④
俺は、お社の外へ飛び出した。直太郎も続いてくる。人気がない。来た道を引き返すが、誰にも出くわさない。
石垣の並ぶ道を抜けて、森へと潜り込む。ここにも人の気配がない。嫌な予感がした。砂浜へ近づくに連れて、その予感は膨らんでゆく。
「もう、これ以上は乗れねえ! 出発しろー!」
「俺も乗せてくれー!」
声が響いてきた。
「直太郎。もっと急げ! 日本へ帰れなくなる!」
木々の枝葉が、邪魔をする。手で顔をガードしながら、必死に潜る。砂浜に辿り着いた。
「爆発神だー! 爆発神が来たぞー!」
島の人々が俺に気づいて、海へ逃げてゆく。ヨットは、すでに海を渡っていた。
「神様が怒ってる! 世界が滅びるよ!」
花撫は、駄駄を捏ねる子供以上に。泣き叫んでいる。ふらふらした足取りで、海に入ろうとしていた。着物の襟元を掴んで、引き留める。
「大丈夫だ! 神の怒りは鎮まった! だから、ヨットを取り戻してくれ! 乗って行った奴らを、呼び戻してくれ!」
「え? 神様は、もう怒ってないの?」
花撫が、表情をころっと変えた。ぴょんぴょん跳ねて、喜んでいる。
「皆! 神様はもう怒ってないよ! 爆発しないよー!」
泳いでいる者たちに、大声で伝えてくれた。
「神の怒りが鎮まったか! やったぞ! 世界は救われた!」
島の者たちが、陸へ上がってくる。盆踊りを思わせる動きで踊り出した。
「皆の者! 静まれ! 儂に注目しろ!」
爺が腕組みをして、偉そうに叫んだ。
「神様に乗って呆本にやって来たこの二人。どうやら、神の力を操る能力があるらしい。お社で相談役をやって貰おう!」
爺の言葉を受けて、島の者たちが拍手する。俺たちの運命が、勝手に決められていた。
「えー! 打ち首じゃないの?」
花撫が残念そうに嘆いた。打ち首、大好きっ子だ。日本にいたら、シリアル・キラーになっていたに違いない。
「花撫。打ち首なら、いつもしてるだろう。たまには我慢しなさい」
爺が物騒な宥め方をした。島の者たちが、和気藹藹と笑い声を上げる。和やかなサイコ野郎たちだった。
俺と直太郎は、唖然と海を眺めた。
ヨットが水平線の彼方へと、小さく小さく、消えていった。