目覚めのとき
「……な!早く!」
懐かしい声がする。
「……ま!……様!」
ああ、そうだ。温かくてほっとするこの声は。
「ソフィーお嬢様!」
ふと瞼を開けると、見覚えのあるトラバーチン模様の天井が視界に入ってくる。
声が聞こえた方を向くと、涙ぐむジェシーの顔が見えた。
「ジェシー……?」
「お嬢様!私がわかりますか!」
わかるに決まっている。皇后になり家を出るまで、幼いころからずっと私に遣えてくれたメイドだ。
「なんでここに……痛っ!」
起き上がろうと頭を動かすと、後頭部に尋常ではない痛みが走った。
「無理しないでください!ソフィーお嬢様の身長よりもうんと高い木から落ちたのですから!木から落ちて気を失っていたのですよ!?もう目を覚まさないかと不安でっ!」
顔に疲れと安堵を浮かべたジェシーは、涙をこらえながら、私の手をぎゅっと握った。
「って!あれ?!私、崖から落ちたのよね?!」
「はい……?頭を打って、とうとうおかしくなってしまわれたのですか?」
きょとんと返事をするジェシー。もう30は超えているはずなのに、よく見ると20代くらいの若々しい顔立ちをしている。
「あら、どうしてかしら。ジェシーの顔が若く見えるわ!」
「もう!何を言っているんですか!むしろいつもより疲れておりますよ!それよりも今、旦那様と奥様がいらっしゃいますから、大人しく寝ていてくださいね!」
何を冗談を言っているんですかという顔でジェシーはベッドから離れていく。え……どういうこと?あれはどう見ても若返っているわ。何かすごい魔術でも使ったのかしら。
というかその前に。確か山賊に追いかけられて、崖から落ちたはずじゃ……?
最後の記憶を思い出そうとしていると、ふと、鏡に映る自分と目が合った。
肌はつやつや、髪は生まれつきの美しいブロンド、父親譲りの珍しいエメラルドグリーンの瞳。
うん、私、私よね?
「いや、まって、ちょっと待って」
でもおかしい。そりゃあそうよ。だって……
「なんでこんなに小さいのよ私ーーーー!!」
そう。鏡の中で目をぐるぐる廻しているのは、まだ10歳くらいのあどけない少女だった。
「え?!お嬢様!お嬢様ーーーー!!」
またもや遠くなる意識の中、何もかも夢だったならいいと思った。
☆誤字修正しました!まさかの名前を間違う荒業。