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糖度100パーセント  作者: リクルート
9/70

歌(うた)と詩(うた)

星流とご対面!

 やがて来る放課後。憂鬱ではなくなったものの手紙で呼ばれたことなどないからか、かなり緊張していた。とりあえず、指定された場所、屋上に向かおう。


 放課後には屋上を使う人はいない。部活でもほとんど使わない場所だ。だから、屋上へ続く階段ですれ違う人はいない。しかし、その屋上への扉が、俺の侵入を拒んでいるようにも見えてしまう。俺の心理がそう考えさせているのには違いないが。


 屋上の扉のノブに手をかける。ノブを回して、扉を開けると、綺麗な音が入ってきた。それは詩であり、歌だ。

 あなたの心が わたしに向かないのなら

 わたしは あなたの幸せを願おう

 あなたの心が わたしに向いたのならば

 わたしは あなたを愛そう


 その歌を聞き入っていたのだが、その声の主は俺に気づいてしまったので、歌をやめてしまった。なんとももったいない気がしてくる。

「あなたは、辺煮(にべ)在来(あきた)。私の好きな人」

 空を見ていたその顔を俺に向けた。その歌声よりも綺麗な顔立ちだ。

「あなたが星流(ほしながれ)灯勇(ともよ)さん?」

 彼女はこくりと頷いた。短い髪がさらりと揺れる。

「そっか。まず最初に言っておかなきゃならないことがあるんだ」

 首を傾げている。なんのことかわかるはずもない。

「俺には付き合っている人がいる」

 少し悲しそうな顔をする。

「だけど、その人は君を――――」


 なんといえばいいのだろう。仲間にする。それは何か違う。それは来織(こおり)が望んでいることではない。友達なんだろうか。確か織姫(おりひめ)の時はそう言っていた気がする。でも、友達よりももっと上の関係な気もする。何なのだろうか。ええい、もうどうにでもなれ!


「だけど、その人は君を友達にしたいって言ってる。どうかな、友達」

「ん」彼女は頷くだけ。

 それは肯定なのか、何なのか、付き合いのない俺にはわからない。しかし、いやな顔していないのなら、来織と織姫に会ってもらえそうだ。とりあえず、今日のうちに会ってもらおう。


 彼女の腕を取り、俺の教室まで来た。そこには来織と織姫が待っていた。付き合ってからは来織と一緒に帰っているから、織姫の一緒に待っていたのだろう。その二人に手を引いてきた彼女を紹介した。


「この人が星流灯勇さん」

 二人はしげしげと彼女を見ている。

「へぇ、この人が」

「灯勇さん」

 今度は、星流に二人を紹介した。彼女は特に反応はしなかった。

「灯勇、私と勝負しよ! なんでもいいから!」

 彼女の考えていることはよくわかった。多分、喧嘩の後は仲直りということなんだろう。織姫の時もそうだったし。


 そんなこんなで俺たちが今いるところはカラオケ店。来織は相手の特技で勝負したかったらしい。星流の特技は歌うこと。それなら、ということでここにきている。勝負方法は簡単で、俺基準で上手な方を選ぶという方式だ。

「彼女だからって私を贔屓しないでね! ちゃんと公平にするんだよ!」とは来織の言葉である。

 ということなので俺は贔屓しないことにした。あの屋上での彼女の歌声は忘れられない。かなり上手で、プロといっても過言ではないだろう。そんな彼女相手にさすがの来織も勝てるはずはない。


 そうして歌うま選手権(二人)は開催された。ちなみに織姫は待機するとのことである。理由は三人だと二対一の構図になってしまうからである。そう言いつつもちゃっかり俺の隣でべたべたしてくるところは抜け目ない。

 先攻は来織。私の歌の上手さを見せつけて、相手を降参させてると言っていた。付き合いだしてから、幼馴染なのに、幼馴染だから気づかなかったことがある。その一つが漫画を基準にしているというところだ。なんというか、そんな基準だから、たまにアホみたいな行動をすることはあるがそれも可愛さなんだろう。

 後攻は星流。特に何も言わずに、曲を入れて歌い始めた。やはり、綺麗な歌声だ。それを聞いて隣にいた来織が項垂れて、負けたぁと言っていた。


 勝負は一曲目で付いた。勝者は星流。彼女は勝手もたいして誇ることもなく、水を飲んでいた。

「あの、わたくしも歌っていいですか」二人の歌を聞いて歌いたくなったのか、織姫は俺に問うた。

 勝負は終わっているし、構わないだろうと思い、良いと言った。

「これにしましょうか。それともこっち」ぶつぶつ言いながら彼女は曲を選んでいた。

「うう~。うますぎるよぉ。初めから勝ち目はなかったんだ」来織はまだ項垂れていた。

 しかし、立ち直るのが早いのが彼女。

「これから友達。あっきー、ちゃんと名前で呼ぶんだよ」

 俺はハーレムみたいなこの状況に納得はしていないが頷くほかない。

「いいの?」灯勇は困惑気味にそう言った。

「いいんだよ。あなたにも私の幸せを分けるよ」

「そう。私も、友達」

 彼女は何かを確かめるように胸を押さえている。


 それから織姫の下手ともうまいとも言えない歌を聴きながら、四人で遊んでいた。

 久しぶりに糖度100%な放課後だったと思う。

これからどうなるのか

こうご期待!

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