1 導かれて
「あ、ああああああ!!」
頭がガンガンする。
スピカはあまりの痛みにのたうちまわる。
《ごめんね。スピカを助けるにはこうするしかないから》
「あああああああああ!!」
メーティスの声が心から聞こえるが、スピカに反応する余裕はない。
しかし、その痛みも次第に治まっていく。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
《ごめんねスピカ。あなたには大いなる癒しの力があるの。だから、一番わかりやすい形として使えるように回復魔法の知識を直接植え付けさせてもらったの。さあ、早く自分を癒して!!》
スピカはメーティスに言われた通りに回復魔法を使う。
幼いスピカだか、その適性と植え付けられた十全な知識により、失敗する事なく発現した。
暖かな光がスピカを包み込み、スピカを蝕む不浄の毒を、抉り取られた傷を、その痛みを癒していく。
《成功ね!! よかった》
「はあ、はあ、はあ、た、助かったの?」
《ええ、あなたはもう死なないわ》
「そっかぁ。よかったぁ」
スピカはそう言うと気を失った。
極限状態の中で命を落とさずに済んだ安堵により気が抜けてそのまま眠ってしまったのだ。
そして、数時間後。
「う、うーん」
スピカはゆっくりと目を覚ます。
《おはようスピカ》
「お、おはよう?」
声をかけられたスピカは当たりを見回すが誰もいない。
《私はここよ。スピカの心の中》
「えっと……メーティス?」
《そう。ちゃんと覚えてくれてたのね。嬉しいわ》
メーティスは声を弾ませてそう言った。
「メーティスは、何なの?」
《私は精霊よ》
「せいれい? おとぎ話の?」
スピカの知っている精霊はおとぎ話に出てくる存在だ。
例えば、偉大なる王に。
例えば、平和をもたらした聖女に。
例えば、邪神を封印した英雄に。
それらに宿って導いたと言われる存在だ。
《おとぎ話と同じ精霊じゃないけど、私は確かに精霊よ。スピカの声に導かれて私はあなたに宿ったの。私はあなたを助けたいわ》
「そっかぁ。私ね、あの時もう死んじゃうのかと思ったの。助けてくれてありがとうねメーティス」
《お礼はまだよ。先にここから出ないと》
メーティスの言う通りここはまだ危険地帯なのだ。
早く脱出しなければならない。
「で、でも、この先には怖い魔物がいるよ?」
スピカは思い出す。
あの時スピカを傷つけたアンデットを。
それだけで足が竦んで泣きそうになる。
《私は精霊よ。あなたをここから脱出させるなんてわけないわ。だから、頑張って行こ?》
「うん。メーティスが言うなら私頑張る」
本当は怖い。
でも、先ほど自身を助けたメーティスがいるなら。
メーティスと一緒ならスピカは何とかなる気がした。
スピカは勇気を振り絞って立ち上がり歩き出す。
その一本道を歩き出す。
そして、一本道が故に出会う。
先ほどスピカを傷つけたアンデットに。
「グオォォォォ」
「あっ、あっ……」
スピカはアンデットを見た瞬間挫けそうになる。
しかし今は一人じゃない。
《スピカ。あなたには大いなる癒しの力があるわ。癒しの力は聖なる力。あなたのその魔力をあのアンデットにぶつけるの。さあ、頑張って!!》
「う、うん!!」
やり方はメーティスに教えてもらった。
スピカは己の魔力を感じ取る。
それを操り、アンデットに向かって放出する。
「やぁぁぁぁぁ!!」
アンデットにとって癒しの力は己を浄化する弱点である。
大量のスピカの魔力を浴びたアンデットは、浄化されて断末魔をあげる暇すらなく跡形もなく消え去った。
「や、やった。やったよメーティス!!」
《凄いわスピカ!! この調子でドンドン行きましょう。この辺りにはアンデットしかいないはずよ》
「うん!!」
こうして、先ほどスピカを死の淵に追いやった存在を倒した。
スピカを恐怖を乗り越えたのだ。
そしてスピカは歩き出す。
ー▽ー
その後も度々アンデットに出会うが、スピカは一撃で全て浄化していった。
その異形の姿に怯え、挫けそうになるがメーティスに励まされて一つずつ乗り越えていった。
