表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Halloween Night 2  ~屋根裏が魔界とつながっている件について~  作者: EntroP
第2章 デジタル時計が明らかにぶっ壊れている。
4/13

4.マンションの屋根裏ってなんだよ。

 壊れたデジタル時計とともに、10階の1031号室に帰ってきた。ドアを開ける。


 中からテレビの音が聞こえてきた。あの魔界人たちも、さすがにテレビのつけ方は分かったみたいだな。


「ただいまー」

 僕が3人のもとへ向かった時、ちょうどニュースは()()()()について放送しているところだった。


 キャスターがまじめな声で読み上げていた。

『・・・昨夜未明、何者かが道路を破壊する事件が発生しましたが、道路の命に別状はありませんでした。


 道路を破壊した凶器は、現場に残されていた大量の焼き芋だとみられます。警察は殺道路未遂の疑いで捜査しています。それでは現場から中継です』


『はい、私は今、night町の西部にある『はずれ地』と呼ばれる廃墟街に来ています! 見てください、この大量のいも! アスファルトにびっしり、めりこんでいます』


『はずれ地というのは、一体どういった地域なのでしょうか?』


『廃墟のみで構成された町です。普段は悪の組織やポルターガイストなどが、人目を忍んで利用している模様です』


『そうですか。では、めり込んだ芋について、詳しい説明をお願いします』


『んーっ! 芋はすべて冷めてしまっているものの、ホクホクしていておいしいです。秋を感じます! 皆さんもぜひ、食べに来てみてはいかがでしょうか? 現場からは以上です』


『ありがとうございました。では、続いてのニュースです・・・』


「ねぇねぇ、スバるん! これって、昨日秋君がばらまいた焼き芋のことだよね? 秋君、殺道路未遂で捜査だってよ! キャァァァァ、テンションあがっちゃうぅぅぅぅl!」

 リンがリモコンを振り回しながら、ホウキでビュンビュン飛び回った。


 スゴーイ、スゴイーイ、秋君天才! と一人で盛り上がりまくっている。


 僕はそんなリンをボーッと眺めながら、考えた。

 今のニュース、ツッコミどころありすぎじゃないか?


 ツッコミどころが多すぎて、萎えてきた。

 が、ここはこの物語の唯一のツッコミ役として、僕が役目を果たさなくてはならない。

 というわけで僕は、ツッコミどころを脳内で箇条書きしていく。


 1.まず、何だよ殺道路未遂って。器物損壊罪だろ普通は。


 2.はずれ地の設定もおかしいだろ。廃墟のみで構成された街って、存在意義あるのかよ。


 3.ポルターガイストが廃墟を利用してるって、日本語おかしくない? ポルターガイストって、現象の名前だよな?


 4.『めり込んだ芋について詳しい説明をお願いします』の下りで、何で焼き芋の食レポが始まるんだよ。絶対そんなこと、求められてなかっただろ。そもそもアスファルトにめり込んだ芋なんて、食べようと思わないだろ。


 5.是非食べてみてはいかがでしょうかって、平然と視聴者の皆様におすすめしてんじゃねぇよ。それ、一応凶器なんだろ? 食べたら証拠隠滅になるだろうが!


 6.昨日秋が、芋で倒した電柱のほうは無視か? 電柱倒れてんのは、重大インシデントではないのか?


 7.っていうか、「どうやったら芋がアスファルトにめり込むんだ」って、誰も疑問に思わないのかよ?! 芋はめり込むのが普通なのか? 常識なのか? 芋ってめり込むものなのか?


 僕の脳内に、はてな台風が襲来した。

 ツッコみ1人に対してボケが多すぎると、訳が分からなくなるから、やめてほしい。


「おい、リン! 続いてのニュースだって言ってんだろ! きけよ!!」

 カミ男が、飛び回る高速ハイテンション魔女を戒めた。


 アイツ、急にマジなトーンになってるけど、大丈夫か?


「カミ男って・・・ニュース好きなの?」

 リンが動きを止めてきいた。


 カミ男は、意味深に微笑むと、テレビに向きなおった。

 ・・・何だこの展開。


 おいカミ男! 僕は心の中で叫ぶ。

 こんな意味不明なボケに、ツッコミなんて入れてやらないからな! 質の悪いボケ、かましてんじゃねぇぞ!


