24 牢獄
現在、学府は封鎖されている。
先日、とある事件があったのだ。
学府内で超巨大な魔力反応があった。
騎士や警備隊は急いで現場に向かった。
しかし、そこには三つのものしか存在していなかった。
一つは、見るからに業物だとわかる立派な剣。
一つは、黒い宝玉。
最後は、貴族の令嬢にして学府の生徒であるエステルの死体だけであった。
それだけであった。
周囲に存在していたはずである、草や木もある一定の範囲まで全て消え去っていた。
そして、その日からスピカとミラの存在も消えていた。
ー▽ー
「んん……。ここは?」
スピカは意識を取り戻した。
確か、自分は自爆に巻き込まれたはずだった。
しかし、その事を考えるよりも先に周囲の状況を確認しようしたところ、
「起きましたのね」
スピカにミラが声をかけた。
「えっと、ミラ……様、ここは?」
「……わたくしも詳細は分かりませんが、ここは盗賊たちのアジトの牢獄だそうですわ」
ミラは悲壮そうな顔をして言った。
箱入り娘であるミラであっても、盗賊達に捕まったが最後、どうなるかしっている。
酷い目にあわされて、飽きたら殺されるか売られる。
故に絶望していたのだ。
「わたくしも先ほど目が覚めまして、あちらの方々に聞きました」
そう言って顔を向けた方にいるのは複数の女子供。
だれも彼もが悲壮な顔をしている。
《ねぇ、メーティス。メーティスはどれくらい把握している?》
自爆に巻き込まれたと思ったら盗賊のアジトの牢獄にいるという訳のわからない状況になっていた為、己の相棒に状況を聞いた。
《だいたいはわかるわ》
メーティスはスピカに宿っている精霊だ。
故に、気配などの感覚的なもの以外の情報。
例えば視覚などはスピカと共有されている。
スピカは意識がなかったため、周囲を見る事は出来なかったが、聞く事はできていた為、ある程度の状況は把握しているのだ。
どうしてスピカ達がここにいるのかもわかる。
《まず、最初にね。あの時、不浄の蛇が自爆するのだと思っていたのだけどそれは違うわ》
《というと?》
《あれは自爆に見せかけて転移魔法を行使しようとしていたのよ》
《つまり、転移魔法でどこかに飛ばされたと》
《そういう事。スピカを転移で飛ばして自分は逃げようと思ったんじゃない? そして、保険として自爆すると見せかけてスピカを遠くに追いやってその隙に逃げるか。そのどちらかをしようと思ったのだと思うわ》
メーティスの推察通りであったが、惜しくもスピカの投擲がトドメとなり不浄の蛇は死んでいた。
もっとも、その事をスピカもメーティスも知らないのだが。
《まあ、仮に生きていたのだとしてもあの状態じゃ出来ることもたかが知れているわ》
《そうだよね》
《それで、続きなんだけど。スピカとミラは転移でどこかに飛ばされたのよ。そこが偶然盗賊のアジトの近くだったらしくて、二人とも気を失っている間にここに運び込まれたっていうわけ》
メーティスは盗賊達の会話を聞いていた為、そこまで把握する事ができている。
《そう。ありがとうメーティス。……ねえ、変な事されていない?》
《大丈夫よ。運び込まれる時にちょっと汚い手で触られたくらいよ》
《……そう》
スピカは嫌な顔をしながら、汚れなどを落とす清浄の効果もある回復魔法を念入りに自分にかけた。
早くお風呂に入りたいものである。
「……ああっ!?」
その時、スピカは大切な事に気がついてしまった。
思わず声を上げるほどである。
「どう、しましたの?」
「剣が……。私の剣がない!!」
当然と言えば当然である。
盗賊たちもわざわざ剣を持たせて牢獄に入れる訳がない。
おそらく回収されたのだとスピカは考える。
そして、もう一振りは不明であった。
スピカにとってデュランから譲り受けたふた振りの剣は非常に大切なものだ。
何としても取り戻さなければならない。
