33 雌羊座のアリエス
ダッサイ名前はいろいろ考えてる
(はっやいな)
それがスピカの素直な感想であった。
最初は遠距離から回復魔法を飛ばすが簡単に避けられてしまい、あっという間に距離を詰められてしまった。
近接戦闘に持ち込まれたが、剣技として並行して回復魔法をアリエスにかけようと思ったが、男は三人がまだ残っているため、いざという時に彼らを確実に処理できるように回復魔法は温存し、剣技による戦闘に切り替えることにスピカは決めた。
《こいつ、ダサい名前とは裏腹に強いよ!》
《格好つけるだけの事はあるわね》
縦横無尽に駆け回り、ヒットアンドウェイでスピカを翻弄するアリエス。
単純な技量はともかく、そのスピードは確かなものであった。
だが、
「私だってスピードには自信があるんだよ!」
それについていくスピカ。
闘気が使えないスピカであったが、スピードは達人にも劣らないものがあった。
常人には目にも止まらない攻防を繰り広げる二人。
「すごい! 私のスピードについてくるなんて!」
アリエスはスピカに賞賛を送る。
かつて戦場で、真正面から突撃して誰一人に触れられる事なく将の首をとった事がある。
そんな自分についてこられるスピカを見て、男達には敵わないはずであると納得した。
男達を倒したほとんどが回復魔法であったが、スピード至上主義のアリエスにはそんな事はどうでもよかった。
しかし、だからこそアリエスは足を止めない。
スピカ以外攻撃しない。
仮に標的をミラに切り替えて攻撃しようものなら、その一瞬の隙を突かれる事を理解していたから。
そして、それはスピカにとっても好都合であった。
ミラが狙われる事はないのだから。
「速いけどこれなら!」
スピカはなりふり構わずに人竜化する。
こちらの方が多少能力が上がる。
多少ではあるが、確実にアリエスとの距離を詰めるものであった。
「翼!? いや、そんな事はどうでもいい! まだ早くなるなんて! だったら私も!!」
それを見たアリエスは自身のリミッターを解除する。
もっと、もっと速くと。
誰にも追いつけないスピードをと。
「うそっ!? 速すぎ「ぐべらっ!」だ……え?」
スピカは光景に目を疑った。
何故なら、アリエスがさらに一段階速くなったと思ったら木にぶつかったのだから。
理由は簡単である。
制御が効かない上に自身のスピードに反応速度が追いついていなかったからだ。
アリエスは途方もないスピードで駆ける事ができる。
それこそ誰よりも速く。
しかし、ある一定以上のスピードになると制御が効かない上に反応速度が追いつかなくなるのだ。
だから、スピカを驚かせたスピードのまま木に激突したのである。
淑女とは思えない声を出して。
「っっ、うっく……。い、いったぁぁぁーーい!!」
さらには泣き出した。
「えーと?」
「ひっく。ひっく。お前名前は?」
「ス、スピカだけど」
「スピカ。覚えたからな! 今日のところはもう帰ってやる!」
「は?」
その言葉に一番驚いたのは男達であった。
高い金で雇っていい雰囲気で登場したと思ったら、自滅して泣き出して帰るというのだ。
とても酷い子供にしか見えない。
「おい待てふざけるな!」
「うるさいバーカバーカ! 大の大人が大人数で寄ってたかって女の子に危害を加えようとしている奴らに言われたくないよ!」
そう言ってアリエスは正に脱兎のごとく逃げていった。
なかなかにカオスな状況であるが、スピカにとっては好都合である。
厄介な奴らはいなくなり、後はクズの雑魚だけである。
『何じゃ、もう終わりそうだな』
さらには援軍もやって来た。
正面から攻めて来ていたヒト達を蹴散らし終えたユニコーン達が帰ってきたのである。
「ち、ちくしょーーー!!」
男達にはもはや絶望しかなかった。
ー▽ー
『助かった竜の少女よ。おかげでこの子達が連れ去られずに済んだ』
ひと段落終えたユニコーンはスピカに礼をいう。
周りにヒトの存在はすでにない。
「ううん、いいんだよ。流石に責任を感じたしね」
スピカがユニコーンの子供達を守った理由は、この子達が好きなのもあるが罪悪感もあった為だ。
スピカはどうしてこのタイミングで男達が襲ってきたのか考えた。
男達はおそらくこの辺りにユニコーン達がいることを知っていたのだろう。
しかし、具体的な場所は知らなかった。
後で知った事だが、この辺りは害意ある存在が察知できないようにする幻術がユニコーンによってかけられていた。
スピカはそんな事は知らなかったが、男達がこの具体的な場所を知らないであろうと考えていた。
だからこそ大人数で探索していた。
そんな時、自分がこの場所に墜落した。
その様子を見にきた誰かによってこの場所が判明してしまったのでは? と考えちょっと責任を感じてしまったのだ。
だから戦闘が起こり、ユニコーン達が迎え出た時に念話による状況を聞いて、メーティスと共に陽動だと推測し、この場は自分が守ると提案したのだ。
ミラにはあんな事を言ったが、最初から守るつもりであった。
「スピカはやっぱりすごいですわね」
そんなスピカを見てため息を吐くミラ。
「どうしたの?」
「だって、わたくしは何も決められなかった。混乱するばかりで。それに、魔法ぐらいはって思ったけど結局は何も出来ずに守られて」
ある意味で初めての実戦。
何も出来ずにミラは落ち込んでいた。
「そんな事はないよ。あの変な女、あんなのだったけどトンデモなかったもん」
自滅したアリエスだったが、それがなければかなり厄介であった。
負けるつもりはないが苦戦は確実だと思っていた。
勝手に自滅して逃げていったので助かったと思っている。
そんな存在に素人同然のミラが対処できないのも仕方ないと思っている。
「でも……」
「そうだ! だったら修行しようよ」
「修行ですの?」
「うん。流石に魔法を、しかもほとんど口伝で教えて数日で使うのはね。ここはそこそこ安全だろうし、そこそこ獲物もいるだろうしちょうどいいんじゃないかな。それにちゃんとした先生もいる」
チラリとユニコーンを見るスピカ。
「という事で、しばらくここでミラに魔法を教えて欲しいんだけどいいかな?」
中でも特に知能が高く、念話すら使えるユニコーンの長にスピカは頼んだ。
いくらメーティスがいても自分では流石に限界がある。
しかし、このユニコーンならミラに魔法を教えられるとスピカは思ったのだ。
『うむ、いいぞ』
そんなスピカのお願いにユニコーンの長はアッサリと答えた。
「だってさミラ、よかったね」
「えーと、よろしいのですか?」
『うむ、お主達には恩義がある。それくらいはおやすいご用だ』
こうしてミラはしばらくの間ユニコーンの元で修行をすることになった。
とりあえずこの章は終わり。
5月の初めから始めているのに遅々として進まない物語。
いろいろストーリーは考えているんだけど、その合間合間のストーリーがなかなか書けないっていう。
まあ、他の話書いたりしちゃってるからなんですけどね。
さて、次の章では新たな仲間を入れる事ができたらなと。
あとミラが覚醒します。




