話し合い
どこか不安そうな皆を連れて、自分の家に来た。いつも見るドアのはずだが、それが今は重くて開かないんじゃないかとさえ思えてしまう。しかし、実際にそんなことはない。少しの力で引けば開く。俺が先に入って、後ろに彼女たちが続いてくる。それぞれ挨拶をして、靴を脱ぐ。それから来織がリビングに入っていくのを見て、それにみんながついていく。俺はトイレに行くと言ってから、その場所に入った。
正直、何を話せばいいのかわからないのに、緊張して腹が痛いのだ。
あれだけ心の中で格好つけていたが、いざやろうとすると怖気づいてしまった。きっと就職活動の時の腹痛もこんな感じなのかもしれない。しかし、いつまでもトイレに引きこもっているわけにはいかない。彼女たちと話があると言ったのは俺なのだ。覚悟を改めて決めて、その場所から出た。そして、リビングのドアを開いた。
「あっきー、大丈夫? 顔色少しだけ悪くない?」
リビングに入って、テーブルの前に座ったとき、正面に座っていた来織が心配してくれた。なんて格好悪い。いや、しかし、これでめげてはいけない。
「ああ、だいじょじょぶだ」変なところで噛んでしまった。緊張しすぎだろう。
俺は喉を鳴らして、本題に入る。
「今日はその、俺と皆の関係というかどうなっていくかというか。そんなところを話したかったんだ」
議題がふわふわしていた。話そうとする前はまとまっていたはずなのに、肝心なところでそれを言えなかった。これではだめだ。俺が頭を抱えようとしたところ、来織が声を上げた。
「あっきー。私はこれが、今のままがいいな。楽しいし。私ね、実はって言っても知ってるだろうけど、最初はあっきーとだけ一緒に居れればいいなって思ってた。皆があっきーに告白して、皆に取られるような気がして、いやだった。でもね、今はみんなと居れて最高だと思ってるよ」
「わたくしも、今のままでいいと思います。あきくんには大変な思いをさせているかもしれませんけど、それでも今のこの状態が楽しいし、幸せです。それにわたくしは突き放していたのに、それでも助けてくれた、この人たちとはずっと一緒がいいです」
「あき、私は友達ができてもすぐ離れることが多かったし、それが寂しくもあった。友達という関係しかなくて、思い返してみれば、思い出はなかったことだってある。でも、今はそうじゃない。きっと離れるとしても思い出はたくさんある。それに離れることなんてないと思う。きっと私が離れたくても、皆が引き留めてくれるし、救ってくれる。だから、いつまでも私はこのメンバーで一緒に居れたらって思うよ」
「私も皆と同じだよ。私は中学までは友達がいたけれど、それでも高校に入ってから、私はダメになってた。それを救ってくれたし、それを除いても、私はこの人たちと一緒に居たい。結構、大変なことになってるとは思うけど、私は将来もずっとこのメンバーでいられたらって考えてる」
「この流れだと私も何か言わなくてはいけないな。まぁ、こういうことを言うのは初めてで、恥ずかしいものだが、素直に率直に言うと私はこのメンバーでいることがとても楽しい。私がここにきて、そんなに日は経っていないとは思うが、それでも私はこの場所が楽しい。それから、私は先に卒業してしまうが、それでも研究の合間にでも、皆と何か話していたいと思っている」
五人が五人とも一緒に居たいと言ってくれた。俺もこのメンバーで一緒に居たいと思っている。気持ちは同じだったということだ。
「あっきーは? あっきーは一緒に居たくない?」
来織が、いや、来織以外の皆も俺の顔を見つめていた。いつの間にか緊張はどこかに行った。震えないまっすぐな声で俺は宣言した。
「俺はもちろん、皆と一緒に居たいさ。どこまで行っても、どれだけ経っても笑いながら幸せって言えるようにしたい。俺がそうしたい」
「あっきー。あっきーだけの問題じゃなくて、それは皆でやっていこうよ。きっとその方が楽しいし」
「そうです」「うんうん」「そうそう」「そうだ」
みんながバラバラに返事していた。
俺はその光景を見て、確信した。俺が今、幸せであることと、皆を大好きであることを。
「そうだ。皆に言い忘れていたことがあった。多分、来織にはいったかもしれないけど、全員に言ってなかったことがあるんだ。今言おうと思う。けど、少しだけ準備させてほしい」
そう言って俺は彼女たちに背を向けた。深呼吸を三回する。しても動悸は収まらなかった。しかし、言うと決めたのだから言う。
「言いたいことはひとつだ」
みんなの視線は前置きはいいから、そう言っている。
「俺は、皆のこと、大好きだ」
全員に視線を合わせていく。
「来織の元気なところが好きだ。大胆に行動するところが好きだ。あなたのその全てが好きだ」
「織姫の努力するところが好きだ。強くあろうとする姿が好きだ。あなたのその全てが好きだ」
「灯勇の表情豊かなところが好きだ。その綺麗で素敵な歌声が好きだ。あなたのその全てが好きだ」
「姫灯の大きな優しさが好きだ。時に厳しく諭すところが好きだ。あなたのその全てが好きだ」
「勇在の知的なところが好きだ。知識を語るその笑顔が好きだ。あなたのその全てが好きだ」
「俺は、皆の事が大好きです」
そう言い終わると、自分の頬が熱いことに気が付く。それにみんなの顔も赤くなっている。しかし、誰一人として、俺から視線を逸らすことはなかった。皆が嬉しそうに、幸せそうに微笑んでいるのを見て、俺のしたことは間違ってはいなかったのだろう。
俺はこれからも、彼女たちと過ごしていく。きっと困難なことの方が多いと思う。それは五人の大好きな人との幸せを守ろうというのだから仕方ない。でも、それでも、俺はそれに勝手生きていきたい。
本編はこれで終わりです。
実は、このあとAfterを投稿します。書き終わってます。
この話と一緒に投稿しますので、併せて読んでみてください。




