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Halloween Night 2  ~屋根裏が魔界とつながっている件について~  作者: EntroP
第3章 寮長先生ゼッコーチョー!!
5/13

5.関所にやたら攻撃的な関守がいるらしい。

 リンたちに連れられて、僕は()()()に突入した。


 梯子を上った先にあったのは、すごく狭い部屋だった。電話ボックス6こ分ぐらいの大きさの、木でできた部屋。天井からランプが下がっていて、あたりをほんのり照らしている。そして、目の前には、一枚の扉があった。


「ここを出たら、魔界だよ」

 リンはそう言って、木の扉を開け放った。


 外は、トンネルのようになっていた。真っ白い壁のトンネル。少し進んだ先には、受付窓口的なものが見える。その右隣りには、改札が取り付けられている。


 近代的とか、空港みたいだ、とかそんな感想が浮かぶ光景だった。


 ここが魔界?

 僕は拍子抜けした。


 なんか思ってたんと違う。


「ここは関所だよ! あそこの窓口の人に言って、ここを通してもらうの。あの改札の向こうが、あたしたちの住んでる街なんだ!」

 リンはそう言って、僕をほうきから降ろし、続いて自分も下りた。


 そういえば、関所でドレスコードに引っかかって送り帰された、とか言ってたっけ。カミ男のジーンズが破れすぎなのが原因で、3人とも僕の部屋に送り帰されてきたはずだ。


 僕はカミ男のジーンズに目をやった。

 当然のことながら、カミ男のダメージジーンズは何も改善されていない。昨日、関所で通行拒否をもらったままだ。


 え、じゃあ、通れなくね?


 僕がそのことを指摘すると、トマは自信なさげに言った。

「関守は、毎日同じ人がやってるわけじゃないんだ。今日の人は、運よく見逃してくれるかもしれない」


 なるほど。

 つまり、こっそりすり抜ける作戦か。


「案ずるより産むがやすし方式だ。いこーぜ」

 カミ男は意気揚々と窓口に向かっていった。


 そのわずか3秒後。

「だめだ。帰れ。お前のジーンズはもはや、ダメージに耐えきれてない。ただの青布と化している。通してやることはできない」


 カミ男はまたもや、即切りされた。なんか予想通りの反応だったな。魔界人はカミ男のダメージジーンズについて、かなり辛口な評価をする傾向にある。カミ男はまたしても、グハァ・・・ッと倒れた。


