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糖度100パーセント  作者: リクルート
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逃走

 逃げる方法を考えていた。押入れの戸はもう俺自身でも開けられる。手が解放されているからだ。彼女は今、この部屋にいない。何をしにいったのかはわからない。しかし、逃げるのなら今のうちだ。


 まずは足を縛っているのは縄を解かなければいけない。しかし、切るものなんて持っていなかった。手は動くが簡単に解けるように結ばれていない。時間をかければ素手で見解けるかもしれないが、彼女がいつ戻ってくるのかわからない今、時間がかかるような方法はやめたほうがよさそうだ。解こうとしているのが見つかって、解かれる前よりも固く結ばれてしまったら逃げ出すのにさらに時間がかかってしまう。他には何かあるか。俺は履いているズボンのポケットを探った。あの来織が俺を気絶させた日から、服装が変わっていない。結構汚れているが気にしていられる状況ではない。ポケットの中には使えそうなものは入ってなかった。飴の包み紙に、あと一枚になったポケットティッシュ、使いかけの消しゴム。無くしていたと思っていた消しゴムがこんなところにあったのか。何度か一緒に洗濯しているはずだ。まぁ、今見つかっても仕方ない。これだけでは脱出できるはずがない。やはり縄を解くしかないのか。


 縄は何重にも結ばれている。結び目に爪を入れて何度も緩くしようと試みた。緩くなっている実感はあるが、片方を解く前に彼女が戻ってくる方が早い気がする。急がなければ。


 多分、時間は夜になっているはずだ。なぜわかるのかというと、部屋の中で電気がついていないので、俺のいる場所も真っ暗になっているからだ。来織は未だ戻って来ない。何をしているのだろうか。暗くなっても外にいるのだとしたら、危ないな。いや、まずは自分の心配をした方がいいのか。しばらく縄を弄っていた。実は右足だけは解けている。この状態で来織と遭遇すれば言い逃れができない。あぁ、今のフラグになりそうだなぁ。と呑気なことを考えていた。この状態にもなれたのかもしれない。それに犯人が幼馴染というのも、心を軽くしている原因なのかもしれないが。そんなことを考えているうちに、左足の縄も解けた。俺は小さくガッツポーズをした。あとはこの押入れの外がどうなっているのか。それに気をつけて脱出しよう。


 押入れの戸の隙間から外の様子を見る。特に異常はなさそうだ。来織もここにはいない。俺は押入れから部屋に出た。見覚えのある部屋だ。ん、見覚えあるどころか、来織の部屋だ。まさか自分の家に監禁するとは、何を考えているのだろうか。簡単にバレそうでバレないということか。ことわざにもある。灯台下暗し。

 状況から見ると自分の家はすぐそこなのだ。この窓から俺の家の庭の気に飛び移れば、簡単に脱出できる。しかし、拉致された場所が家の中なのだ。何をしたのか、知らないが来織は簡単に俺の家に入れるらしい。思えば、何度か玄関の扉が開いていたことがあった。不思議に思っていたが、まさか彼女だったとは。泥棒でなくてよかったとは思うが、来織が犯人だということに衝撃を受けていた。何とも複雑な気持ちだ。つまり家にいても俺の身は安全ではないのだ。来織を説得して納得させなければ、同じことは起こるに決まっている。


 納得させる考えが浮かぶまで、外には出ずに来織の部屋で考えていた。もし見つかっても、話をすることが最もやるべきことな気がするのだ。考えを巡らせていると階段を上がってくる誰かの足音が聞こえた。扉の前あたりで足音が止まった。ドアノブが回った。扉が開かれていく。来織がそこにいるのかと思っていたが意外な人物がそこにいた。織姫である。

「あきくん、大丈夫ですか」

 彼女の後ろには灯勇と姫灯がいた。来織はそこにはいなかった。


 それから俺は彼女の家を玄関から普通に出た。靴も彼女たちが持ってきてくれたらしい。

「な、なぁ。どうして俺がこうなってるってわかったんだ」

「簡単。連絡がつかなくなった」

「それがきっかけで、在来君を探したの」

「何とか見つかってよかったです。せっかく仲直りしたのに、あのまま別れてしまうのは嫌ですから」

 頼りになるなぁ、この人たち。三人は出会った頃より確実に変わっていると思う。少なくとも悪い方向にはいってないはずだ。

 俺の家に戻ろうとすると、玄関前に彼女がいた。

「あっきーは私のなの。あなたたちは離れてよ」

 どこに行っているのかと思っていたが、玄関前に張っていたのか。 夏が近いとはいえ、まだ夜は寒い。

「来織、風邪引くぞ。まだまだ夜は寒いからな」

 来織は特に何も反応しなかった。織姫たちを見つめている。そこにどんな意味があるのか、俺には知りようもない。

「なぁ、来織。もういいだろ。俺たちはみんなで遊んだ仲だろ。俺のこと好きなら仲良くしようって言ったのは、来織だろう。だからさ、ちゃんと謝ってそれで終わりにしよう」

 来織は俺に視線を向けた。


「あっきーは何も知らない。私のことも。他人(ひと)のことも。わかってほしいことは一切わかってくれない。どれだけあっきーを好きかわかってない。どれだけ嫉妬してるかをわかってない。どれだけ、寂しいか、わかってない。仲良くしようって言ったのは、漫画でそう言っていたから。それが普通だってことなのかと思ってた。だけど、それはやっぱり漫画の中の話で、現実でも仲良くするのは無理だってわかった。だから、私はあっきーを独り占めにするんだ。これからは私だけを見て。私もあっきーだけを見るからっ!」


 きっと、俺が無理をさせていたのだ。彼女の心はきっとあの時から、織姫を友達にした時から、軋み始めていた。それに気がつかなくて、壊れた。彼女が理性で押しとどめていたものが溢れ出した。悪いのは俺。だけど、俺は来織だけを好きになるのは今はもう無理だ。みんなが大切。織姫、灯勇、姫灯、本名先輩、そして、来織。監禁されたのは俺の自業自得。それなら、俺は彼女たちに告げなくてはならないだろう。俺が今まで悩んできて、未だ正解なのかわからないけれど、俺自身の決意を彼女たちに聞いてほしい。しかし、今は一人、足りない。だから、今は言えない。

続く

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