これからの俺
「よ、あっくん」
教室に入ると、富勇が声をかけてきた。こいつとは久しぶりだ。
「どうした。というか、学校、なんで来なかった。なんかあったのか」
彼は俺の質問に対して、話しにくそうにしていた。俺は無理に聞こうとしているわけではない。
「話したくないなら、話さなくてもいいぞ」
「いや、話しても信用しないと思う。俺自身、未だに夢だったんじゃないかって思ってるぐらだし」
何があったんだよ。
「不思議体験でもしてたのか?」
彼は俺の質問に今度は一つ頷いた。
「この街を支配しようとしてた悪魔と戦ってた」
何? こいつの言っている意味が分からない。
「ほら、そう言う顔する。信じるなんてできないだろ」
「もしそうだとして、この街は今、危ないのか」
「いや、もう終わったことだ。なんとか悪魔は倒した」
彼の訳はよくわからないが、たとえ作り話だったとしても、話は面白かったので、それに耳を傾けていた。
富勇がこれからは授業にしっかりと出ることができるというので、それは安心できることだ。しかし、今、俺は悩んでいた。昨日考えたことを再び考え、皆と結局のところどうすればいいのか。ハーレムじみたものなんて作れはしないのだろう。それは、誰か一人を選ぶことと同じことではない、と思う。
「何、難しい顔してんだよ」
俺の肩を叩いてきたのは、富勇だった。
「そんな顔してたか。ただ考え事をしてただけだ」
「考え事?」
誰かに聞かせるようなことではない。これは俺だけで解決するべきだ。
「大したことじゃない」俳優のように大げさに首を振って、ふざけて返す。
「大したことじゃない、ね。どうせ、来織たちの事考えてたんだろ。何かあったのか。喧嘩とか?」
全くお節介なヤツだ。久しぶりに登校しているというのに、俺の相談に乗って時間を過ごすというのか。俺以外にも友人はいるだろうに。
「話せよ。力になれるかどうかは別だけどな」
全く、良い奴だよ、お前は。
さすがにこれまであったこと、全てを話すのは無理なので、俺の悩みに関連する部分だけを話した。彼は無言でうなずきながら、聞いていた。
「今すぐに解決方法を考えて、教えるってことはできない。なんせお前の中だけの問題だしな。きっとお前を慕ってる女子たちは気にしてないと思うぞ。それでもなお、考えるというのならそれはそれでいいと思う。何か困ったら俺に話してくれ。力になれるとは限らないが」
彼のその言葉に俺は驚かされた。俺はどこかで彼女たちのためと思っていたようだ。彼の言葉を聞いて、それに気づかされた。全く守るとか何様だよ。俺が上とか下とかではなく、彼女たちと一緒に同じものを見て、一緒に進みたいのだ。
「ああ、なんか俺は勘違いしてた。富勇、ありがとな」
「いや、まだ何も言ってないと思うんだが。まぁ、何か俺の言葉で救えたなら良かったよ」
そう言うと彼は教室を出ていった。もうすぐ授業が始まるのに、どうしたというのか。
「トイレだよ、トイレ」
俺の視線に気づいた彼はそう言った。
俺はどうすればいいのか。それは結局のところ、一人で考えるべきではなかったし、彼女たちの考えも聞かなくてはいけない。彼女たちと向き合っていかなければ。
放課後、来織たちが俺の教室に迎えに来てくれていた。俺はそれを見つけて、鞄を持って席を立った。それから、玄関で靴を履き替えて、校舎を出た。
「外はまだまだ明るいね! どっかで遊ばない?」
来織がいつもの元気なテンションでそう言った。しかし、俺としては一人一人話を聞きたいというのがある。いや、焦りは禁物だろうか。
「お金、ない」
灯勇が小さな声で、しかし、はっきりと聞き取れる音で、そう言う。
「では、わたくしの家でお喋りしましょう」
織姫が上品な態度でみんなを誘った。
「それが一番いかもね。まぁ、外が明るいのは関係ないかもしれないけど」
冗談のように優しい声でそう言ったのは姫灯。
「織姫の家はどういうところなんだ? なかなか興味が出る」
一学年上とは思えないほど、このメンバーに早くも馴染んでいる勇在先輩。
みんなが楽しく話しているのを見ると、俺はそれだけでどこか幸せになれる。まぁ、幸せがどんなものなのかわかりもしない、男子高校生がこんなこと言ったって説得力はなさそうだが。それでもこの気持ちが幸せだと思うのだ。この気持ちを守っていきたい。そのためにはやはり、話し合いが必要だ。
「皆、今日は俺の家に来てくれ。皆と話したいことがある」
この言葉は俺の決意の表れなのかもしれない。この言葉を言ったあと、俺はそう思った。
あと一話です。構成的には。予定通り終わるかどうか。




