めているんだわ)
「……そういえば、君は私に、戦えと言ったな?」
「戦え?……ああ、あの時のことですか?」
急に何の話かと思ったが、すぐに男を足蹴にした時のことを思い出した。
「あれはどういう意味だ」
「あれは……その、人を傷つける戦いのことではありません。自分の得たい人生のために戦う、という意味です」
今思えば、一度目の人生は逃げてばかりだった。
クロームの為と言い訳して、最初から色んなことを諦めていた。
クロームを愛していると言いながら、彼に嫌われることが怖くて最後まで一歩を踏み出せなかった。
「殿下は他人を信頼できないと仰いましたが……常に他人を疑いながら生きるのは辛くありませんか?確かに、最初から信頼していなければ裏切られて傷つくことはないでしょう。でもそれは、殿下の望む生き方ですか?」
城を追い出されたとき、私は色んなことを人のせいにしながら、結局何も成そうとしなかった自分に気づいてしまった。
死を悟ったとき、後悔だけが残った。
「殿下がもし信頼できる誰かを望むなら、やはりまた信じることから始めるしか道はありません。上手くいかないこともあると思います。でも、最初から諦めているよりはマシです」
二度目の人生、多くのことを望むわけじゃない。
でも、これが運命だからと簡単に諦める人生はイヤだった。
「自分の人生は、自分だけのものですから」




