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糖度100パーセント  作者: リクルート
67/70

対決

 俺の空腹とは関係なく、彼女たちの戦いは始まっていた。放課後、教室に人は俺たちのいつものメンバーを除くと三人ほどしか残っていなかった。このクラスは放課後にバイトをしていたり、部活に所属している奴が多いのだ。それに、残っている三人にしたって、わざわざこのうるさくなるであろう教室で読書している男子、パソコンを開いてカタカタと何か作業をしている女子、あとはぼうっと空を見ている女子がいる。ここはうるさくなるから、帰った方がいいと思う。


 まぁ、周りの状況なんて関係なく彼女たちは戦いを始めるのだ。それは彼女たちを会った時からわかっていることだ。

「やぁ。ちゃんと来たよ」

「ふふふふ、それじゃあ、いざ尋常に勝負、だよ!」

 対決方法は神経衰弱。勇在先輩は文字で表したもの限定ではあるが、記憶したものは忘れないという能力を持っている。つまり、数字は文字で、この神経衰弱は彼女が勝つと思う。来織が勝つとしたら、運に頼るしかない。

 机を四つ繋げて、その上にトランプを裏にして不規則に並べる。その机を挟むようにして彼女たちは対峙した。

「あっきー、初めの合図して」

 いるか、それ。そうは思いつつも、合図を出す。

「よし、それでは神経衰弱、始め!」

 

 順番決めのじゃんけんから始まって、先攻は先輩。後攻は来織となった。先行の先輩はペアを作れず。後攻の来織は二枚同時に開くが、ペアにはならない。それからある程度捲られるまでその様子が続いた。しかし、ある時から、彼女が動き出した。そう、来織である。捲っていない札をあけると、それまでに捲られていた数字と一致して、ペアとなる。それからも彼女は一回の順番で次々とペアを作っていった。しかし、十組ほど取ったところで、来織はペアを発見できなくなってしまっていた。

「勝ったな」

 そう呟いたのは、勇在先輩。捲られていない札とこれまでに捲られたことのある札を推理しているのだろう。次々とペアを当てていく。その手には淀みがなかった。


 そして、決着。勝者は勇在先輩だった。

「あー、負けたぁ。また負けたー」

 来織は札の載っていない机に項垂れていた。まぁ、先輩の能力的に勝てるはずないだろう。仕方ない。それでも彼女は結局、十三組のペアを得ているのだから善戦した方だと思う。俺は一組も取れない気がする。

「というわけで、えっと」

「これで仲良くなるというわけか。よし、改めて自己紹介しよう。本名勇在。三年だ。これからよろしく」

 彼女は来織に握手を求めていた。それを彼女はしっかりと握り返していた。

 一件落着というところだろうか。いつもよりもあっさりと解決したような気がする。勝負したのが神経衰弱だったからだろうか。準備も特にいらなかったし、騒いでいたのは来織のみ。今までの卓球やらカラオケやらビリヤードやらは準備が大変だったり、場所を借りたりしなくてはいけなかったのだ。それが今回は教室で机を四つ並べてトランプをばらまいただけ。随分と大人しい競技だ。

 少し物足りない自分に気づいて、俺も毒されているなぁ、と感じる今日この頃だった。


 勝負が終わって、教室でトランプで遊ぶことになった。時間はまだあるし、外もまだ明るい。俺たち四人で大富豪やら、ババ抜きやらと色々やった。

 気づけばすでに時間は六時を過ぎようとしていた。学校に残るのはそろそろ限界だ。

「皆、帰ろう」

 俺がそう声をかけると皆が返る支度をし始めた。俺も鞄を持って、帰る支度を完了した。皆の準備が完了して、学校を出る。そして、それぞれを家に送り届ける。勇在先輩の家は案外、すぐ近くだったので、そんなに遠回りすることなく、皆を送り届けることができた。


 俺は家の鍵を開けて、自分の家に入った。きっと今日も両親は仕事で遅くなることだろう。この家には一人きりだ。寂しいと思わなくもないが、すでに慣れていた。

 冷蔵庫の中身を見て、簡単に食べられるものがなさそうだと判断した俺は夕食を買いに出ることにした。制服も着替えず、ポケットに財布だけを入れて、スーパーへと向かった。コンビニよりも安いはずだ。


 一人、道を歩きながら今日までもことを考えていた。振り返っていた、という表現を使わなかったのはそう言うにはあまりに今の俺の考えが混じっていたからだ。

 来織とずっと過ごしてきて、告白された。それから彼女と付き合い始めた。そこまではよかったのだ。それから、織姫と廊下でぶつかった。最初に会ったときは、随分を失礼な態度の奴だと思ったものだが、今はそうでもない。というか、来織と仲直りした後は、随分と面倒見のいいやつだとも思った。まぁ、少し度が過ぎた妄想をするときがあるみたいで、少し残念な奴ではあるかもしれないが。そして、灯勇が手紙をくれた。今もだが、最初は表情も読めなくて、無口な奴だと思っていた。しかし、慣れると顔で感情表現しているのが分かった。無口で少し幼い感じがして、どこか守ってやりたくなるような人柄だ。次は姫灯だったな。今思えば、彼女は中二病だったのか。それのことを懐かしいと思った。今の彼女はそんな演技をしなくても十分に人と接することができる。何より、今の彼女は強さを持っている。あくまで俺の考えでしかないが、彼女を手助けしてから、彼女は自身がかなり変わっていた。俺自身、最近は彼女に助けられてばかりだった。これはいつかお返しをしなくてはいけない。そして、最後に出会ったのは、勇在先輩だ。図書館で出会ったのだ。俺がお節介のように彼女の話を聞きたいと想ったのが始まりだったか。天才の彼女は寂しそうで、どうしても声をかけたくなってしまったのだ。それから図書館で待ち合わせして、喫茶店で話をして。彼女が楽しそうにしている姿を見たくなった。それはみんなと居れば、そうなる気がした。しかし、そう上手くはいかなかった。

 

 俺がこうやって一人で行動している間に、皆はそれぞれ行動していた。それを知らず、俺は勇在先輩と仲良くなって、彼女たちを不安にして、別れまで告げさせてしまった。そんなつもりはなくても、そう取られた時点で俺のお節介はもっと気を付けて行うべきだったのだ。しかし、それでも姫灯は俺を助けてくれた。それから、他の人も許してくれた。そんな矢先、俺は拉致されたんだった。今思うと、あそこまでパニックにならなくてもよかったんじゃないかと思うが、きっとあの時はすでに冷静ではなかったから、あんなことになったんだろうな。それに来織があそこまで溜め込んでいる事に気付けなかったのは悪かった。幼なじみという近さで、気づいてやれなかった。言い訳すれば、近すぎて気が付かなったのかもしれない。しかし、そんな事情は関係なく、俺は気づいてやれなかった。それは思い出すと悔しいと思う。しかし、今は皆仲良くしているし、勇在先輩も一緒に居ても良いということになった。

 ふと日が沈んで暗くなっていく空を見上げた。そして、今まで考えていたことを振り返る。それから立ち止まった。ここまで大変な毎日を過ごしてきて、最初は付き合い始めてからモテなくてもいいだろ、とか思っていたのに、今は心の底から彼女たちの笑顔を見たいと思っている。きっとそれは、恋なのかもしれないし、ただの友情かもしれない。それでも、俺は彼女たちとありたいと願う。流れ星はなかったけれど、俺は少しだけ見える星に願いをかけた。

――――彼女たちの笑顔が、これからも見られますように


続く。

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