2-①
ヨットは海の彼方へと消え去った。俺と直太郎の希望と同時に。
「終わった。すべてが、終わった」
俺は理解した。二度と、笑いの舞台へは戻れない。それどころか、日本へ帰れる見込みが全然ない。
「泰三君。これは、きっとドッキリだよ。やはり、ドッキリだったんだ」
直太郎が、力なく呟いた。再び意識を宇宙へと飛ばしている。口を開けて、涎を垂らしていた。
「君たち! 良かったね。今日から、お社の相談役だよ。うちで暮らすんだよ。美味しい料理を作ってあげる」
花撫が肩を叩いてきた。やけに嬉しそうだ。狼の餌を手に入れたからだろうか。この島では、ライフルやマシンガンでフル装備をしても、簡単に死ねそうだった。
「花撫。ちょうどいい。島を案内してあげなさい。なんだか、やたらと臭いから、温泉に案内してあげるといい」
爺が鼻を抓む。確かに自分でも臭うが、無性に腹が立った。
「綺麗に洗わないとね! 背中を流してあげるよ」
花撫が俺の背中を擦る。
「待て。背中を流すって、まさか混浴なのか!?」
俺は、この島で生きる希望を見出した。
「こんよく? なんだ、それ。よく分からないけど、一緒に入ろうね」
首を傾げて軽く微笑む。改めて顔を眺めると、やはり可愛い。島の食べ物がいいのだろうか。肌が赤ちゃんよりも瑞々しい。
直太郎が、咳払いをした。意識が戻ったらしい。
「花撫ちゃん。早くお風呂に案内してほしい。ゆっくりと浸かりたいよ。きっと、いい眺めなんだろうな」
直太郎は凛々しい表情で、花撫に語り掛ける。日本に戻れない悲しみよりも、混浴をする楽しみが勝ったらしい。
「よし! 私に従いてきてね。可愛い女の子を紹介してあげる」
花撫が駆け出す。
「泰三君も行くよ! この島は最高だ! 僕は永住するよ!」
直太郎が、尻を振って追いかける。真面目な奴なのだが、助平には目がない。
「まったく、恥ずかしい奴め。俺は混浴なんて、興味はねえよ」
クールを気取って俺も続いた。自然と、スキップを踏んでいた。