31 不時着
おひさし。別作品が完結して達成感に震えていたらこっち投稿するの忘れていたぜ
『………………』
「この辺りで降りたらよろしくありません?」
陸に到着し、人気がなさそうな森林地帯まで飛んだので、ミラはそろそろ降りないかとスピカに提案する。
『…………』
「スピカ?」
しかし、スピカが先ほどから黙り切っており、今の提案にも言葉を出さない。
そんなスピカを見て、やっぱり、さっきスピカに嫌な思い出を話させた事を怒っているのでは? とミラは不安に思った。
「スピカ……あの『ミ、ミラ。ご、ごめんね』」
だから、先ほどメーティスに止められたがやはりきちんと謝った方がいいのではと思い、スピカに謝ろうとしたところ、スピカに言葉を遮られ、あまつさえ自分に謝罪の言葉を持ち出した。
「謝るのはこちらの方ですわ。やはり先ほどの事を気にして……」
『や、ち、違うんだけど。もっと深刻な事』
「え?」
帰ってくるのは焦りの声。
いったいどうしたのかとミラは思う。
『あ、あのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど』
「ええ。怒りませんわ」
『……その……降りられない』
「はい?」
『だから、減速できなくて降りられない』
「…………はいぃぃぃぃぃ!?」
スピカから申し訳なさそうに放たれたのは着陸できない宣言。
これにはミラは困惑してしまう。
「ど、ど、ど、どうするのですか!? というより何で降りられないんですの!?」
『私、普段飛ぶ時は人竜形態で飛ぶから。それに、人に見せられなかったから竜形態は慣れてなくて』
人竜形態では問題なく飛ぶ事ができるが、竜形態では体の動かし方が少し異なり、慣れていない事をミラに告げる。
離陸時や飛行時は問題なく飛べたので大丈夫だと思っていた、ごめんなさいとスピカはオドオドと言った。
『ま、まあ、慣れていないだけだから。やれば意外と上手くいくかもしれないし』
「え、え? やるんですの?」
『だって、そうするしか降りられないし。大丈夫。どんな重症でも私が治してあげるから』
「その前に死んでしまいますわ!!」
スピカの背中は、実は不安定なものだと分かり、ミラは今の状況が急に怖くなりだした。
落ちるかもしれない。
それだけで人は高所を怖がるようになるのだ。
『それじゃあ、まずは減速するよ。しっかりつかまってて』
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいまし。まだ心の準備が」
せめて心の準備だけでもとミラは懇願するが、その瞬間、ガクンとスピカの軌道が落ちた。
『あ、やばい。無理だ。落ちる』
「いやぁぁぁぁ!!」
減速しようとしてバランスを崩し、そのままスピカとミラは落下していく。
『やばいやばいやばいやばいやばい落ちる落ちる落ちるううわああああああああああああああ!!』
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
スピカは落下しながらも何とか体制を立て直そうとするが、抵抗虚しくその竜の巨体は森林地帯に落下したのであった。
ー▽ー
『うぅ、痛たた。ミラ、大丈夫?』
落下したスピカであったが、多少抵抗に成功した事と木がクッションになった事により大して怪我もせずに地面に降り立つ事ができた。
降り立つと言うよりは完全に落下であるが。
「ええ、大丈夫ですわ」
そして、スピカの背中に乗っていたミラも無事であった。
全ての衝撃をスピカが受け負ったおかげである。
「もう、二度と空は飛びたくありませんわ」
それはミラの本心であった。
助かったとはいえ、墜落してしまっては空への恐怖も目覚めたしまう。
墜落するなど二度とごめんであった。
『あと、何回か空を飛んで行こうと思っていたんだけど』
「勘弁してくださいまし」
確かに、スピカの竜形態に乗って空を飛べば、恐ろしい早さで家まで辿り着くことができるであろう。
しかし、それでももう空を飛ぶのは嫌であった。
時間がかかっても地面に足をつけて旅がしたいとミラは思った。
その時、複数の馬の鳴き声が聞こえてくる。
その声がする前方を見るとそこには、幻想的な湖と一本角が生えた複数の馬がいた。
「ユニコーン?」
ミラは思わず呟いた。
ユニコーンは観測例がとても少ない超希少な幻獣種である。
それが、ミラの目の前に何頭もいるのだ。
驚くのも無理はない。
『あ、ミラ、降りて!!』
