遠慮はいらない
ゲームコーナーを歩いていると、織姫を見つけた。どうやら、ギャンブル系のゲームをいくつかできるゲームのようだ。後ろから近づいて、画面を覗く。彼女は花札をしていた。それも結構勝っているようだ。彼女の視界に入ったのか、少し視線をずらした。
「あ、あきくん」
俺はよぉ、とだけ返した。
「見てるだけではなくて、声をかけてくれともいいですのに」
彼女は少しむくれていた。まぁ、先に声をかけてもよかったかもしれないな。
それはそうと、彼女がゲームをしているというのがなんとも珍しい気がした。お嬢様である彼女はそういうのには疎いイメージだったし、さらにギャンブル系のゲームと言うのも俺のイメージから離れていた。
「悪かったよ。それよりも、お嬢様でもゲームするんだな。なんとなく、あまりやってるイメージはなかったんだが」
「その通りですよ。私はあまりゲームはやりません。でも、折角ですし、やってみようと思いまして」
なるほど。確かに、あまりやらないとはいえ、ここまできてやらないと言うのは勿体無いかもしれない。どんなゲームがあるのかわからなかったから、適当に台を選んでやっていたのだろう。
「あきくんも一緒にやりましょうよ。私、今勝ってますから、調子いいんです。あきくんにも勝ってみせますよ!」
彼女のテンションは上がっているらしい。ハイテンションでそう言っていた。俺は彼女の隣に台に座って、ゲームを始めた。勝負は先に一定数の点数を取った方が勝ちというシステムらしい。トランプゲームをはじめとした、賭けをするようなゲームが並んでいる。最初は彼女がゲームを選ぶ。選ばれたのは花札だった。
「花札だけは好きなんです」彼女は俺の方を向いて笑った。
ゲームが始まったが、実は俺は花札のルールはよくわかっていない。猪鹿蝶、五光、花見で一杯ぐらいしか知らない。さらに、役は知っていても、その点数の中でどれが高いのかというのはさっぱりだ。五光が一番高いというのしかわからない。それでもゲームは始まっているので、やめるわけにもいかない。とりあえずやるしかない。
「あきくん、ここまで弱かったなんて」
ルールを知らないということもあったが、単純に彼女が上級者だったというだけな気がする。このゲームは彼女に点数が入った。次は俺が選ぶ番だ。ここで引き分けに持っていきたい。しかし、このゲームの一覧は基本的に運要素が大きいゲームばかりだ。コツを知らない俺は運に頼るしかない。というわけで、中でも比較的知っている、ポーカーを選ぶことにした。
カードが五枚配られる。ワンペアだ。まずはツーペアを狙ってみよう。カードを交換して、織姫を待つ。彼女もすぐに決めて、交換した。いざ勝負。結果は俺はツーペア、彼女はフルハウスだった。一回戦目、俺の負け。次で取り返さなくては。
その後、二回戦、三回戦とやったが、勝てる札は来なかった。このゲームのポイントも彼女のもの。次負けたら、俺の負けである。三回戦目は勝った方がゲームを選ぶ。彼女が選んだのは、ルーレットだ。
どこにかけるか、迷う。番号を狙って、大きく点数を稼ぎたいが、赤か白を選んで、地味に稼ぐのもいいと思う。俺は適当に直感で数字を選んだ。それを五回やって、決着がつく。俺の手持ちは五百、彼女の手持ちは二千出だ。俺の負けである。それで、そのゲームの決着がついた。俺の全敗で負けだった。
「楽しかったぁ。私は少し休みますね。皆さんと会いましたか」
「今から、来織に会いにいくよ」
「それでしたら、彼女はシューティングゲームをやってましたよ。あの、銃を使ってやるやつです」
俺は彼女にお礼を言って、彼女を探しに出た。
彼女はシューティングゲームをやっていた。黙々と、構えた銃を格好良く画面に向けている。ゲームからはマシンガンのような音がしているので、今は戦闘中なのかもしれない。俺は挨拶もしないで、彼女の隣に立って、作り物のマシンガンを手に取った。思ったより重かったが、簡単に構えられる。よし。スタートボタンを押すと、彼女の操っていたであろうキャラクターの隣にもう一人現れた。これが多分俺なんだろう。敵っぽいやつを銃で撃っていく。マシンガンの反動は俺の手には来ないので、遠慮なく、乱射できる。彼女を援護するようにゲームを進めていく。イベントが発生しているときに彼女の顔を見ると楽しそうにしていた。久しぶりにその遠慮のない元気な笑顔を見せている。やはり、この顔の方が彼女らしいと思う。それから、彼女は敵を倒すたびによし、や、やった、などの声を上げて、楽しんでいた。
「あー、楽しかったぁ。次は何しようかな」
元気な声を上げて、次のゲームを選んでいる。この調子でいれば、今日中には元気になっていつのも遠慮のない来織に戻ってくれるはずだ。次のゲームを決めたのか、彼女は走って向かっていった。俺もそれに続いた。
今度はレースゲームだった。俺は家では結構やるが、こういうハンドルで操作するようなものは苦手だ。それでも彼女が楽しそうだし、わざわざ俺が苦手だからと言って逃げることでもないだろう。決してこれは勝てなかった時の良いわけではないのだ。
「あっきー、私が勝つからね」
ゲーム終了後、彼女はその宣言をしっかりと守っていた。
ゲームが終わると、終わるのを待っていたのか、織姫が近づいてきた。
「来織、次は私と遊びましょう」
来織は動かずに、うつむいてしまった。さっきの楽しそうな笑顔もなくなっている。
「来織、わたくしと遊ぶのは嫌ですか」
聞かれた彼女は首を振る。
「そうですか。それを聞いて安心しました。では、早く遊びましょう。時間は限られているのですから」
そう言って、俺に一瞬目を合わせて、歩いていった。どうやら、彼女を連れて来いという合図だったらしい。仕方ないな。
「来織、せっかくだ。皆とも遊ぼう。何か気にしてるのかもしれないが、この場だけはちゃんと皆と遊ぼう」
このまま遊び続けて、また前に見せてくれていた笑顔を見せてほしいと思う。
織姫は遠慮なく、来織を連れまわした。それはゲームコーナーに収まらず、ビリヤードやダーツ、テニスにアーチェリーと一度やったものにも行った。織姫のその行動は前の来織の姿に似ていた。心なしか、俺には来織に遠慮してほしくないと言っているように見えた。
「お、織姫。ちょっと休憩しようよ。疲れちゃったよ」
来織がそう言うまで、俺たちは連れまわされた。
「来織、遠慮はいりません。今のわたくしみたいにもっとわがままでもなんでもいいんです。わたくしは元気なあなたが見たいのです。きっと、他の人もそう思っているでしょう」
休憩中、彼女は来織にそう言っていた。その顔には優しさがあった。
「あ、来織だ」
「ほんとだ。織姫と在来君もいる」
ゲームコーナーから出てきた灯勇、姫灯に出会った。彼女たちは俺たちの正面にあるベンチに座って休憩するようだった。
「来織、次は何する?」
「私も一緒に行きたい!」
少し元気になっていた彼女は驚いた顔をしていた。きっと、酷いこと言ったのに何故こんなに笑顔で話しかけてくるのかとか考えているのだろう。俺は小声で、隣にいる彼女だけに聞こえるような小さな声で言った。
「遠慮はいらない。思うままに言ってみろ」
聞こえていたのかいなかったのか、それは聞いていないからわからない。それでも、この場所を出るときには彼女は元気な笑顔を俺たち全員に見せていた。それを見れば、心配なんていらないだろう。
続く




