2 ノーライフキング
ノーライフキングがその場でスッと杖を振るう。
その先から出てくる黒い靄がスピカを包み込む。
「あ、く、ぅぅぅ」
黒い靄は呪いの靄。
それはスピカを包み込んで蝕んでいく。
《スピカ、回復!! あと吹き飛ばして!!》
「う、うん」
しかし、スピカはメーティスの助言に従って呪いを消し去り、魔力を放って黒い靄を吹き飛ばす。
『なんと!?』
これにはノーライフキングも驚愕した。
何せ人を何度も死に至らせるような呪いを放ったのだ。
それを幼子が耐え、あまつさえ吹き飛ばしたのだ。
「今度はこっちの番!!」
スピカは魔力を練り上げノーライフキング向かって放つ。
『ぐぉぉぉぉ!? 何だこれは!?』
スピカの魔力を受けたノーライフキングは苦しみ、さらに驚愕する。
何しろ魔力を受けただけで浄化されようとしているのだ。
それも幼子が放ったものが。
驚かない訳がない。
対してスピカは驚いている。
今まで出会ったアンデットは全て一撃で浄化したのだ。
断末魔を残す暇すらなく。
それなのにこのノーライフキングは浄化されない。
苦しんではいるが倒せていないのだ。
《スピカ!! もっと魔力を放って!!》
「うん!! やぁぁぁ!!」
スピカはさらに魔力を放つ。
先ほどよりも強く。
『グアアアァァ!! させっるかぁ!!』
ノーライフキングは自身を包み込むスピカの魔力を振り払い一気に距離を詰める。
ノーライフキングは魔法タイプだ。
その魔法でノーライフキングは負けた。
相性の差が大き過ぎたのと、スピカ自身の癒しの魔力がとても大きかったのだ。
ノーライフキングは遠距離からの魔法で戦うには不利と悟った。
本来骸骨であるノーライフキングは接近戦が苦手だ。
しかし、相手は幼子。
接近戦でも十分に勝てる。
そう判断したノーライフキングは距離を詰めて、
『死ねぃ』
杖を全力でスピカに叩きつけた。
「かっ、はっ、いぎっ!?」
骸骨とはいえ災害レベルの存在によって振るわれた力。
スピカは血反吐を吐きながら簡単に吹き飛ばされた。
《スピカ!? 大丈夫!?》
「いたっ、いたいぃ」
スピカは泣きそうになるのを堪え、ノーライフキングを見つめる。
スピカはこの年にして早くも学んだ。
恐怖に怯えていてはだめだと。
勇気を振り絞り、立ち上がらなければ死ぬと。
だから、スピカは痛みに耐え、自身を治療しながら立ち上がる。
恐怖の象徴であるノーライフキングにも目を背けない。
『トドメだ』
いつの間にか目の前まで移動していたノーライフキングの杖が再びスピカに迫ってくる。
それでもスピカは目を背けない。
必ず生きて家に帰る為に。
メーティスが助けてくれたのを無駄にしない為に。
「負けるもんかああああああ!!」
スピカは目の前の存在に向かって全力で魔力を放つ。
残りの魔力を無視して全力。
命の危機に反してか、途方もない出力で魔力が放たれる。
『な、なにぃぃ!? バ、バカな!? この私がこの様な幼子に!? オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ』
スピカの魔力を直撃したノーライフキングはその身を浄化され、跡形もなく消え去った。
「はあ、はあ、はあ、か、勝ったよ!! メーティス勝ったよ!!」
《凄い凄い凄い!! スピカ凄いわ!!》
ノーライフキングに勝利したスピカはメーティスと共に喜び合う。
何せこれまでの最大の恐怖を乗り越えたのだ。
嬉しくないはずがない。
「あ、いたぁ」
その時、突然スピカはお腹を押さえる。
急に痛みが強くなりだしたのだ。
戦闘中に回復魔法を使ったが、まだ治りきっていなかったのだ。
何せ杖で殴られた時、スピカは瀕死の重傷を負っていたのだ。
内臓を幾つか損傷していた。
それを強い打撲程度にまで戦闘中に回復させただけでも大したものなのだ。
回復魔法による痛みの抑制効果と戦闘中の興奮状態により、痛みはそれ程気にしなかったが、今はとても痛い。
《スピカ、大丈夫?》
「だい、じょうぶ」
《魔力もすっからかんだし。休まないと》
メーティスの言う通り先ほどの一撃でスピカの魔力は空である。
スピカは大いなる癒しの力を持ち、さらに膨大な魔力を持つが、これまでの戦いと先ほどの戦いで使い切ってしまったのだ。
「その前に、あそこに、行か、ないと」
スピカが目を向けるのはノーライフキングが座っていた玉座の奥にある大きな扉。
この部屋に入ってきた扉よりもさらに大きい。
スピカは痛みを堪えつつ扉に手をかける。
不思議と扉は重さを感じさせずにゆっくりと開いた。
先ほどとは違い、扉の隙間から強く暖かな光が溢れ出してくる。
そして、その先には、
『ああ、よくぞいらしてくれました。勇気ある幼子よ』
白く光り輝く巨大な竜が鎮座していた。