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過剰回復の竜少女〜回復は最強の攻撃です〜  作者: 羽狛弓弦
第一章:スピカと師匠と不浄の化け物編
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5 スピカの日常 その1

  スピカの朝は早い。

  まだ、日が昇る前に目がさめる。


「おはよう」

 《スピカ、おはよう》


  メーティスと朝の挨拶を交わしベッドから降りる。

  それから、動きやすい格好に着替えて屋敷の外に出る。

  向かった先はとある道場だ。

  スピカが道場に入ると中には一人の老人が瞑想をしていた。


「師匠、おはようございます」


  スピカが老人に挨拶をするも老人は口を開くどころかピクリとも動かない。

  瞑想しているというよりも、老人が座ったまま死んでいるようにしか見えない。


「あれ、もしかして死にました?」


  スピカが目の前の光景をそのまま口にすると、老人はカッと目を開き、


「ワシを勝手に殺すな!!」


  スピカを怒鳴った。


「いや、挨拶くらい交わしてくださいよ。師匠はいい年齢なんですから死んだと思ってしまいますよ」


  実際、老人の見た目は今にも寿命を迎えそうなほど高齢だ。

  先ほどは死んでいるようにしか見えなかったが、スピカは老人が死んでいない事には気づいていた。

  冗談を言っただけだった。


「まだまだ未熟な弟子がいるのに、そう簡単にくたばれんわ!!」

「そうですね。でも気をつけてくださいよ。私が知らないうちにポックリ逝かれても困りますから」

「ならばワシが寿命で死ぬ前にワシを超えてみせよ」

「了解です」


  スピカと老人はお互いに剣を構える。

  老人はスピカの剣の師匠だ。

  スピカは幼い頃から老人に剣を習っている。


  老人の名前はデュラン・スターティア

  かつて『流星』と言われ英雄視されていた剣士であった。

  彼はその剣技を磨きながらも年齢を重ねた。

  そして、年齢を重ねた結果、肉体のピークはとうに過ぎ去り、体力も集中力も落ちた。

  これ以上強くなるどころか衰退していくばかりであった。

  潮時だと感じたデュランはこの街に道場を構えて弟子をとる事にした。

  しかし、一向にこれだという弟子には出会えず、仮に弟子を取ってもその厳しい稽古からすぐに辞めていった。

  新たな地を求めて旅立つ体力も無くなり、まともな弟子をとる事ができずにただ朽ちていくだけであった。

  そんな時、とある幼女が道場を訪れた。

  十どころかその半分にも満たないであろう幼女だ。


  幼女は剣を教えてくれと言う。

  しかし、デュランはそれを断った。

  散々弟子にその厳しさから逃げられたのだ。

  その厳しい稽古に幼女がついてこられる筈がない。

  さらに、デュランの剣術は二刀流だ。

  片方に一本ずつの剣を握らなければならない。

  幼女が剣を握るには幼すぎた。

  そう言ってデュランは幼女を追い返したが、幼女は諦めずに何度も道場に足を運んできた。


  デュランは何度も追い返したが、幼女の必死さに折れて、幼女に稽古をつけ始めた。

  幼女は才能の無い天才だった。

  年齢の割には力があり、片手でも剣を十全に振るう事ができた。

  また、体力も、気力もあり、デュランの稽古についていく事ができた。

  さらに、幼女はいくつもの特異な能力の持ち主であった。

  それ故か剣術、あるいはその身を駆使して闘う事に才能がなかった。

  闘う術として重要なある一点が欠けていた。

  しかし、幼女は瞬く間にデュランの唯一にして最高の弟子となった。

  幼女の名前はスピカ・リンカネーシア。

  精霊メーティスをその身に宿した特異な存在。


  それがスピカとデュランの出会いであった。


  それから8年。

  スピカは毎日のように道場に通い、デュランと稽古を稽古をつけている。


「ふう。今日はこの辺りにしておこうかの」

「あー、今日こそ師匠から一本取れそうだったのに」

「まだまだ甘いわ!! もっと精進せよ!」

「はーい」



  3時間で稽古を終えて、スピカは屋敷に戻る。

  屋敷に戻ったスピカは汗をかいた体を清めて着替える。

  そして、屋敷の執務室に入る。


