27 ここはどこ?
ある者は道中に襲われ、ある者は村を襲われ攫われた。
子供達は売られようとしていて、女達は弄ばされた。
誰も彼もが絶望していた。
そんな時、二人の少女がアジトに運ばれてきた。
それを見た女性達は気の毒に思った。
自分たちよりも何倍も美しい少女たち。
おそらく、自分たちよりも酷い目にあわさせるであろうと。
確かに、金髪の少女だけならそうなっていただろう。
しかし、そこには白い少女もいた。
白い少女は自分たちを率いながら、たった一人で盗賊達を壊滅させた。
そして自分たちを助けて一緒に町に向かった。
彼女達は町で保護され、助かったのだと認識する。
彼女達は涙を流して白い少女に感謝の言葉を告げた。
そして白い少女、スピカ、そしてミラはこの町の町長のところにいる。
ー▽ー
「俄かに信じられないが、まずは礼を言う。ありがとう」
町長には信じられなかった。
目の前の白い少女が盗賊団を壊滅させたという事に。
その姿は弱々しく、儚げで誰かが守らなければ生きていけないといった風である。
だから、そんな少女が一人でそれを成し遂げたのが信じられなかった。
しかし、現実は現実であった。
捕らえられていた女子供と共に町に来た上に、その盗賊団のリーダーが縛られて連れてこられていた。
それがある以上、スピカが成したことを信じない訳にはいかなかった。
「私も捕まっていたから出てきただけだからね」
「ふむ。何故捕まっていたのだ? 盗賊団を壊滅させたあなたならば捕まるような事はないだろうに」
「それが私にもわからないの。聞いた話によれば、私達はその盗賊団のアジトの近くで倒れていてそのまま運び込まれたみたい。実は、元は違う場所にいたのだけど、どこかに飛ばされたみたいなんだ」
「飛ばされた?」
「ええ。転移魔法で飛ばされた」
こともなさげにスピカは言っているが、転移魔法はかなり希少である。
希少どころか伝説クラスで存在自体怪しいものである。
しかも、どのような状況になれば転移魔法で見知らぬ場所に飛ばされるのかわからないのだ。
不自然極まりない。
しかし、町長にはスピカが嘘をついているようには思えなかった。
「先ほど言った通り、私達はここがどこかもわからない。ここはどの国なの?」
「ここは、ゲンマ国という」
「ゲンマ国。……ミラ、知ってる?」
「いいえ。わかりませんわ」
現在いる国の名前を聞くが、スピカもミラも聞いた事がなかった。
世界のどの位置に存在するのかもわからない。
「アルデバラン王国、アルカイド竜国、アルマク王国。どれかに聞き覚えはない?」
「うーむ。聞いた事がないな」
スピカ達がいた付近での代表的な国の名前を聞くが、町長は知らないようであった。
続けて、スピカが知っている限りの国を、アルデバラン王国から近い順に言っていく。
「ーーー、カフ、シェダル」
「おお、シェダル王国ならば知っているぞ」
「本当!?」
良かったと、スピカはため息を吐く。
そろそろ、スピカが知っている国の名前が切れそうだったのだ。
「スピカ、シェダル王国ってどこなのですか?」
「……大陸の端の国だよ。私達とは逆方向のね」
「逆……」
それを聞いてミラは絶句する。
ミラ達のいる大陸はかなり大きい。
そして、アルデバラン王国はその大陸の東の端に位置する。
つまり、シェダル王国とアルデバラン王国は、大陸の端と端に存在するのだ。
大貴族の令嬢であるミラですら知らないほど離れていて、もちろん国との交流は無いに等しい。
そもそも、ここはシェダル王国ですらないのだ。
帰れるのか不安になってしまう。
「それで、こことシェダル王国の位置関係はわかる?」
「ああ。シェダル王国とは少しだが貿易していてな。どれ、簡単な地図だが見せてやろう」
町長は机から地図を取り出す。
「ここがこの国で、ここがシェダル王国だ」
スピカ達に見せて指差したのは、海に囲まれた島と、そこから離れた大陸であった。
ー▽ー
盗賊団を壊滅させたお礼にと一室用意されており、ミラはそこで窓から星空を眺めていた。
泣いてはいないものの、様々な思いがミラを襲っていた。
二度、危機に合い、二度ともスピカに助けられた。
命も尊厳も無事でホッとする。
しかし、二度と帰れないかもしれない場所に飛ばされてしまった。
二度と家族には会えないのかもしれないのだ。
15歳の、しかも箱入り娘の少女にはそれはきつい。
「ミラ」
そんなミラにスピカが話しかける。
「これからどうするか決めよっか」
「どう、とは?」
「ここに残るか帰るかだよ」
「帰る……」
そんな事は可能なのかと、ミラは思う。
アルデバラン王国まで、絶望的なまでの距離があって、海まで隔てている。
帰るのがいかに困難かはミラにも分かる。
「私もあそこには戻らないといけないからね。あの化け物や黒い宝玉がどうなったか知りたいし、何よりもう片方の剣がそこに残っているかもしれないからね」
そう言って、スピカは片割れを失った己が剣を見る。
デュランより譲られた二刀一対のふた振りの剣。
それが、今やスピカの手元には片方しか存在していなかった。
とても、大事な剣なのだ。
必ず取り戻さなければならない。
「だから、私は戻るんだけど、ミラはどうする? もし、ここに残るなら、私が戻った時にミラの家族にミラの事を伝える事は出来るよ。それとも、私と一緒にいく?」
スピカから出される二つの提案。
ミラはどうすればいいのかわからなかった。
ここに残れば命の危険は無いかもしれない。
しかし、迎えが来るかはわからない。
仮に迎えが来ても、やはりまでは困難である。
対して、スピカと共に帰るにも、二人だけの旅になるのだ。
かなり危険である。
「わたくしは……」
「今、答えなくてもいいよ。何日かはここにいるつもりだし。それまでに聞かせてね」
「いいえ、それには及びませんわ」
ベッドに潜り込もうとしているスピカに待ったをかける。
「もう決めたの?」
「ええ。わたくしも連れていってくださいまし」
ミラは決めた。
スピカと共に行くと。
ここで、来るかもわからない迎えを待つよりはスピカと共に行く方が遥かに良いと。
「出来るだけ守るけれど危険だよ? 下手したら死ぬかもしれない」
「構いませんわ。ここに残るよりはマシですすわ」
「そう。わかった。だったら……メーティス」
スピカは己の相棒の名前を呼ぶ。
すると、スピカの近くに魔力が集まり、そこから15センチくらいのトンボのような羽の生えた黒目黒髪の妖精のような女の子が現れた。
『ヤッホー。ミラ、私はメーティス。よろしくね』




