16 不浄の気配
「おねーさん。これください」
「あらやだ。お嬢ちゃん上手いわね。これもサービスしてあげるわ」
「わっ、ありがとうございます」
スピカは、商業区をブラブラしながら買い物をしていた。
お店を覗いて必要な物と気に入った物を買ったりしている。
そして、先ほどのようにお世辞を言ってサービスしてもらってりしているのだ。
《ふふっ。チョロいね》
《スピカ……》
もちろん、本当にお世辞なのでメーティスは呆れている。
《それにしても、観光名所ってあんまりないんだね》
買い物ついでに観光名所を聞いたりしていたのだが、あまりめぼしい場所はないようだ。
《まあ、首都だから行政と経済の中心地な訳だし、観光名所なんて無くても成り立つものね。せいぜい大聖堂とか歴史ある何かくらいね。あとは、昨日から学府祭が開かれているみたいね。まだ、数日間あるみたいだからそれまでに行ってみましょう》
《だね。ところで、さっきその学府の隣に大きな図書館があるって聞いたじゃない? 行ってみてもいい?》
スピカは数日間、適当に過ごそうと思っていたのだが、先ほど図書館の話を聞いてしまったのだ。
スピカの趣味の一つは読書である。
本が好きなのである。
物語を中心に、専門書や魔法書など様々な本を読むのが好きなのである。
大きな図書館があると聞いてしまったからには行かずにはいられない。
《スピカは本が好きだもんね。必要な物は買い終わったし、行くなら早く行きましょう》
《うん!!》
ー▽ー
そして、図書館の前に到着したスピカ。
「おぉ〜」
その図書館の大きさにスピカは思わず感嘆の声をあげる。
これだけ大きいのであれば、その分たくさんの図書がある訳だ。
そう思うと心がウキウキする。
早速図書館に入るが、そこには思わぬ罠があった。
《高い!! メーティス高いよ!!》
内部の案内に書かれていたのは、かなりの金額の閲覧料であった。
スピカは盗賊を退治した際に多額のお金を貰っている。
もちろん、この閲覧料を支払う事はできる。
しかし、宿代や先ほどの買い物である程度消費している上に、何度も通うには高すぎる金額であった。
図書館という存在は知っていたが、ここまで閲覧料が高いとは思わなかったのだ。
《まあ、仕方ないわね。これだけ大きいと希少な本もたくさんあるのでしょう。その分値段が高くなっても仕方がないわ》
《だねぇ。はぁ、もういいや》
本を読む気をなくしたスピカはふらふらと建物から出て行く。
《そんなに落ち込まないの。冒険者活動をすればスピカならすぐにお金を稼ぐ事が出来るわ》
世の中をなめたようなメーティスの発言だが、実際にスピカは強く、以前から修行の一環として冒険者活動をしており、かなりの金額を稼いでいるのだ。
もっとも、そのお金の大半は屋敷に置いてきてしまったのだが。
《ほら、せっかくここまで来たんだし、学府祭によって行きましょう》
《うん、そうだね》
スピカは気持ちを切り替えて、学府祭を楽しむ為に学府へと向う。
と言っても図書館の隣なのだが。
「おー、人がいっぱいいるね」
学府内には、生徒だったり、その親兄弟だったり、スピカのように単純に祭を楽しみに来た者だったりと大勢の人がいた。
《屋台もあるし、イベントもあるし。規模が大きいからどこに行こうか悩むわね》
「そうだね。メーティスはどこか行きたいところはある?」
《そうね。一時間後に劇があるみたいだし。見てみたいわ》
「わかった。それまでいろいろ見て回ろうか」
ひとまず、劇を見る事だけは決めてスピカは適当に歩き出す。
昼食を済ましてまだそれほど経っていないにもかかわらず、屋台で食べ物を買って食べてを繰り返す。
幸い、スピカはいくら食べても太らない体質なので体重を気にする事はない。
「学生達も楽しそうだね」
《こういう、自分達で何かをするっていうのは達成感もあって楽しいものよ》
「へぇ、そうなんだ」
ちなみに、先ほどから声に出してメーティスと話しているが、普段スピカは一人の時には声に出して、誰かいる時は心の中でメーティスと話している。
今は人ごみの中にいるので独り言をしてもさほど気にされないので声に出してメーティスと話している。
「そろそろ、時間だね。劇を見に行こうか。確かあっちだったよね」
《ええ》
時間になった為、スピカは劇の会場に向う。
少し距離はあるが、歩いても十分に間にある。
そのようにして、スピカは学府祭を楽しんでいたが、
「ッッ!?」
《スピカッ!!》
スピカは立ち止まり探るように辺りを見回す。
「メーティスも感じたよね」
《ええ。今の気配は……》
平和な学府の中でスピカは感じ取ってしまったのだ。
黒い宝玉と同様の不浄の気配を。
一瞬で、ほんの少ししか感じ取れなかったが、確かにあの気配であった。
「あの黒い宝玉が他にもあるってこと?」
《同様の物かはわからないけれど、多分近い物ね。》
スピカとメーティスは不浄の気配を放つ物を黒い宝玉と仮定する。
「これだけ人が多いと誰が黒い宝玉を持っているのかわからないよ」
《とにかく探しましょう。近くに行けば分かるかもしれないわ》
スピカは勘を頼りに走り回る。
アレはとても危険なモノなのだ。
もし、あの不浄の化け物がこの場に現れたら大惨事である。
多数の人を学府内に招き入れるだけあって、警備は厳重だが、不浄の化け物には警備ごと吹き飛ばしてしまう。
相性がいいスピカだから勝てたのだ。
例え、スピカよりも強い者がいても、不浄の化け物の相手は厳しいとメーティスは考える。
「ダメ、見つからない!!」
《仕方ないわ。もしもの時の為に備えましょう》
スピカは黒い宝玉の持ち主を探す事を諦めて、もしも、不浄の化け物が出現した時にすぐに駆けつけられるように学府内を俯瞰できるであろう場所移動する。
「わっ」
「うわっ」
その途中、角を曲がる際に人とぶつかってしまう。
その衝撃で倒れたのはスピカではなく、ぶつかってしまった男であった。
この程度で倒れるような柔な鍛え方をデュランはスピカに施していない。
しかし、ぶつかった時の衝撃でスピカのフードが外れてしまう。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
スピカは倒れた男に手を差し伸べて起こす。
「それでは、私は急いでいるので」
「あ、まっ、待って!!」
フードを被り直し、駆けていくスピカを男は止めようとするが、スピカは無視して走り去る。
緊急事態だった為、ぶつかって倒れたくらいの男に構っている余裕はないのだ。
引き起こしたのはスピカの礼儀の良さからくるものであった。




