ねばるとき
「……あなたは、私との婚約が嫌なのか?」
こちらを探るような目と目線がかち合う。そ、その顔はずるいと思うのですが。
「い、いえ。そういうことではなく……不快に思われたようでしたら謝りますわ。ただ、理由もなく急に結婚が決まったとおっしゃるので、何かの間違いではと、疑問に思ったのです。カンデス侯爵家はそれほど叙位の高い家柄ではありませんし、何度も言いますがクローム皇子にお似合いの令嬢は他にもいらっしゃるでしょうから」
突っぱねすぎて逆に不振に思われたかもしれないと思い、しかしやんわりとあまり乗り気ではないことを暗に伝える。顔が引きつるのは気のせいだ。
「そうだな、確かに突然な話であなたも驚かれているだろう。だが理由は今は言えない。どうか受け入れてほしい」
多少先ほどより言い方が柔らかいが、クロームも引く気はないらしい。
「今日は急な訪問で失礼した。また日を改めて今後のことを話そう」
ソフィーが何か反論をはさむ間もなく皇子は席を立ち、部屋の入り口に待機していた数人の護衛を連れて去っていってしまった。
「なぜこうなるの……」
結局婚約が決まってしまった。これでは前と同じね。
「……なんて言っている暇はないわ!まあこんなこともあろうかと思っていたのよ。こんな時のために準備してきた3年間は抜かりないわ!」
お茶の片づけをしに来たジェシーは変なものを見るような目で、一人高笑いをするソフィーにやむなく声をかけた。
「お嬢様、急な婚約で戸惑う気持ちはわかりますが、あまり無理はなさらないでくださいね?」
「心配しないでジェシー。私はこんな運命には負けないわ!また明日から忙しいわよ!」
「はあ……とにかくお嬢様が元気なら何も言いませんけどね……」
この婚約の裏で何が動き始めているのか知る由もなく、1人の少女は決意を新たに明日からの作戦を立てるのだった。




