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過剰回復の竜少女〜回復は最強の攻撃です〜  作者: 羽狛弓弦
第一章:スピカと師匠と不浄の化け物編
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7 スピカの日常 その3

 なぜ、村に向かうのか。

 この村から嘆願書が送られて来たのだ。

 夜、何度も盗賊が現れるので何とかして欲しいと。

 普通なら冒険者ギルドに依頼として回すのだが、この村にのみ、何度盗賊が現れて、さらに物品は奪われるが人が無事という点でおかしいのでスピカ達が直接来たのだ。


《そもそもここまで町の近くに盗賊が現れるのもおかしいものね》

《だね、それに粗方排除したもんね……私が》


 メーティスとスピカが言う通り、領内、特に町から近目にいる盗賊達はスピカによって壊滅させられている。

 治安の為もあるが、師匠に修行として倒してこいと放り込まれたのだ。

 数だけだったので何とかなったが。


「とりあえず、被害を受けた場所を見せてもらってもいいかな?」

「ええ」


 村長によってスピカ達は現場に案内される。


《むー、やっぱりおかしいよね》


 現場を見ながら村長の話を聞く限りやはりおかしい。

 盗賊に襲われたにしては被害が小さ過ぎる。

 盗賊が村を壊滅させないのは分かる。

 そうすれば自分達の稼ぎ場を失ってしまう上に悪名を高めてしまうのでそれはしない。

 悪名が高まれば早々に討伐隊が結成される。

 それは防ぎたいはずだ。

 それでも、村に大きな傷が残るくらいには略奪するだろう。

 なのに、盗賊達は何度も略奪できるくらいに最小限しか略奪していない。

 この村のみに略奪しにきている点も合わせて不自然だ。

 この村のは町からも近く、兵も派遣しやすい。

 ハイリスクノーリターンだ。

 にもかかわらずそれを実行している。

 相手がただのバカならいくつもの村を何も考えずに全滅させているはずだ。


《となると、他に目的がある?》

《そうね。その目的が重要なのだけど……いくつか考えられるけれど、あくまで可能性ね。とりあえずもっと現場検証をしましょう》


 スピカはメーティスと心の中で会話しながら検証を続ける。


「シリウスは何かわかった事がある?」


 念のため、第三者の意見を聞きたかったのでシリウスに聞いてみる。


「えーと、いろいろ不自然だという事しかわかりません。申し訳ありません姉上」


 すると、シリウスはションボリしながら答える。

 スピカの役に立ちたくてついて来たが、大して役に役に立たなかった為気を凹ましているのである。


「ううん。私もそれくらいしかわからないし、それだけわかれば十分だよ。他にも何かわかったら遠慮なく言ってね」

「はい! わかりました姉上!!」


 しかし、スピカに慰められるとシリウスは途端に元気になった。


《……私、時々この子の将来が不安になるわ》

《私も》


 スピカの兄弟は全員スピカを信奉している。

 程度に差はあるが、全員がシスコンなのだ。

 中でも、シリウスのシスコン度は兄弟達の中でもナンバーワンである。

 スピカの一つの言葉にいちいちと反応し、常にキラキラと尊敬した目でスピカを見ている。

 スピカとメーティスが育て方間違えたかも? と思ってしまうほどだ。

 せめて、下半身にまで直結したシスコンにならないで欲しいと思う。

 そうなったらスピカは泣く。

 きっと泣く。


 何て事を考えながらスピカは現場検証のみならず、村長に連れられて、村人達からも話しを聞いた。


「ふむ。今日はここまでだね。もう直ぐ日も暮れるし」

「スピカ様、盗賊達は何とかなりませんか? 我らももう限界なのです。これ以上奪われると我らは生きていけません」


 と村長は悲痛そうな顔をしてスピカに訴える。


「そうだね。……と言ってもこれ以上私に出来ることは無さそう。とりあえず、明日には兵を派遣するので後は彼らに頼って」

「そんな……ならば私どもは今日、どの様に過ごせばいいのですか!? 村人達は限界です。日夜盗賊に襲われて、不安で仕方ありません。どうか、どうか我らを守ってください」


