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それが愛なら

作者: 森 彗子

孤高の人



咲いたそばから散りゆく桜の儚さが美しいと

最初に言い出したのは誰だろう。



この一瞬のためにどれほどの期間をかけて

開花のために力を蓄えたのか想像してみると

胸が締め付けられる思いがする。



下積みが長い私の人生に置き換えたら

咲いてすぐに散るだなんて縁起が悪過ぎるのもあるけど

一番はきっともっと心の奥深くにある願望に由来する。



人気商売はどれもきっと同じかもしれない。


一瞬だけ一番高い場所で輝けたとしても次の年には忘れられてしまう。

常に新しい才能が開花して、流動的に変化する。

時代が求めていたはずの彩を放つ彼でさえも今は風前の灯だ。



私の心に深く強く刻まれた彼の魅力は、色褪せて欲しくなんかない。



なぜ彼の歌声は私の心を揺さぶるのだろう?


なぜ彼の横顔は私の身体の奥を熱くさせるのだろう?



彼が紡いだ詞の世界が映像となって脳裏に流れていくと同時に、

彼の肉声だけが奏でる研ぎ澄まされた音楽に

目を閉じた途端飲み込まれてしまう。



力強いけれど儚くて

掴めそうで掴めない。


花開く蕾の生命力と

散り行く花弁のもの悲しさが重なって

生まれてから死ぬまでの間に起こる出来事が

その夥しい数の花弁のひとつずつを埋めていく。



孤独なのにそばにいる。


視えないのに手を繋いでいる。



そんな気持ちにさせられるのは




あなただけだ。




直視するにはキツイ日常風景の暗がりに


敢えて咲こうとする名もない花のような


小さくても確かに息衝いて咲き誇っていて


そんな風になりたいと思いながら


寂しさに胸を押しつぶされる夜もあるけど。




彼の歌があれば私は生きていける。




同じ時代に生まれた喜びを噛み締めたら


あと数年はきっと生きていけるんだ、と思える。




傷付くことが怖くて閉ざしてきた心を見せたら


少しずつ分かり合える友達が増えてきた。




初めの一歩をくれた彼の歌によって私はまだ人生という旅路を行く―――。





歌を通じて出会う私達を何と呼ぶのだろう?





生み出す者とそれを愉しむものがいて成り立つ世界の住人になってから

私は以前よりもずっとまともに他人と関われるようになれた。



彼が居なければあの曲も歌声も私には届かなかった。



彼が生み出してくれたから今の私がいる。




それが愛なら、どんなに素敵かな。





どうすれば私のこの想いが彼に届く?





その才能を信じて恋い焦がれ

いつまた魂を震わせてもらえるかと

首を長くして待っている時間さえも愛しい。




彼がくれる熱い感動を

できることなら私もあげたい。




あげたい。






end

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