 僕は何事もなかったかのように、続いてのニュースを視聴した。


『今日、サイバー犯罪グループ『宇位琉s(ういるす)』のリーダー、テクノロ(じい)が、コンピューターウイルスを拡散したという趣旨の犯行声明を出しました。


 宇位琉sは、テクノロ爺が体調不良で入院したのをきっかけに、一時活動を停止していましたが、テクノロ爺の退院によって、再び活性化したものと思われます。


 今回拡散されたウイルスは新型であり、既存のウイルスバスターソフトでは駆除できません。


 身の回りの機器がウイルスに感染した場合は、感染拡大を防ぐために、ネットワークから切断してから、下記の番号まで連絡してください。


 0120-528(いやよ)-0924(ういるす)

 繰り返します。『いやよ-ういるす』です・・・』


 僕はニュースを聞く気力を失った。


 ただ、これだけは言わせてほしい。

 電話番号、覚えにくっ!

 語呂合わせが何の意味もなしてない。っていうか、語呂合わせになってないぞ。


 僕はリンからリモコンを取り上げ、テレビを消した。


 トマが僕のほうを見た。

「この宇位琉sというのは、何者なのかね?」


 僕は舌足らずなニュースキャスターの補足説明をかってでた。

「宇位琉sは、数年前から存在するサイバー犯罪集団だよ。主にコンピューターウイルスの密売及び拡散を生業としているんだ。


 迷惑なやつらだよ。テクノロ爺って人が主犯格らしいんだけど、最近になって入院したってこと以外、彼のことは詳しくは明らかになってないんだ。警察が捜査してくれてるよ」


 僕は警察の方々にききたい。


 なぜ「入院した」とかいう超プライベートなことは突き止めたのに、奴らの所在地すらつかめてないんだ?!

 ちゃんと捜査してるのか?


 そのとき

『タイ・・・ヨウ』

 僕のカバンからうめき声が聞こえた。


 ああ、そういえば仕事。

 何とかしないと。


「おい、スバル。お前まさかっ!」

 カミ男は、ギョッとして僕のカバンから離れた。

「カバンの中で、小人を監禁してるのか?!」


「違う」

 僕は即切りした。


 カミ男が『グハァ・・・ッ』と倒れる動きをした。そのまましばらく動かなくなる。


 いや、即切りって・・・本当に切ったわけじゃなくて、君のセリフを間髪入れずに否定したって意味だって。ごめんってカミ男。元気出せよ。分かりにくい表現を使って、悪かったな。


 僕はそこまで考えて、ハッとする。


 って、カミ男! 僕の思考を読んでまで、ボケてんじゃねぇぞ。

 お前、人の心が読めるとか、そんな設定持ってないだろ!!


「小人じゃなくて、時計だよ。今日の仕事。こいつを普通(まとも)なデジタル時計に直せってさ」

 カバンからさっきの時計を取り出す。


『タイヨ・・・ウ・・・』

 相変わらず死にかけた声を発している。僕はこの声をきいて、げんなりした。


 一方リンは、死にかけボイスを聞いて、目を輝かせた。

「わぁ、この時計、うめくの?! ほしいっ!!」


 リンが僕の手から、時計をひったくった。

『タ・・・イヨウ・・・』


「アハッ。タイヨウだって。ウケる笑・・・今日から、この子の名前は、キャロラインねっ!」


「キャロライン?」

 僕は訊き返した。


 それ、ジャイ衛門の時計なんだけど。

 勝手にペット化しないで。


「そうだよ! カッコいい名前でしょ!? ね?! ね?!?!」

 リンがものすごいハイテンションで叫ぶ。もはや半狂乱と形容しても過言ではないその姿に、僕は閉口した。


 ったく、キャロラインでも何でもいいけど、頼むから壊さないでくれよ。


「キャロラインか。いい名前だな。なんだかこう・・・人参線(キャロットライン)を想起する感じが・・・いい名前だ」

 トマがよくわからない誉め言葉を口走る。


 カミ男が横で、「リンにしては、やるじゃねぇか」とうなずいた。


「キャロットラインって何」

 僕が尋ねると、カミ男は「電車の路線だ」と教えてくれた。


 さらに聞いてみると、魔界には人参線と呼ばれる電車路線が存在していて、田舎と大都市を縦横無尽に結んでいるらしいことがわかった。ただ、田舎から都市へ向かう線路はあるのに、都市から田舎へ向かう電車はほぼ走っていないという。