 村長はスピカに頭を下げる。

 本当に限界だといった感じに必死に。


「仕方ないね。私の護衛を何人か置いていくので今日はそれで」

「それは危険です姉上!!」


 自らの護衛を村の防衛に当てるなんて!! 自身を危険に晒す気ですか!? とシリウスは反論する。


「全員置いていく訳じゃないから大丈夫だよ。それに、後は町に帰るだけだしね」


 そう言ってシリウスの反論を否定する。


「それじゃあ、本当に暗くなっちゃうから帰ろうか」


 そして、スピカ達は数名を村に置いて馬に乗る。

 馬を走らせる事数分。


「みんな止まって」


 スピカ達は馬を止める。

 町まで後十数分の距離だ。


「どうしたのです姉上?」


 シリウスがスピカに聞いた瞬間、側の森の中から大量の盗賊達がスピカ達を遮る形で現れた。


「へへへ、嬢ちゃん良く気がついたな」

「まあね。それで、コレは何の真似かな? 私はともかく、この子はリンカネーシア家の次期当主だよ? 無礼にもほどがあると思うのだけど?」


 とスピカは惚けたように言う。


「はっはっは。この領地の時期当主が誰であろうと俺たち荒くれ者には関係ねぇ。むしろ、俺たちの目的はそこの坊ちゃんではなくて嬢ちゃんの方だ」

「私?」

「ああ。嬢ちゃんほど上玉で高く売れそうな奴は他にいねぇ。だから危険を冒してまでこんな所にやって来たってわけだ」


 珍しい、かわいい、綺麗。

 スピカを体現する言葉だ。

 スピカはアルビノ体質であり、艶やかに流れる髪は雪の様に白く、その肌は白磁のように滑らかでシミひとつなく、その瞳はルビーの如く紅い。

 大きな目、小さな鼻、ぷっくりとした唇。

 そして、全体的に受ける印象は儚げである。

 触れるだけで壊れてしまいそうな、その存在を保っているだけで奇跡のような。

 それらが絶妙にマッチしてまるで神が丹精込めて作り出したかの様な造形をしている。

 欲しいと思う者は沢山いるのだ。

 特に金持ち連中には。


「貴様っ!!」


 そして、スピカを捕まえて売ろうとしている事にスピカ信奉者のシリウスは怒る。

 しかし、それとは反対にスピカは至って冷静だ。


「なるほど、それで村長さんを脅して、或いは金で買収して私を村に誘き寄せたってわけか。村に何度も襲撃して、嘆願書を書かせる名目を作り上げて。良く視察に行く私なら近隣の村なら直接行く可能性も大きいしね。そして、私が村にいる間にここで待ち伏せしておくと。私に護衛がいてもこれだけの人数がいれば何とかなりそうだしね」


 何故ならスピカは全て読んでいたのだ。

 盗賊の目的が自分である事も。

 幼い頃から度々狙われるスピカにとってある意味この様な事は日常茶飯事なのだ。

 もっとも、これほど手の込んだのは初めてだが。


「だけど、いくつか減点だね。私を監視するために仲間を村の中に入れておくのはいいけど、その方向に何度も村の外に出るのは不自然だと。あと、いくらなんでもここから町まで近すぎる。他にも不確実性が多いとかあるんだけど、一応成功しているからいいかな」


