頼まれごと4
聖職者が着るような飾り気のない黒い外套が、彼の厳格な印象をより際立たせていた。聖なる場所に現れた冷徹かつ無慈悲な表情の男が、ソフィーにはただただ恐ろしく思えた。
「く、クローム皇子。ソフィー・ラ・カンデスがご挨拶申し上げます」
「なぜ君がこんなところにいる」
「それは、その」
「修道女のような恰好をして。君はいつの間に俗世を捨てたんだ?」
「いえ、修道女になったわけではなく……月に一度、こちらの教会でお手伝いをさせていただいているのです」
「何のために?」
「は、はい?」
「何が目的だと聞いている。偽善的な行為で民衆を味方にでもしようとしているのか?」
口角を歪めて薄笑いを浮かべる。ワントーン低くなった声は震えあがるほど恐ろしい。恐ろしいが……
「……目的も何も、私が好きで来ているだけです」
恐怖よりも怒りが沸いてきた。
「権力が欲しいために誰かの支持を得ようとしたことはありません。何を勘違いされているか知りませんが、教会に来るも来ないも私の自由です。それについてクローム皇子にとやかく言われる筋合いはありませんわ」
笑顔の練習をしておいてよかった。クロームは以前と違うソフィーの態度に一瞬驚いたが、皮肉めいた口調で言葉を返した。
「ふん、どうだろうな……権力を欲する人間は嘘をつくのも上手い」
「信じていただかなくても結構ですわ。ただ、殿下とは意見が合いそうにありませんね」
「……ランデル」
「はっ」
「茶会はいつだ」
「1か月後にございます」
「そうか」
少しの間思案したクロームは、ソフィーの方に向き直りこう言った。
「ソフィー嬢。あなたにも参加いただきたい茶会がある。追って沙汰を出すので待つように」
返事をする間もなく、護衛の騎士たちを引き連れて教会を出ていった。
「茶会ってなんの茶会よ……私に拒否権はないの?」
いつも強引すぎないかしら?誰もいなくなった教会でやっと息を吐く。
「フィーちゃん?こんなところにいた!」
「レミさん!ごめんなさい、片づけがまだよね」
「おおかた終わったから大丈夫よ!それより時間は大丈夫なの?」
「あっいけない!もうそろそろ迎えがくるわ!」
疲れた。早く帰って眠りたい。茶会だのなんだのはとりあえず明日考えることにしよう。
バタバタと帰りの支度を整え、我が家へ向かう馬車に乗り込んだ。