《ねぇスピカ》
「なぁに?」
《どうしてスピカはこんな所に一人でいるの?》
その言葉を聞いてスピカは突然泣き出した。
《わわわわ、ご、ごめんね》
「ひっく、ううん、大丈夫。あのね、お父様とお母様達がお出かけしたの。お父様もお母様達もいっつも相手してくれなくて寂しかったの。だから、隠れてついて行ったの。だから、バチが当たったのかなぁ。足を滑らせて落っこちちゃったの。それでね、気がついたらここにいたの。お父様とお母様達に遊んで欲しいと思ったのがいけなかったのかなぁ」
スピカはまだ5歳にもなっていない。
親に甘えたい盛りである。
そんな子供が突然訳のわからない場所に落ちて、魔物に襲われて、とてつもない恐怖だっただろうとメーティスは思う。
《大丈夫よ。あなたは何も間違っていないわ。きっとお父さんもお母さんも心配しているから早く帰りましょう》
「うん!!」
スピカは家に帰るために頑張るのだ。
メーティスがいればできる。
スピカは何度も何度も勇気を振り絞って歩き出す。
「あっ」
しかし、直後に立ち止まる。
《これは……どうしましょうか》
目の前には二つの道。
今まで一本道だったがとうとう別れ道に出会ってしまった。
スピカはこのまま真っ直ぐ行けば何処かしらの出口に繋がると思っていた。
何故なら壁に紋様があるから。
明らかに人工の洞窟。
何処かしらに出口はあるはず。
しかし、この別れ道が不安である。
もし、超巨大な迷路のようになっていたら?
脱出するのにかなりの時間がかかってしまうかもしれない。
スピカは年齢の割には気丈でしっかりしている。
それでも子供だ。
早くこんな所から抜け出させたい。
どちらに行くのが正解か。
《ーーーーーす》
「メーティス?」
《えっ、何?》
「あれ? 気のせいかな?」
《ーーーーーす》
「やっぱり聞こえる。メーティスじゃない声だ」
メーティスが考え事をしているとスピカに声が聞こえてきた。
メーティスとは違う者の声が。
《私には聞こえないけど》
《ーーーーーです》
「こっちだって」
スピカは声に導かれて歩き出す。
《スピカ!?》
「大丈夫。メーティスと同じ優しい感じがする」
その後も何度も別れ道に出会うがスピカは迷わずに進む。
声の導く方へと。
小さな足で一歩ずつ進み、何度も魔物に出会い倒した。
どれほどの時が経っただろうか。
《これは……》
目の前にあるとても大きな扉。
洞窟には相応しくない扉。
「この先から聞こえてくるよ」
スピカは迷わず扉を開ける。
中は真っ暗だ。
『人の子よ。何用か?』
響き渡る声。
その声が聞こえてくると同時に辺りがほのかに光だした。
見えてくるのは玉座に座り、立派な杖を持ち王冠を被った骸骨。
これまで出会ったアンデットのような醜くおぞましい物ではなく、不思議と気品さえ感じる存在だった。
《ノーライフキング!? なんでこんな所に!?》
メーティスは驚愕する。
アンデットの中でも最高位に位置するノーライフキングがこのような所にいることに。
そして、出会ってしまった事に。
死霊の王であるノーライフキングはその一個体だけで町をも滅ぼす力を持っている。
そんな存在に出会ってしまったのだ、幼いスピカが。
『まだ幼い人の子よ。どうしてこの場にいるのか分からぬ。だが、我は使命を果たすまで』
ノーライフキングはゆっくりと立ち上がる。
《スピカ、逃げるわよ!!》
メーティスはスピカに逃げるように言う。
当たり前だ。
災害レベルの魔物に幼い少女が敵うはずがない。
しかし、スピカは逃げない。
「だめ、この先に行かないと」
あの声の主がこの先にいるとスピカは確信を持っていた。
どうしても声の主の元へ行かなければならない。
スピカはそう思っていた。
どちらにせよスピカは逃げられないのだが。
バタンと後ろの扉が閉まる音がする。
『我が使命を果たす為、ここ通す訳にもこの場を知られる訳にもいかぬ。幼子よ死んで貰うぞ!!』
FFのアンデットに回復が効くところがとても好きです。エリクサーとかフェニックスの尾とか。