ミラはユニコーンの群れに見とれていると、スピカが急かすように言ってくる。
「どうしましたの?」
『落下した時、何頭か巻き込んでる!!』
「ええ!?」
その言葉を聞いてミラはすぐさまスピカから降りる。
ミラが降りたのを確認すると、スピカはすぐに人形態に戻った。
「わわわわわ、ごめんなさい。今、治すね」
死んではないものの、落下時の体当たりでそれなりの怪我を負って倒れているユニコーン達にスピカは急いで回復魔法をかける。
「これでよしと。誰も死んでなくてよかった」
『よかったではないぞ小娘よ』
倒れていた内の一頭がむくりと起き上がり、言葉を放った。
「え、喋れるの?」
『うむ。私も長生きしているからな。このくらいわけもない』
そのユニコーンは、群れの中でも一際大きく、不思議な存在感を放つ者であった。
『して、竜族と人族の少女よ。この地にいきなり突撃してくるとはいったい何ようか?』
「あははは、えっとね。私たち、旅をしていてね。それで空を飛んでいたんだけど途中でバランスを崩してね。そのまま墜落してしまったんです。はい」
スピカは気まずそうに言う。
何しろ事故とはいえこちらは加害者だ。
死人が出なかったし、怪我も自分で治したとはいえ気まずくもなる。
『ふむ、なるほど。それは災難だったなと言うべきか。まあ、幸いこちらに死者はおらんし怪我も治してもらった。突撃してきた事は許そう』
「ありがとうございます」
その言葉にスピカはホッとする。
何しろユニコーンはその希少性もさることながら驚異の戦闘力を誇ると聞く。
もし、暴れられでもしたら自分はともかくミラが危険だと思っていた。
しかし、このユニコーンは理性的であり寛大であった。
ごめんなさいすればきちんと許してくれる大人なユニコーンであった。
「迷惑ついでにいくつかいいかな?」
『何かね?』
「私達、旅をしているって言ったけど、アルデバラン王国に行きたいんだ」
『アルデバラン王国とな』
「しってるの?」
『うむ。私も昔は旅をして世界中を回ったものだ。当然アルデバラン王国にも寄ったことがある』
「だったら大まかでいいからルートはわかる?」
『うむ』
スピカ達にはアルデバランへの方角しかわからなかったので、ここで大まかでもルートが聞けるのは喜ばしい事であった。
スピカが竜形態になってひとっ飛びすれば楽ではあるものの、先ほどのように墜落してしまう危険もあるため、できれば陸路で旅をしたかったのだ。
『今、ここは人でいうシュダル王国だ。まずは北東に向かってリゲルに向かうといい。そこから東に向かえばアルカイド竜国だ。すまぬが道中の国の名前は知らん』
「ううん。十分だよ。ありがとう」
「ヒヒーン」
聞きたい事が聞けたその時、一頭のユニコーンがスピカの側にすり寄ってきた。
「わっ、おっきいね。よしよし」
そのユニコーンは他のユニコーンよりも一回り大きく、スピカが撫でると嬉しそうに嘶いた。
『ふむ。好かれたようだな』
「そんなにすぐに好かれるようなものなの?」
『我らユニコーンは清純な気を好む。お主達の、特にお主の気は我らにとってとても心地よいものなのだ』
スピカから漏れ出す癒しの気配がスピカ達の第一印象を良くしたのだ。
空から突然自分たちの安寧の地に突撃した上に、治療したとはいえ怪我まで負わした相手にここまで親切になるのもそのお陰だ。
「うう、いいですわねスピカ」
そんなスピカをみてミラは羨ましがった。
スピカが撫でているユニコーンは大きいが、スピカ同様白くて綺麗でフサフサで是非とも撫ぜてみたいものなのだ。
しかし、触っていいものかどうかわからずにいる。
「ミラも撫でたらいいじゃない」
「だ、大丈夫ですの?」
「大丈夫だよほら」
スピカはミラの手をとって、ユニコーンの首筋を撫でさせる。
ユニコーンは不機嫌になるでもなく気持ちよさそうにしている。
ミラにはスピカのような癒しの気配は醸しだしていないものの、彼女の気もまた清純なものでありユニコーンにとって好ましいものであった。
「おや、いっぱい集まってきたね」
その様子を見た他のユニコーン達はスピカ達を無害だと判断したのかだんだんの彼女達の側に集まってきた。
「あわわわ。どうしましょうスピカ?」
「これは子供達かな?」
『うむ。ちなみにその子もまだ子供だ』
「えっ、そうなの?」
『赤ん坊の時から大きくてな。でも体は大きくてもやんちゃ者だ。子供達の中でも特に好奇心が強い』
ユニコーンの子供達が集まってきて慌てているミラを横目に、スピカとユニコーンの長は雑談をするのであった。




