過去2 クロームside
部屋に誰もいなくなったことを確かめ、手元の一冊のノートをぱらぱらとめくる。どれもメモ書きのようだ。
“ガリア歴31年6月15日 クローム殿下のお気分がすぐれないと聞いたので、以前東方の貴賓の方から教わった薬を煎じてお渡しした。原料は、ハンゲ、ブクリョウ、コウボク………気分がよくなったと聞いて安心した。これから定期的にお作りして渡そう”
「……」
“ガリア歴32年1月20日 クローム殿下が多忙でお倒れになったと聞いた。医師を呼んだが、大きな病いではなさそうだ。執務に集中されると食事もおろそかにされるらしい。殿下がまたお倒れにならないように、きちんと休息をとっていただくよう内政の皆に伝えた。”
書かれていたことはどれも、クロームの体調のことや執務についての改善案だった。
「どういうことだ……?彼女は私を裏切ったんじゃ……」
ふと窓の外を見ると、月が煌々と輝いている。
今はもう探しても見つからないだろう彼女のことを考えた。
「陛下……!貴族派が城に火をつけました……!」
「お逃げください!陛下!」
貴族派が王権を奪うためさらに大きなクーデターを引き起こした。
そのあとはとにかく逃げることに必死だった。
城を焼かれ、かろうじて生き延びたクロームだったが、
城から逃げる途中で自分を守った騎士は死に、暗い森の中で朝か夜かもわからないまま歩いた。
(私はどこで何を間違えたんだろうな……)
「いたぞ!」
大きな声が聞こえて、とっさに駆け出した。
ふと視界が晴れて、崖から足を踏み外したことを一瞬でさとる。
(ああ、死ぬのか)
ふと、ブロンドの髪の後ろ姿を思い出す。
(彼女も、こんな風に1人で死んだのだろうか)
暗くなる視界の中、顔も思い出せない彼女のことをふと思い出した。




