頼まれごと5
お茶会の招待状はすぐに届いた。
「これって……私が参加していいものなの……?」
そのお茶会は、王家とごく一部の家紋の人間しか参加できない、いわば私的な集まりだった。
前回はこんなお茶会には呼ばれなかった。
この間会った様子だと、私のことを信頼している様子でもない。
相変わらず何を考えているかわからない皇子の誘いを、何とかして断る方法がないか悩んだが、結局いい方法が見つからず参加する旨の返事を出した。
「お嬢様、お茶会用に新しいドレスなど調達されてはいかがでしょう?」
「ドレス、か」
夜会には暫く行っていないので、この間のパーティー用に仕立てたドレス以外には、型の古いドレスしか持ち合わせていなかった。
「先日のパーティでお嬢様が着ていらっしゃったドレスの型が、今、社交界で大人気のようですよ!お嬢様にご指南いただいたお化粧の方法もマスターしたことですし、このジェシー、お嬢様の筆頭メイドの名にかけて、是非この調子でお嬢様を磨き続けて……近い将来お嬢様が立派なお妃様になれるよう脱☆やんちゃなお嬢様作戦を決行したいと……!はっ失礼しました」
どこかへ飛んでいたジェシーが戻ってきた。
「どんな作戦よ…………この間は悪目立ちしないようにと思って、ドレスも化粧も程よいシンプルなものに変えただけなのだけど。まあ私の素材自体はそれほど悪くないし、あのドレスは自分でもセンスが良かったと思うわ」
客観的に見てもどちらかと言えば自分は整っている方だと思う。けれどクローム皇子のような稀世の美しさを目の当たりにすると、ああ自分の顔って平凡なのねと納得できるレベルだ。
彼の美しい見た目と反して、細身ではあるもののほどよく鍛えられた身体。その絶妙なバランスは思春期の令嬢には目の毒だった。彼にいつか愛されることを夢見ては、見返りのない愛が嫉妬に変わり、自滅していく令嬢が大半だったし、私もかつてはその一人だった。
「お嬢様のことを巷では深淵の令嬢と呼んでいるそうですよ!まるで野原に咲く一凛の花のように、清く儚げな令嬢だと噂になっているようです!まあ野原というより、実際は荒野に咲いていそうですが……」
「ジェシー、一言多いのは気のせい?」
「あっ口がすべりましたお嬢様」
「まあいいわ……ではせっかくだから新しいドレスを幾つか仕立てようかしら。気合を入れないと会場までたどり着けなそうだわ」
「お嬢様、気をしっかり! では後日仕立て屋を呼びますね」
あー忙しくなりますね、とジェシーは嬉しそうに部屋を出ていった。
「不安だわ。殿下こそ何を企んでいるのかしら?前回と展開が違うことも気になる」
ソフィーからクロームに対して何か行動を起こしたわけではない。変わったとしたら彼の方だ。
婚約してしまったのは仕方ないとして、前は婚約しても家へ挨拶なんて来なかったし、あの教会で会ったのも妙だ。そういえばあの日殿下は何しに来ていたのかしら……?
何か策を練ろうとしたが、はじめてのお茶会で何が起こるのかわからないし、クロームの考えていることも相変わらず読めない。
「まあとにかく。行くしかないわね」
その後数日間、全く乗り気ではないお茶会の準備で身体も心も削られていくソフィーだった。




