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糖度100パーセント  作者: リクルート
60/70

在来のいない日常 ー勇在ー

 愛情――それは私には一向にわからなかったもの。友情――それは私には一切関係のなかったもの。

 青春。恋。汗と血の結晶。努力。熱血。根性。そう言う青臭いと言われるような言葉とは無縁な私。入る必要のなかった高校に通ってもう三年。青臭い言葉は一切なく、高校に入ろうと入るまいと結局は何も変わらなかった気さえする。というのも、自分で言うのもなんだが、私は天才というものらしい。それも努力を努力とも思わず、気づけば知識が倍以上になっているような。例えば、私以外の誰かが一時間努力したとしよう。私が同じ時間努力すればそれの二倍三倍の効果があるらしい。それゆえ、私についたあだ名は「天才殺しの天才」だ。そう呼ばれるのは仕方ない。たとえ、その分野で天才と呼ばれる人でも私は簡単に、まるでノブを回してドアを開けるかのように抜かしてしまうのだ。これは天才自慢ではない。天災自慢だ。天が私だけに与えた天災。ふふ、うまく言えた気がする。


「勇在、三年になったな。約束は覚えているかい」

 その言葉は私に衝撃を与えた。しかし、私は動揺せずに答えた。

「覚えているよ、お父さん。私の高校生活は夏まで。それからは研究に専念、だろう」

 簡単な約束。青い体験をしてみたくて、高校に行かせてもらっていたが、未練もない。一応、話を聞いてくれる友達はできた。名前は辺泥在来。私となんの嫌味もなく、話してくれる唯一の友達。しかし、彼には他にも友達がいる。というか、噂では全員恋人だそうだが、この日本でそんなのは噂でしか収まらない。それに、彼に会いたければ、いつでも会えるようになるのだ。研究に専念と言っても、監禁されるわけでもない。いつでも好きな時に外に出ても良いと父も言っている。彼曰く、発明には発明以外に没頭することも必要だそうだ。

「わかっているならいいか。それよりももし、友達でもいるのなら、学校をやめる事ぐらい話しておきなさい。言わずに去るの失礼だ」

 父がそんなこと言うのは珍しい。私に社会常識を教えてくれたのは母だったから。ちなみに母は一人でハワイにいる。父が研究室にいるときに、勝手に行ってしまったらしい。そのときの父の寂しそうな顔は忘れられそうもない。両親は中が悪いわけではないが、いたずらの規模が大きい時がある。それだけだ。かくいう私も父と画策し、母にドッキリを仕掛けたことがある。まぁ、母には一瞬で見破られたが。

「わかった。ちゃんと言うよ」

 その言葉を確認すると父は家の一番奥の研究部屋に引っ込んでいった。


 翌日、学校へと向かう。彼と図書館で会ってから、何日間か一緒に居たが、どうやら私にだけ構ってくれる時間は過ぎてしまったらしい。少し寂しくはあるが、彼にも事情があるのだ、仕方あるまい。気にしていても仕方ないので、私は今日も一人、図書館で過ごそう。


 授業には出たほうがいい。そう言っていたのは母だ。それでも私にはあんなつまらない教育の何が私にいい影響を与えるのかわからず、一切出ていない。何やら、一般常識とか言うものが付くらしいが研究しかしない私には必要のないものと思っている。まぁ、研究職でも人とは話すことがあるのでマナーくらいは覚えたが。それにしてもこの図書館の本もほとんど理解しつくした。小説は呼んでいないけれど、知識を蓄えられそうな本は読みつくした。本当は三年もかかるはずはなかったのだが、どうせ余裕はあるし、と考えてゆっくりと呼んでいたのだ。

 今日も昨日と変わりなく放課後が訪れた。今日は彼は来るのだろうか。いや、来ないか。昨日の放課後は何か青い顔をしていたし、その前に彼を呼んだ女生徒とは仲が良かったはずだ。何か問題が発生したのかもしれない。それなら、彼は今日、解決を試みようとするはず。それなら私のところには来れないだろう。そう結論付けると、何かが私に寂しいと思わせた。


 いつの間にか放課後からさらに時間が経っていたらしい。夕日はさらに傾いて、日が沈んでいく。そろそろ帰ろうか。


 玄関で靴を履き替える。外からは誰かが誰かに向かって話している。ここから校門まではたいして離れていないので、校門前で話している人の声は玄関まで届く。その声の主は辺泥在来。何やら謝っているようだ。昨日の件に関係しているのだろうか。女生徒は真剣に彼の話を聞いている。

 靴は履き替えたのだが、彼の話に興味が湧いていた。今出ていけば彼は話を中断するだろうから、悪いとは思いつつも、盗み聞きをしてしまう。私はこの好奇心を抑えきれない自分が嫌いではない。

 どうやら、私の事も話の中に出ているらしい。私と彼はただの友達でしかない。それを何か彼女たちが嫉妬したのだろうか。

 彼は私を友人で放っておけないと思っているらしい。それは嬉しいと素直に思うな。

 彼が話し終わると、女生徒の後ろからさらに二人の女生徒が現れた。彼女たちも彼を取り巻く二人だったと記憶している。彼女たちは泣きだして、彼に抱き着いた。私の胸に静電気のような痛みが走る。私はそれを何かの病気かと思ったが、一瞬の事で考えることをやめた。気にすることでもなさそうだ。

 どうやら、話もひと段落したようだ。私もそろそろ帰ろうか。私は玄関から出て、彼らに気づかないふりをして、歩いた。

 しかし、彼は私に気づいて、その名前を呼ぶ。私はそれにさも今気づきましたよ、という風を装って、彼の方を向く。彼は私を隣にいた女生徒三人に紹介したいらしい。特に困ったことはないが、さてどうするか。いや、待て。私の知らない感情を知っている彼女たちにはかなり興味があるな。近くで見てみるか。私はそこまで考えて、ある程度疑われないように言葉を話す。幸い私の言動に不備はなく彼女たちも私と友達になることを拒まなかった。


 それにしても、欲しい時には手に入らなくて、気にしてないときに手に入るものか、友達というのは。いや、なるべくしてなるという方が正解か。つまり、私が小学生のころに辺泥在来達に会っていれば、彼とは今も友達だったかもしれないということか。今更、検証することはできないが。では、これから彼女たちの観察と行きましょうか。

 そう考えていても、何故かあの時、胸を走った静電気の痛みは忘れることができなかった。

長い間、書いてきましたこの話。長々とやっていますがちゃんと終わりはあります。というか、クライマックスの方は考えてありますので、どうか最後までお付き合いお願いします。

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