 ただ、それより驚いたことがあった。

 窓口の奥に座っていたのは、昨日の焼き芋少年、秋だったのだ。

 現在、殺道路未遂の疑いで捜査されている、あの彼だ。


「今日は秋が関守なのかい。珍しいな」

 トマが話しかけると、秋はうつむいた。

「昨日は人間界でパーティするために、無断で寮から抜け出してきてたから」

「なるほど。それで、寮長先生に、こっちに回されてしまった、というわけだね」


 秋は腹立たし気にうなずいた。

「そう。今日1日、じっくり反省しろだって。こんなところで、反省できるかよ。死ね、寮長!」

 秋はかなりお怒りモードだ。


 僕はしみじみと考える。


 秋って学生なのか。

 っていうか、そもそも論として、魔界って、学校あるのか。


「バイト代も出ねぇのに、ご苦労なこった」

 カミ男が言うと、秋はため息をついた。


 寮生活か。門限とか、厳しいんだろうか。


 僕が秋に「大変だね」とねぎらうと、

「あ、でも、昨日は楽しかったから。ありがとね。名前なんて言うの?」

と返ってきた。


「スバルだよ。一之瀬昴星」

と返事した。


 彼は「スバル・・・オッケー覚えた」とうなずいた。

「知ってるかもしれないけど、秋だよ。苗字はない」

 苗字、無いんだ。変わってるな。


 僕はこんな当り障りない、かつあまり人間界では無いような会話を繰り広げる。


 その時、視界の端っこに、動く黒い影が映った。ちらっとだけ横目で見てみると、リンがホウキに乗って、こっそり改札を抜けようとしていた。


 僕らがしゃべってる間に、こっそりむこう側に抜ける作戦だな。


 僕はとにかく秋の気を引き続けることにした。

「今日は、読書とか、焼き芋食べたりとか、秋を体現してないんだね」

と思いついたことをテキトーに言ってみる。


 キャロラインはリンが持ってるから、リンさえむこう側へ行って太陽を浴びてきてくれれば、ミッションクリアだ。僕はできるだけ、リンのほうを見ないように心掛けた。


 秋は「あー、あれ」と不機嫌に頬杖をついた。

「全部寮長に没収された。今日ちゃんと反省したら返すとか言ってたけど。絶対返す気ないぞ、あのばばぁ」

 秋はうぐぁぁ~と、頭をかきむしった。


 寮長、どんだけ信用無いんだよ。


 リンがホウキで、改札の真上を通過した。

 よし、あとちょっとだ。頑張れ。


「秋って、学生なの? 何の勉強してるの?」

 僕はさらに時間を稼いだ。

 秋はまだ、リンに気付いた様子はない。


 彼はこくんとうなずいた。

「戦うための訓練を受けてるんだ。将来、町に出てきて悪事を働くモンスターをしばくために、ね。・・・ちょうど、こんなふうに」

 秋の目つきが鋭くなった。


 次の瞬間、ヒュッという風を切る音がした。続いて、ひぃぃぃぃっ、とリンの悲鳴が上がった。


 リンの顔すれすれのところで、刃物が壁に突き刺さって、振動していた。


「通さないって言っただろ」

 秋は言ってから、ふっと笑った。


 リンはすごすごと引き下がった。顔が真っ青だ。彼女はホウキから降りて、トマの後ろに隠れた。


 コワッ・・・。

 僕は昨日、こんなモンスターと焼き芋バトルしてたのか。

 よくもまあ、生き延びられたものだ。


「で、カミ男」

 秋は何事もなかったかのように、言った。

「お前がその壊滅寸前のジーンズを何とかしたら、通してあげるんだけど」


 カミ男は腕を組んで、プイッとそっぽを向いた。

「壊滅寸前じゃねぇ。ファッションだ」


「あーそう。じゃあ一生通れねーよ?」

 秋は、先リンに投げたのと同じ種類の刃物を取り出して、手でもてあそび始めた。秋の手の中で、刃物が高速回転する。キラキラと光が反射した。


 カミ男は意地を張って沈黙している。


 見かねたトマが口を開いた。

「秋、いいのかい? こんなところで大人しく、関守なんぞやらされていて?」


「どういう意味?」


 トマは袖にしがみついているリンごと、前に進み出た。

「君はもともと、寮長の言うことにはいつも反発しているじゃないか。それこそ片っ端から、すべての指示に反抗しているだろう?」


「そうだね」

 秋は言った。


 そうなのか。

 秋って、かなり問題児なんだな。


「そんな君が、今日に限って寮長の命令に従っているのは、どういうわけだい? いつものように、無視してしまえばいいじゃないか」

とトマは、大人の風上にも置けない説得を開始する。


「そもそもなぜ、夜に寮から出たぐらいで、罰を受けなければならないんだい? 夜の外出を禁止されたら、私たち吸血鬼のような、夜行性の生物はどうなる? そんな校則、理不尽じゃないか」


「・・・確かに」

 秋は刃物をくるくる回すのをやめた。


 トマは勢いづいて、さらにリンが持っている時計を指さした。

「しかも我々は、このキャロラインに、少し太陽光を浴びさせたらすぐに帰るつもりだ。それぐらいなら、通してくれたって、かまわないだろう?」


「このキャロラインって? どのキャロライン?」

 秋が言うと、ここぞとばかりにキャロラインは鳴き声を上げた。


『タイ・・・ヨウ・・・』


「ああ、それがキャロライン・・・時計かと思ってた」

 秋は珍しいペットでも見たような反応を示した。


 いや、時計なんだが。

 壊れているだけで、本来はただのデジタル時計なのだが。


 秋はしばらくキャロラインを見ていたが、やがていじっていた刃物を腰につけているケースに収納した。


「確かにね。一理あるよ」

と彼は言った。

「でも、もし無断で魔界に入ったことがバレたら、アンタたちがまずいんじゃないのか? うちの先輩たち・・・治安部隊に、攻撃されるかもよ? 寮長だって、お出ましかもしれない。アイツ、ヒマだから」


 秋は言った。口調の端々から、寮長先生に対する敵意がにじみ出ている。


「そうか、それはまずいな・・・」

 トマは言った。次なる返答を考え出そうと、考え込んでいる。


 僕はそのすきに、口をはさんだ。

「あのさ、ドレスコードって、守らないと治安部隊に攻撃されるほど、重要なものかな?」


 しばらくの沈黙。

 そして、その場にいた魔界人たちは口をそろえて叫んだ。

「確かに!」


 スバるン、賢いッ! とリンがほめてくれた。


 いや・・・。

 あんたらがバカなだけだろ。


 秋は窓口のカウンターをひょいと飛び越えて、こっち側に出てきた。


「分かった。4人とも通ってよし。ただし、僕も同行する。治安部隊が来たら、その時はその時だ。僕が迎撃(うまいこと説明)してやる」


「やったっ! よかったね、キャロライン!」

『タ・・・イヨウ!!』


 リンとキャロラインが、口をそろえて喜んだ。

 カミ男とトマも、ハイタッチしている。


 秋のセリフの当て字部分で、少し心配なところもあったけど・・・。


 ま、いいや。

 とりあえず今は太陽が浴びれればそれでいい。


 ついに僕らに、通行許可が下りた。

 結果オーライだ。


 改札を抜けるとき、秋は独り言をつぶやいた。

「出てきやがれ寮長・・・。このナイフで、お迎えしてやる」


 秋の腰には切れ味のよさそうなナイフが、何本もセットされていた。


 僕は何も聞かなかったことにして、改札をくぐった。

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