26 友達
男の案内で森を抜けて街道にでる。
後は、道に沿って歩けばいいので、楽なものだ。
馬もあったのだが、乗る事ができる人が少なすぎたために断念した。
子供もいるため移動速度は遅いが、明日には町に着くそうである。
「スピカさん。またも助けていただいて感謝いたしますわ」
野宿になるので、食事を作ってみんなで食べている最中にミラがスピカに礼を言った。
「どうしたの急に?」
「あの時、あの化け物からわたくしを守っていただいたお礼と、今回の盗賊の魔の手から助けていただいたお礼ですわ。スピカさんは強いのですわね。ふふふ。強くて賢くて美しい。わたくしなんかよりもずっとレオナルド様に相応しいですわ」
ミラの心根は良い。
二度も自分を助けてくれたスピカからレオナルドを取ることは出来ないと思った。
レオナルドの為にも、スピカの為にも。
だから、レオナルドの事は諦めようと思った。
しかし、
「はあ。ずっと勘違いしているようだけど、私、あいつの事好きでもなんでもないよ。むしろ、ウザいし気持ち悪いし嫌いだよ」
「えっ、ウザっ、気持ち悪い?」
「そうだよ。だって、用もないのに来るし、本読んでいても邪魔するし、意味のわからない事言うし。休日なんて、何の約束もしていないのに寮までやってくるし。ホント気持ち悪い」
「えっ? でも、わたくしにはそんな事……」
「遠回しには言ったはずだよ。確かに、こんな風に直接言ってはないけれど。私が学府に編入した目的はあの化け物だったんだ」
「そう、なのですの?」
「うん。以前にもあの化け物と似たようなものと対峙してね。それで、私たまたま学府祭に来ていたんだけど、そこであの化け物と同じ気配を感じたんだ。実際に襲われたミラ様にはわかると思うけれど、アレは放っておくには危険なものなんだ」
ミラはスピカの言葉に頷く。
あんな恐ろしい存在。
もしも、あの時スピカがいなかったらと思うとぞっとする。
「だから、アレの元、黒い宝玉を探す為に学府に編入したんだよ。まあ、手がかりなんてほとんどないし、たまに気配を感じるだけで何の成果も無かったけどね。ついでに、好きな本を読んでいたりもしたんだけど、そこに現れたのがあいつ」
レオナルドの事である。
「下手に邪険に扱って学府から追い出されたら目も当てられないからね。ウザくて気持ち悪いのにも我慢してずっと耐えていたけど、それも今日で終わり。良かった良かった」
スピカは本当に嬉しそうに頷く。
本当に気持ち悪かったのだ。
早く消えてくれとずっと願っていた。
そして、黒い宝玉の回収には失敗しているが、学府に通う目的はもうなくなった。
二度とあいつにかかわらずに済むのだ。
「そ、そうですの」
対してミラは呆気にとられていた、スピカもレオナルドの事が好きだと思い込んでいたが、その誤解はハッキリと解けた。
だから、自分の大好きな婚約者の事を言っているにもかかわらず、どれだけ嫌いなんだと呆れていた。
スピカが満面の笑みを浮かべているのを見ると、レオナルドに二度とかかわらずに済むのがとても嬉しいのだとよくわかる。
そして、そうなってくると、急にミラが恥ずかしくなってきた。
何故なら、スピカはレオナルドの事が好きでも何でもない、むしろ嫌いなのに、自分はスピカを威嚇していたのだ。
何度も何度も。
的外れだったのだ。
恥ずかしくない訳がない。
そして、同時に申し訳なく、そして悲しく思う。
何度も突っかかってしまい、自分も鬱陶しかったのではないか。
それに申し訳なく、スピカが自分の事をそう思っていると思うと悲しくなった。
「申し訳ございません」
だから、ミラは誤った。
今まで、スピカの邪魔をしていたのだから。
「どうして謝るの?」
「だって、わたくしもスピカさんに何度も突っかかってしまいましたし」
「ああ、別にいいよ。むしろあなたといるとあいつに会わなくて済んだし、面白かったし」
「お、おもしろい?」
「うん。少しズレていて見てて面白かったし」
呼び出しておいて、何もしなかったり、嫌味も言わなかったり、いじめもしなかったりと見ていて面白かったのだ。
「も、もう! からかわないでくださいまし!」
ミラはツンとそっぽを向く。
「あはは、ごめんね」
「……あなた、本来の口調はそちらなのですね」
「うん。そうだよ。変えましょうか?」
スピカの口調はデスマス帳ではなく、こちらが素であった。
もう、学府から追い出されてもいいため、また、一度こちらでミラに話している為、スピカは素の口調でミラに話しかけていた。
貴族の令嬢と話すには軽すぎるが、
「わたくしはそちらの方が好きですわ」
スピカの敬語の時よりも距離を感じないため、こちらの方が好ましいと思ったのだ。
「そう、良かった。そうだ、こうして誤解も解けた訳だし、友達になろうよ」
「と、友達ですか?」
「うん。私、同年代の友達はあんまり居なくてさ、ミラ様が友達になってくれたら嬉しいな」
学府で多少、友人は出来たスピカだが、それでもその数は少ないのだ。一部の人はスピカの儚げな外見を嫌っているし、他の人たちもその人達に目をつけられるのが嫌なので距離を置いている感じだ。
本当に何人かの友人しかいないのだ。
「わ、わたくしとですか?」
「うん。そうだけど、だめ?」
断られるのかと思い、スピカは悲しそうな顔をする。
「だめじゃありませんわ!! わたくしの方こそよろしくお願いいたします」
それを見たミラは慌ててそう言った。
「ふふふ、ありがとう。ねえ、ミラって呼んでもいいかな? 私もスピカでいいから」
「よろしいですわよ。スピカ」
「よろしくねミラ」
こうして、スピカに友達が出来た。