「人参専用車両ばっかりで、あたしたちは、あまり乗れないんだけどね」

 リンが付け加えた。


 それってつまり、ニンジンを輸送してる貨物車だよな。

 そりゃあんたら、乗れないだろ。


 ・・・キャロットラインの正体がわかっても、トマの誉め言葉の意味はあまり理解できなかった。ので、僕は理解するのをあきらめた。


『タイヨウ・・・』

「キャロラインが鳴いた!」

 リンが嬉しそうにはしゃいでいる。


 鳴き声なのだろうか。

 いやまあ何でもいいや。


 僕はツッコミへの熱意が、徐々に薄れていくのを感じた。


 トマはキャロラインの鳴き声を聞いて、つぶやいた。

「この子はどうやら、太陽を欲しているようだな」


 僕はため息をついた。

「そうなんだよ。でもnight町には太陽が昇らないから、どうしようもなくてさ」


「でもとりあえず、太陽光を浴びさせてみないと、なにも状況は変わらないだろ。何か方法はないのかよ?」

 カミ男からまともな意見が飛び出す。確かにそうかもしれない。


 だが、僕はさっき見たニュースを思い出して首を振った。

「宇位琉sがウイルスを拡散したって言ってたから、しばらくこの町から外へは、誰も出られなくなるよ」


「ウイルスとそれと、何の関係があるんだよ?」


「ウイルスがこの町の外に拡散していくのを防ぐために、night町から外部へ出るゲートがすべて閉鎖されるんだよ。ウイルス騒動が起こった時は、毎回そうなるんだ」


 この世界では、ある地区から違う地区へ行こうとすると『地区境通行許可証』を発行してもらわなければならない。しかしウイルスが発生すると、その町は基本的に許可証を発行しなくなってしまうのだ。


「へぇぇぇ。人間界は大変だなぁ」

 カミ男がどうでもよさそうにつぶやいた。


 リンはそれを聞いて、ポンと手を打った。

「あっ、じゃあさ。あたしたちの世界に来たらいいじゃん! 魔界は、太陽、登ってるよ!」

 リンは「ね~、キャロライン」と時計をなでなでしている。


「それもそうだな」

「行ってみるか」


 トマとカミ男が、言いながらこっちを見た。


「え・・・魔界って・・・」

 僕はかなり躊躇した。


 魔界って響きが、もうすでになんかイヤだし。昨日の鬼ごっこから察するに、魔界人みんな脳内ミソスープ野郎としか思えないし。ワープロードなるものに飛び込むのも、抵抗がある。


 迷っていると、カミ男が手招きした。

「来いよ。魔界って言っても、そんなたいそうなものじゃないって。俺たちみたいなのが、集まって住んでる街だと思えばいい」


 いや、お前らみたいなのが集まってるから、心配なんだろうが。


「そうだぞ、スバル。それに、太陽を手っ取り早く浴びるには、リンの提案が最も適当ではないか?」


「うんうん。それに、昨日はあたしたちがこっちで遊んだんだから、今日はあたしたちがスバるんを招待する番だよっ。って言っても、ここの屋根裏だけどね~魔界って」


 トマとリンが次々に僕に声をかけた。


 ウイルス騒動が起こってしまった今、やはり魔界の太陽に頼ってみるしかないのか。ここは修理屋の名に懸けて、魔界に踏み込むべきなんだろうか。


 いや、でもやっぱり嫌だな。だって魔界って、人の家に勝手に上がり込んで、パーティ開いているような変人(ばか)の巣窟だろ。


 ・・・ん?


「リン」

 僕は尋ねた。

「魔界が()()()()()()って、どういう意味?」


 リンはふぇ~? と首を傾げた。

「どういう意味って・・・そのままの意味だよ? スバるんの家の屋根裏が、魔界と人間界の境界になってるってこと。スバるん、読解力、大丈夫?」


 ああ、まずいな。

 脳内が困惑を極めてきた。


「えーっと・・・ここ、マンションだから。屋根裏なんて、ないと思うけど。ジャイ衛門のところみたいに、上下に部屋を持ってるわけじゃないし」

 僕が言うと、リンは不思議そうに僕を見返した。


「え? でも、あたしたち、昨日は屋根裏からスバるんの家に来て、パーティーしてたんだよ?」

「そうなのか?」


 侵略者たちの侵入経路が屋根裏?

 いや、だからマンションの屋根裏って何?

 どういうこと?


 僕がますます混乱を極めていると、トマがすたすたとクローゼットのほうに歩いて行った。彼はサッとクローゼットを開けた。

「ほら、ここから屋根裏に上がれるぞ」


 僕は目を疑った。


 クローゼットの中に、見覚えのない木の梯子があった。しかもその梯子は、上に向かって伸びている。


 こんなもの、いつからあったんだ?


「はい、スバるん! 行くよ!」

 リンが僕を強引に引っ張り上げて、ホウキに乗せた。足が宙に浮いた。落ちないようにホウキをしっかりつかんだ。


 こいつら、なにがなんでも、僕を魔界に連れていきたいらしい。

 そこまでされたら、ちょっと断りづらい感じがある。


 それに、マンションの屋根裏がどんなものなのかも、ちょっと気になってきた。


 よし。いっちょ逝ってみますか。

 僕は魔界行きの覚悟を決めた。



  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