「おはようございますお嬢様」


  執務室には執事服を着た壮年の男性がおり、スピカが執務室に入ると同時に頭を下げた。

 彼はこの屋敷の執事長である。


「おはようアントン。それで今日の予定は?」

「はっ。本日は商業ギルド長との会談と、午後から近隣の村に視察していただきたく存じます」

「ああ、確か何回も盗賊に襲われている村の案件だったっけ。...ふーん。わかった。あと、この書類を片付けたらいいんだよね?」

「はい」

「さてと、今日もお仕事頑張りますか」


 スピカはそう言いながら椅子に座る。

 その様子を見てアントンは眉をひそめる。


「どうしたの、そんな顔をして?」

「……いえ、どうしてお嬢様がこの様な苦労をしなければならないのかと」

「今更じゃない」

「しかし、本来はあの男の仕事です!! なのに、いい年こいて毎日毎日女と過ごすだけ。あの男がちゃんと仕事をしていればお嬢様は「アントン」」


 スピカはアントンを止める。


「今はいないけど、万が一あの男や女達に聞かれて貴方が処罰されたら困る。だからそれ以上はダメ」

「っっっ!! 申し訳ありません」


 アントンは頭を下げて謝る。


「まあ、王都からそうそう帰ってくる事もないし、帰って来てもすぐに帰るから大丈夫だろうけどね。でも、万が一があるから注意してよ。貴方が居ないとこの領地は詰むんだから」

「それは、お嬢様もでしょう」

「私が関わるまでこの領地を保たせたのは貴方なんだから私が居なくてもなんとかなるよ」


 スピカがこのリンカネーシア領を実質的に統治をし始めたのは約8年ほど前頃からだ。

 このリンカネーシア領の領主は本来、スピカの父親だ。

 スピカの父親の嫁の一人にこの国の姫がいる。

 その時にスピカの父親はこの領地を与えられた。

 しかし、スピカの父親はこの領地を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、飽きたら一切仕事をしないで嫁達と王都に向かい、優雅に過ごしている。

 もちろん、王都でも仕事をしていない。


 結果、肥沃で豊かなはずのリンカネーシア領が混沌としていたのだ。

 その時に、実質的にリンカネーシア領を統治し始めたのがアントンである。

 アントンはスピカの父親達に頭を抱えながらも必死で領地の安定化をはかった。

 それでも、スピカの父親が内政チートだとか言って引っ掻き回した傷跡は大きかった。


 増える一方の仕事、全く安定しない領地。

 アントンを筆頭としたリンカネーシア家の家臣は目を回しながらもなんとか領地を保たせていた。

 そんな時、リンカネーシア家の長女であるスピカが仕事を手伝い始めたのである。

 最初は、スピカが父親の様に引っ掻き回すのでは?

 ましてやろくに知識も持たない幼女である。

 いくらスピカでも勘弁してくれ、せめて仕事の邪魔をしないでくれとアントン達は思っていた。

 しかし、スピカは父親と違い、しっかりとアントン達の意見を聞き、さらに適切で革新的な統治を行った。

 乱れていた治安は安定し、下がっていた収益はアップした。


 スピカが、領地の仕事を始めたのは父親達の為ではない。

 弟や妹達のためだ。

 いずれこの領地を継ぐのはこの国の姫から産まれたスピカの弟だ。

 その時にどうしようもない領地だと苦労するだろうと思い、スピカはそれまでに領地を安定化させる為に この領を統治し始めたのだ。

 もちろん、幼女に領主代理としての仕事をする事ができるはずがない。

 しかし、スピカの内にはメーティスがいる。

 スピカはメーティスの助言を受けてリンカネーシア領を統治、見事に安定化に成功させたのだ。


 それ以来、アントン達のクラリス家の家臣はスピカの事を信頼、尊敬している。

 それ故に、娘であるスピカが幼い頃から苦労して統治しているにも関わらずに仕事をしないで遊びふけっ ているスピカの父親と母親達をアントン達は嫌っているのである。






強くなるために剣術を習ったスピカさん。

過剰回復はまだだったり。

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本作品の改訂版です。

大いなる癒しの竜少女~アンデッドの弱点は回復魔法です~

竜と精霊の回復ファンタジーです。

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