 うんうんとスピカは余裕を持って頷く。

 この状況で、あまりにも余裕な態度に盗賊達は少し恐怖を覚える。


「へ、へへっ、随分と余裕そうじゃねぇか」

「うん余裕だよ。だって……後ろを見てみなよ」

「後ろ?」


 盗賊達は後ろを振り向く。

 ……がそこには何もない。


「何もねぇじゃねーか!!」

「あれ? 聞こえない? ドドドドドって」


 スピカがそう言った瞬間、盗賊達の耳に音が聞こえ始めた。

 大量の蹄の音が。

 慌ててもう一度振り向く盗賊達。

 そこには何人もの騎士達が馬に乗って全速力でこちらに駆けつけている姿だった。


「は……ははっ。何だあれ?」

「私たちを守ってくれる騎士さん達だよ。こうなる事は読んでいたのだから手配させてもらったよ」


 スピカは村の中での不自然さを結びつけて様々な可能性を考えた。

 中でも明らかに自分達を狙っている事が分かったので帰る前にこっそりと護衛の一人を遠回りさせて町に戻らせたのだ。


「だから、大人しく捕まりなさい」

「っざけんじゃねぇーぞガギがぁ!!」


 盗賊はスピカに手を伸ばす。

 攫って逃げれば勝ちなのだ。

 スピカを捕まえて、騎士達から逃げれば勝ちなのだ。

 騎士達から逃げるよりもスピカを捕まえる事の方が遥かにこんなにだとは知らずに。


 盗賊の伸ばされた手が体から離れて地面に落ちる。


「は?」


 そして、盗賊の意識はそこで終わった。

 何をされたのかも分からずに。


「全員、シリウスを護って。私は大丈夫だから」

「承知いたしましたお嬢様」


 護衛達はシリウスを護るように陣形をとる。


「姉上……僕も戦います!!」

「ダメだよ。あなたじゃまだ危ない。数も多いし」

「しかし、姉上一人に任せるなんて」

「役に立ちたいのは分かるけどあなたはまだ子供なんだから護られていて。もう少し大人になってからね」


 スピカはそう言いながら馬から降りる。


「さて、盗賊さん達。覚悟はいいね」


 そして、スピカと騎士達による蹂躙が始まった。

 戦力も機動力も違う盗賊達は全てスピカ達の手によって捕らえられたのだ。




 ー▽ー



「て事があったんですよ」


 スピカは翌朝、デュランと剣を交えながら昨日の出来事を話す。

 町に盗賊達を連れて帰ったスピカ達は盗賊達を尋問した。

 結果、村長を含めて村の上役数名が金で買収されている事が判明。

 そのまま約束通り兵達を村に派遣したのだ。

 もっとも村を守る為ではなく村長達を捕らえる為にだが。

 今頃捕まっている頃だろう。


「ふむ。それで盗賊どもは一人も逃しておらぬだろうな」

「もちろんです。何人か馬に乗っていましたが騎士達の方が速いですし」

「お主もちゃんと戦ったのだな?」

「ええ。まあ、シリウスの側をあまり離れたくなかったので粗方は騎士達に任せましたが」

「ならばよし。強くなる為には実践が一番じゃ。相手が弱くても己が糧となる。スピカよその調子で強くなるのじゃ」

「了解ですししょあいたっ!!」


 話は終わったと言わんばかりにスピカは剣を叩きつけられる。

 刃引きはしてあるので大した怪我はないが、それでも打撲などはできるほどの強さだ。


「まだまだじゃの」

「むー。もう少しだと思うんだけどなぁ」


 スピカの言う通り、デュランとスピカの技量の差は確実に縮んでいる。

 しかし、それは確たる差としてまだ存在するのだ。


「はっはっはっ。そう易々と通せはせんよ。だが、お主はまだまだこれからじゃ。これからも修行は厳しく行くぞい」

「わかりました師匠!!」


 こうしてスピカの日常は続く。

 デュランに剣を鍛えてもらい、アントン達と仕事をし、シリウス達兄弟と過ごす。

 多少イレギュラーがあれど、それは確かにスピカの日常であった。






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本作品の改訂版です。

大いなる癒しの竜少女~アンデッドの弱点は回復魔法です~

竜と精霊の回復ファンタジーです。

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