お茶会5
「どうせ演技だろう?私を騙そうとする女を無条件で助けていては、命が足りない」
男だけでなく私に対してもクロームは軽蔑したような視線を投げてよこした。
「殿下。あなたはかわいそうな人ですね」
「……なに?」
「私だけじゃない。他人を信頼したことなどないでしょう?」
「それがどうした?信頼すればすればすぐ人は裏切る。私が生きているのはそういう世界だ」
「否定はしません。ただ、何の罪もない人間を見殺しにしても平気だと?殿下もそういう人間という事になりませんか?」
「ではあなたは違うと言いたいのか?本当にその男とは無関係だと?」
苛立った声なのに、悲しそうにも聞こえるのはなぜだろう。
「黙って聞いていれば、こんなところで痴話喧嘩か?この女が本当にどうなってもいいんだな?」
手首を押さえる力がギリギリと強くなる。
「……ああ。好きにするといい」
「チッ……この顔なら持ち帰って遊んでもいいが、あいにく仕事だからな。悪く思うな」
男が剣を振りかざそうとした瞬間。
片足をグッと一歩前に大きく踏み出し、もう片方の足で男のみぞおちを思いっきり蹴り飛ばした。
「うぐッ!」
バランスを崩して尻もちをついた男の剣を瞬時に奪い、その喉元に切っ先を向けた。
ヒールで男を足蹴にしながら、クロームに向かって微笑んだ。
「殿下。あなたが私を信用しようがしまいがかまいません」
男の動きを察知して、瞬時に男の背後に回っていたクロームだが、次の瞬間男は地面に倒れていた。
「ですがよく考えてみてください。そもそも殿下に信頼されていない私が、どうやって殿下を裏切ることができましょう?」
クロームは剣を構えた体勢のまま、唖然とした表情でソフィーと男を見ている。
(なんだ、最初から私を助けるつもりだったの?それとも……男もろとも私を殺すつもりだった?)
「私は私のために戦います。あなたはあなたのために戦えばいいわ」
見た目は妖精のように儚げで華奢な女が、ドレスを着たまま男を足蹴にして剣を突きつけている。
クロームはその様子をすぐには現実と受け止められなかった。
「君は……」
クロームが何かを言いかけたとき、突然ソフィーの全身を焼きつくすような強い痛みが走った。
「!ううっ……」
「!」
よろめき膝をついたソフィー。駆け寄ってきたクロームが、起き上がろうとした男を拘束したのが視界に入った。
「どうした!」
「く…るし……」
「しっかりしろ!っくそ!おい!」
視界がぼやけているせいか、クロームが焦っているように見える。
「殿下!ご無事ですか」
「ああ、それよりもソフィー嬢を!」
「これは……」
この声は離れて待機していた護衛騎士だろうか。
周りに人が集まってくる足音を聞きながら、意識を手放した。