《どどどど、どうしよう。メーティスぅ。私の、師匠の剣が》
《落ち着きなさい。一つはこのアジトの中にあるハズよ》
スピカ達がここに運び込まれてからさほど時は経っていない。
だから、何処かに売られたはずはないのだ。
《そ、そうだよね。はぁ。よかった》
《とりあえず、これからどうする?》
《そんなの、剣を取り戻して脱出するに決まっているじゃないか》
やる事を決めて立ち上がった瞬間、牢獄の外に誰かがやって来た。
「あ、兄貴、大丈夫なんですかい? こんな事をして」
「大丈夫だって、親分達は酒盛り中だ。バレやしないって。それに、あんな美人、俺たちまで回ってこないって。今のうちに手ぇ出しとかなきゃ。……ほら、あれだよあれ」
「うっひょうスッゲー美人!! へ、へへ。確かに兄貴の言う通りだ」
やって来た二人組の男はスピカとミラを下卑た目線で見ながら話す。
スピカもミラもまだ多少幼いものの、盗賊たちにとって見た事もないほどの美少女だ。
手を出さない訳にはいかない。
「ひっ」
そして、今までそんな目で見られた事のないミラは怯える。
不快で気持ち悪くて怖いのだ。
対してスピカは慣れていた。
だが不快なのには変わりはない。
が、今は情報収集だ。
「ねぇ、お兄さんたち」
スピカの鈴を転がすような声が響く。
それは、優しげで聴くものを癒すような美しいまるで女神のような声であった。
「とりあえず片方には死んでもらうね」
そして女神から宣告させる死の宣言。
その瞬間、兄貴と呼ばれた男は糸が切れたかのように地面に突っ伏した。
続いてスピカは、鉄格子に手をかけて、無理やり押し拡げる。
それて、曲げた鉄格子一本をむしり取った。
スピカは闘気は使えないが、素の状態でも常人よりもはるかに強靭な肉体を誇る。
脆い鉄格子をどうこうするなどスピカには容易い事であった。
続けざまに牢獄の外に出たスピカは、生きている方の男を蹴り飛ばし、地面に押し倒してから胸に足をのせて、持っている鉄格子の先を目の上数センチに突きつけた。
「大きな声を上げたらその目を潰す。嘘を言っても同じ。私の質問に答えなくても同じ。わかったら二回瞬きして」
男は何が起きたのかわからなかったが、言う通りにしないとヤバイので二回瞬きをする。
「よし、それじゃあ私の質問に答えてね」
スピカは男に、このアジトの構造、盗賊団の構成人数、そして、宝物庫の在り処を聞く。
男はしっかりと素直に答えてくれた。
途中、滑ったフリをして顔に傷をつけたりしたのでは嘘はついていないであろう。
「そう。ありがとう。じゃあ、お前はもう用済みだね」
そう言って、スピカは男に回復魔法をかけた。
過剰に回復魔法をかけられた男は何をされたのかもわからずに死んだ。
《うーん。聞く限りそんなに人数多くないみたいだし、先に全滅させようか》
《そうだね》
スピカは盗賊たちを全滅させる事に決めてから、牢獄の中にいるミラの元に向かった。
「スピ……カさん」
「ミラ様、今からここの盗賊を倒してくるから待っていてくれる?」
「え? わ、わたくしをここに置いていくのですか!?」
スピカはミラにここに残ってもらうように言うが、ミラはスピカについて行きたそうに言う。
ミラにだって、この場で一番頼りになるのがスピカであると分かっている。
だから、スピカの側を離れたくないのだ。
「連れて行ってもいいんだけど、戦うし怖いよ?」
「だ、大丈夫ですわ」
スピカが戦うと聞いて、ミラは震えるが、スピカと離れる方がもっと怖いのだ。
「そう。それなら一緒に行こうか。それと、あの人たちも一緒に連れて行こう」
と、ミラの他の牢獄に入れられている女子供達を見る。
「私は誰か来ないか見張っているから、ミラ様はあの人たちに説明してきて」
「わかりましたわ」
こうして、スピカ達の脱出、もとい、スピカによる盗賊団壊滅作業の序章がスタートした。
2作品並行で書くのって難しいね




